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第26話 皇帝たる者、外交問題にも取り組まねば!

 メギドア帝国は大国である。歴史は長く国土も他国に比べ広く、周辺国家の中では一番といえる国力を蓄えていることは間違いない。

 しかし、並ぶ者がないかというと、決してそういうこともない。帝国もまた、東西から二つの強国に挟まれるという立場にあった。


 一つは東のフェザード女王国。名前の通り代々女王が治める国家で、特に魔法研究が盛んであり、精鋭の魔法兵団は侮れない戦力を誇る。

 もう一つは西のガイン王国。硬骨という言葉の似合う騎士の国であり、武芸も奨励されており、兵士一人一人の練度という点ではメギドア帝国軍を凌ぐかもしれない。


 メギドア帝国は長らく二つの国家とは共存してきた。

 といっても二人三脚ならぬ三国四脚でやってきたわけではない。さまざまな摩擦や小競り合いを繰り返し、しかしどうにか大きな戦争だけはせず、といった具合である。


 メギドア帝国は経験豊富な先代皇帝が早逝し、皇帝は若きアーティスとなった。


 二国にとってはいわばチャンスともいえる。この若き皇帝に上手く付け込めば、今後の帝国との外交もやりやすくなる。


 アーティスに試練の時が訪れる。



***



 帝国の上層部は色めきだっていた。

 フェザード女王国との国境で、両国兵士の衝突が起こったというのだ。死者などは出ていないが、戦争の火種になってもおかしくない出来事である。

 どちらの兵士も「向こうが先に仕掛けた」と主張しており、この点に決着をつけることは難しそうだ。


 フェザード女王国はあくまでこちらが正しいとして、国境付近からのメギドア軍の撤退や多額の賠償金を要求している。さもなくば、帝国との関係に亀裂が入ることもかまわないという。


 頭を抱える重臣たち。ボルツがアーティスに自分の考えを述べる。


「これはおそらくフェザードの女王が、陛下を与しやすいと見て、無茶な要求をしているのでしょうな」


「だろうな。父上が亡くなって、皇帝になったのは俺みたいな若造だ。ここでガツンとやっとけば、俺がビビって以後強気に出れなくなるとでも思ってるんだろ」


「ほぉー」


「なんだよ?」


「漫画ばかり読んでるかと思えば、陛下も成長されましたな」


「いや、これぐらい分かるから!」


「失礼しました。それでいかがなさいますか。ここは使者を送って様子見を……」


「いいや、そんなんじゃますます付け込まれるだろ。会談を申し込みたい」


「会談を……!」


「ああ、俺とあっちの女王できっちり話し合うんだ。場所は……両国の国境付近に砦があったろ。そこでいいんじゃないか?」


「しかし陛下、もし直接話し合って口で言い負かされるようなことがあれば、フェザードとの関係は決定的に悪化します」


 君主同士の話し合いには当然リスクもある。そこで格付けが決まってしまう恐れもある。


「だよな。イディスなら何とかできそうなもんだが……そうだ、あいつに皇帝の服を着せて……」


「バレたら大問題ですよ」


「分かってるよ、冗談だよ冗談!」


「あなたは本当にやりかねませんからな」


「とにかく、フェザードの女王と会談をセッティングしてくれ。向こうとしても乗ってくるだろ」


「分かりました」


 ボルツはフェザード女王国の大臣と交渉し、どうにか君主同士の会談を設けることに成功した。

 会談は間違いなく険悪なものとなる。

 ボルツは「ここが正念場ですよ、陛下」と心の中でつぶやいた。



***



 会談までに少しでも手札は増やしておきたい。帝国上層部も情報収集に努めるが、やはり「どちらの兵士が先に仕掛けたか」という点をはっきりさせるのは無理そうだと分かった。

