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第21話 帝国内に邪教がはびこってるなら叩き潰さねば!

 メギドア帝国城内の会議室にて、重臣の一人が報告を上げる。


「帝都時計台の補修工事は滞りなく終了いたしました。魔法科学研究所のゴーレムがよく働いてくれ……」


「レムレムな」アーティスが訂正する。


「失礼しました。レムレムがよく働いてくれまして……」


 頑張ってるようだなレムレムと、アーティスは満足そうにうなずく。


 こんな調子で会議は進み、気になる話題が飛び出した。


「邪神を崇める教団?」


「はい、邪神グモリアという神を崇めているとかなんとか」


「邪神……か」


 響きからして不吉である。アーティスも眉をひそめる。

 ボルツが提案する。


「いかがでしょう。帝都から調査団を派遣するというのは」


「いや、それには及ばん」


「なぜです?」


「だって……俺が調査するからだ!」


「は!?」


 いつものことであるが、やはりこうなるのだった。


「一応聞きます。陛下、なぜあなたが?」


「皇帝はこういう時、率先して動くものだろう?」


「動かないと思いますが……」


「それにボルツ、“皇帝vs邪神”なんてめちゃくちゃワクワクするだろ!」


「ほんの一瞬不覚にもワクワクしてしまった自分がいましたよ」


「というわけだ。明日、さっそくその邪神を崇める教団とやらに乗り込むぞ!」


 一連のやり取りを重臣たちは「まあいつものことだ」という表情で眺めていた。



***



 教団の名は『グモリア教団』、帝都近くの町に暗黒の神殿といった風貌のアジトを建てていた。


「ここか……」


「はい、町民からの入信する者も増えているようで」


「民衆を邪神の生贄にする、なんて展開が予測できるな」


 ついてきたレイラとミグもはりきる。


「聖女としては邪神なんて放っておけませんからね!」


「レイラさまはやっぱり邪神を倒すつもりなの?」


「邪神にとりこまれて、邪聖女になるのも悪くないかも!」


 これを聞いて、アーティスも謎の対抗心を発揮する。


「レイラが邪聖女なら、俺は邪皇帝を目指すぞ!」


「なにが邪皇帝ですか、まったく」


 呆れ顔をしつつ、ボルツは内心「邪宰相……ちょっといいかも」と思うのだった。


 グモリア教団の長はネファーゾという男だった。

 黒いローブに身を包み、長い鼻を持ついかにも怪しい中年男である。


「ようこそいらっしゃいました。帝国からの視察団だとか」


「ああ、俺は帝国皇帝アーティス・メイギスだ!」


 この自己紹介にネファーゾも目を白黒させた。


「皇帝陛下!?」


「皇帝が来ちゃ悪いか?」


「いや、悪くはないですけど、普通皇帝自ら来ませんよね」


 その通りだと内心うなずくボルツ。

 アーティスはかまわず話を進める。


「この宗教団体では、邪神を崇めているとか」


「ええ、しかし信教の自由はメギドアでは認められているはずです。実際、メギドア内には数多くの宗教が存在しています。そうでしょう?」


「その通り! 俺も『アーティス教』ってのを作ろうとして、ボルツに怒られたことあるし!」


 アーティスの奇行を思い出し、ボルツは額に手を当てる。


「とにかく、施設を見せてくれ。やましいことがないなら見せられるだろ?」


「いいでしょう」


 ネファーゾも堂々としており、やましいことなどないという態度である。

 施設内の通路を歩き、ネファーゾが立ち止まる。


「まず、こちらが信者同士で語り合う部屋となります」


 中ではいかにも町民といった人間たちが世間話をしていた。

 とても邪神を崇める集団とは思えない。


「なんだよ、これ」


「ですから信者が語らう場所です」


「語らう場所って、フツーの世間話してるけど。あそこのおばちゃん、お菓子食ってるし」


「それでよいのです」


 しかも――


「そうなんですよ、聖女も色々と大変なんです! 人を生き返らせるなんて無理なのに、お願いしますって頼まれたり……」


「侍女もたいへーん! お城は広いし、お仕事たくさんあるんだから!」


 いつの間にかレイラとミグも会話に混ざっている。


「二人とも!」叫ぶボルツ。


「あの二人は信者じゃないけど混ざっちゃって大丈夫なのか?」


 アーティスが尋ねるとネファーゾはうなずいた。


「もちろんです。来る者は拒まず、去る者は追わず、ですから」


 想像と全く違うグモリア教団の姿に、ボルツはもちろんアーティスも困惑する。


「なんだかずいぶん想像と違くないか?」


「油断するのはまだ早いですよ、陛下」


「え」


「教義や儀式を緩やかにして信者を獲得しようとするのは、新興の宗教団体では常套手段ですから」


「ああ、たしかに」


 ボルツのいうことにも一理ある。教義を易しくしたり、煩雑な儀式を省いたりして、庶民らを入信させようとするのはよくあることである。


 アーティスがネファーゾに目をやる。


「だが、さぞかしお布施ってやつは取ってるんだろ?」


「いいえ。納めるも納めないも自由です」


 この回答にアーティスは目を見張る。


「なにい!? だったらこの教団はどうやって運営してるんだよ! この建物だって……!」


「この建物は元々あったのを少し改造しただけですし、そもそも私、他に仕事がありますしね」


「副業があるのか!」


「というより、どちらかといえば教祖こちらが副業ですね。私、大工なんです」


「なにいいいい!?」


 グモリア教団の教祖ネファーゾは大工だった。大工ならば打ち捨てられた建物を神殿のように改装することもできる。

 大工趣味を持つボルツは、その仕事ぶりを高く評価した。


「しかし、なぜ大工が邪神を崇める宗教など……」とボルツ。


「だって……邪神様に頼まれちゃいましたから」


「へ?」アーティスが目を丸くする。


「神様から直接頼まれたら、宗教を立ち上げないわけにはいかんでしょう」


「ちょっと待て。邪神はいるのか?」


「いますよ」


 ネファーゾはあっさり答えた。


「今からお会いしますか。グモリア様と」


 アーティスとボルツは顔を向き合わせると、同時に「お会いします」と答えた。

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