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第25話 悩める聖女を励ますのも皇帝の仕事だ!

 エンペラードラゴンの件からしばらくして、アーティスはレイラとミグを連れて、闘技場観戦に来ていた。


 試合場では若き剣闘士ヒリアムが、格上とされる剣闘士を圧倒していた。


「はぁぁっ!」


 気合のこもった一撃が相手の鳩尾に炸裂し、勝負あり。

 観客席は沸き上がった。

 戦えば連戦連勝、今やヒリアムは闘技場の新たなスターとなっていた。


 試合後、アーティスはヒリアムにこっそり会いに行く。


「試合観てたぞ。よくやった」


「ありがとうございます、陛下」


 皇帝アーティスの登場に委縮してしまうようなこともない。威風堂々とした態度を見せる。


「かっこよかったですよ。相手もとても強かったのに!」まだ興奮気味のレイラ。


「ホントホント!」ミグも同意する。


「このままいけば、近いうちにバイロンさんへの挑戦権を得られると思います。それまでなんとか勝ち続けたいですね」


 爽やかな笑顔で王者への野心も口にする。本当に成長したんだな、とアーティスは実感する。


「しかし、俺がお前に勝ったことがあるということだけは決して忘れないで欲しい」


「わ、忘れないですよ!」


 成長が寂しくもあるので、自分がかつてお前に勝ったアピールも忘れない。

 これにミグは驚く。


「えー、アーティスさま、ホントにこの人に勝ったの?」


「ああ、勝ったぞ。もちろん皇帝という忖度なしでな」


「ウッソー、信じられない! どんな卑怯なことしたの?」


「してないって! 紛れもない実力だから!」


「例えば剣に毒を仕込んだとか……」


「ミグ、お前給料減らすからな!」


「暴君!」


 アーティスとミグが口論し、ヒリアムは慌てて仲裁に入る。

 レイラは二人の様子を穏やかな笑顔で眺めていた。

 普段ならレイラも止めに入るのに、とアーティスは不思議がった。



***



 帰り道、アーティスらは露店で買ったクレープを食べながら城へと歩く。


「ミグ、クレープおいしいだろ」


「おいしー!」


「レイラもうまいだろ?」


「……」


 レイラは黙々と食べている。いかにも機械的で、味わってすらいないような食べ方だ。


「レイラ?」


「あっ、はいっ! なんでしょうか!?」


「うまいか?」


「はい、とてもおいしいです! おいしすぎてつい夢中で……」


「……」


 こういう時のアーティスは鋭い。レイラの異変にすぐに気づいた。


「レイラ」


「は、はい?」


「何か悩みがあるんだったら聞くぞ」


「アーティス様……」


「俺は皇帝だ。どんな悩みでも聞いてやる! 解決できるかは……分からないけど。だけど民の、ましていつも一緒にいるレイラの悩みぐらいはきちんと聞いてやれる皇帝になりたいんだ」


「はい……!」


 アーティスの懇願に、レイラも悩みを打ち明ける決心をする。


「じゃ、あたし、あっちでクレープ食べてるね!」


 ミグは空気を察して、どこかに立ち去ってしまう。


「ミグちゃんたら……」


 ミグのませた気遣いに苦笑しつつ、レイラが話し始める。


「先ほどのヒリアムさん、アーティス様に救われたんですよね」


「ん? ああ、救ったっていうか、元々あいつはあれだけ強かったっていうか」


「この間のエンペラードラゴンさんの件もそうでした。アーティス様は堂々と話し合い、そして事態を収拾なされました」


「ありがとう」


 悩みを聞くはずが褒められてしまい、アーティスは話が見えない。レイラは本題を切り出す。


「それに引き換え、私はどうでしょう。いつもアーティス様のそばにいながら、全然力になれていない」


 エンペラードラゴンの件を思い返すレイラ。


「あの時もそうでした。アーティス様が自分の命を捧げるといった時、私はハッとしたんです。罪のために命を捧げる。これは聖女の役割じゃないのかと。だけど私には言い出せなかった。アーティス様に言わせてしまったんです」


 天真爛漫に見えるレイラだがアーティスに仕え、奇行や綱渡りをしつつも国を救っていく姿を見て、ずっと焦りのようなものを感じていたのだろう。


「私は……アーティス様のお役に立てているんでしょうか」


 レイラがアーティスを見ると、アーティスはピンとこないといった表情をしていた。


「アーティス様……?」


「あ、いや、すまない。今の話を聞いていて、思ったことがある」


「なんでしょう?」


「俺はこれでも皇帝だ。この国で一番偉い。だから臣下の者たちにはこいつは役に立つ、立たないの目で見なきゃならない部分がある。たとえボルツだって、あいつがとんでもないことやらかしたら、俺は解任しなきゃならない立場だ。まああいつ、俺が『俺を操り人形にして好きにやれ』って命じても、むしろ俺を教育してきたけどさ」


 当時を思い出し、アーティスはけらけらと笑う。


「でもレイラを……そういう目で見たことなかったなぁって思ってさ」


 どういうことだろう、とレイラはきょとんとする。


「最初はさ、お前のこと『変な聖女だなぁ』って思ってたわけよ。聖女なのにやたら明るいし、拳で戦うし」


 初めて教会で会った時のことを思い出す。

 アーティスは当初レイラを聖女らしくないと軽視していた。さほど興味もなかった。しかし、一緒に強盗を改心させ、その人柄に惚れ込み、城に来ないかと誘った。


「だけど、いつもレイラは俺についてきてくれて、なんかこう……俺にとって欠かせない存在になってた。役に立つとか立たないとかそんな次元じゃないというか。レイラがいないと嫌だなって感じになってた」


 アーティスはここでふと気づく。レイラがいると嬉しいと言ってるだけで、レイラについて全然褒めてないではないか、と。


「あ、いや! レイラはいつもみんなのこと癒やしてくれて、護衛もやってくれて、エンペラードラゴンの時なんか俺のことを熱心に話してくれて……」


 アーティスがレイラを見ると、すでに彼女の顔は明るさを取り戻していた。陽光のような暖かな笑顔だった。


「レイラ……?」


「私、すっかり元気になりました! これからもよろしくお願いしますね、アーティス様!」


「よ、よろしく」


 レイラは嬉しかった。

 アーティスから「役に立つとか立たないとか関係なしに傍にいて欲しい」と言われたことが。しかし、その気持ちがなんなのかは自分自身でもよく分からなかった。


 ポカンとしているアーティスとほのかに赤くなったレイラを見て、ミグは肩をすくめる。


「皇帝と聖女か……肩書きは申し分ないね。だけどあの二人、時間かかりそう……」

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