 初めて直面する外国との本格的な国際問題に、アーティスも頭を悩ませる。

 レイラがミグを連れてやってきた。


「はい、アーティスさま。コーヒー!」


「ありがとう」


 ミグの入れてくれたコーヒーを飲む。

 カフェインでいくらか頭は冴えるが、妙案は沸いてこない。


「お悩みのようですね、アーティス様」


「ああ、厄介な隣人トラブルってやつさ」


「ふふっ、アーティス様らしい」


 国同士の諍いを隣人トラブルにたとえるアーティスに、レイラは微笑む。


「だけど悩んでいるアーティス様はアーティス様らしくないですね」


「俺もそう思う」


 アーティスも悩むのは自分らしくないという自覚があったらしい。とはいえ国の一大事、悩まずにはいられない。


「だから! 私が聖女として元気づけてあげます!」


「うお!?」


 いきなり張り切り出したレイラに、アーティスも驚く。


「アーティス様頑張れーっ! アーティス様頑張れーっ!」


 虚空に拳を振るうレイラ。正拳突きでアーティスを鼓舞しようとしている。

 唖然とするアーティスとミグ。


「アーティス様、隣人トラブルなんかやっつけろーっ!」


 さらにダンスを踊り出す。激しい身振り手振りをしつつ、華麗なステップを踏んでいる。


「これ、私がいた教会に伝わるダンスです! ベルグ大司教様はもっと上手でしたけど……」


 ベルグ大司教、こんなダンスするんだ……とアーティスは皺の深い大司教に思いを巡らせる。


 そして――


「なんか……元気出てきた!」


「でしょう!?」


 レイラの応援で、アーティスは発奮することができた。

 ミグも二人の様子にニヤニヤしている。


「ありがとう、レイラ。フェザード女王国の女王となんとかやり合ってみるよ」


「はいっ! 私、どこまでもついていきます!」


「ああ、ついてきてくれ!」


 手を握り、視線を合わせる二人。


「陛下……ちょっとお話が……」


 そこへボルツがやってくる。慌ててミグが立ちふさがる。


「ボルツさま、今いいところだから!」


 ボルツも二人を見て察する。


「今の陛下には私などのアドバイスより、レイラ殿の癒しが必要なようだな」



***



 会談当日、フェザード女王国との国境近くのメギドア軍の砦。

 メギドア帝国からは皇帝アーティス、宰相ボルツと幾人かの重臣、さらに護衛として軍団長ゴランと数名の精鋭。そして、聖女レイラの姿があった。


 ゴランが胸を張る。


「陛下、いざという時はこのゴラン、命を賭して戦いますので!」


「おいおい戦争しに来たわけじゃないんだから」


 アーティスがたしなめる。


 砦の中には武骨な作りながら、広い食堂がある。

 おあつらえ向きな長テーブルもあり、女王との会談はそこで行われることになっている。


 アーティスらが席について待っていると、まもなく女王がやってきた。

 フェザード女王国現女王イザベラ・ファルス。

 長いウェーブがかった黒髪と妖艶な美貌を持つ女傑である。年は30代だが、10代と言われても50代だと言われても納得してしまいそうな、どこか人間離れした雰囲気を持つ。

 さらに魔法の達人でもあり、「魔女」と恐れられる一面も持っている。青紫色のドレスがその異名を補強している。


「メギドア帝国皇帝アーティス・メイギスだ」


「フェザード女王国女王イザベラ・ファルスだ」


 二人の君主が睨み合い、異様な緊張感に包まれる。両者まずはにこやかに握手、などというつもりはない。


 しかし、そんな空気の中、レイラは恍惚とした表情でイザベラを見つめる。


「なんだ、この娘は? 私をじろじろ見て」


「あ、私、レイラ・ローズと申します! 聖女です!」


 聖女とはいえ平民が、君主に馴れ馴れしく話しかけてしまった。

 アーティス以外のメギドアの面々は青ざめる。アーティスは「レイラらしい」と内心ほくそ笑む。


「なぜ私を見つめた?」


「とてもお綺麗だな……と思いまして」


 これを聞いて、イザベラは目を丸くする。


「私を綺麗だと……ふん、そんなこと言われても、態度を柔らかくなどせんからな!」


「すみません!」


 どう見ても喜んでいるイザベラを見て、アーティスらは「こんな一面もある女王なのか」と思うのだった。

 会談はまだまだ始まったばかりである。

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