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第19話 皇帝は権力のために不老不死を目指さなきゃな!

 不老不死――老いもせず、死にもしない境地。

 誰もが一度は憧れる概念であろう。

 特に権力者ならば、その権力を永遠のものにしたいと願うのは当然といえる。


 大国メギドア帝国皇帝アーティスも例外ではなかった。


「不老不死になりたい!」


 突然のこの言葉にボルツも呆れる。


「いきなり何を言い出すかと思えば……」


「古来より、権力者ってのは“不老不死”を追い求めるものだ。だから俺も追い求めなきゃと思ってさ」


「その動機がまずおかしいですよ」


「いや、皇帝ってのは不老不死を求めるものだと思うんだ。つまりだな、不老不死を求めたことで、さらに皇帝として進化できるというか……」


「はぁ」


 ボルツはすでにアーティスの話を真面目に聞いていない。真面目に聞いたところでバカを見るからだ。


「というわけで、後で図書館に行ってこようと思う。色々不老不死の文献を探るんだ!」


「いいですけど、ちゃんと政務をこなしてからにして下さいね」


「分かってるって!」


 その後、帝都図書館に出向いたアーティスは女司書フローラの力も借りて、不老不死関連の文献を読み漁った。

 そして――


「おおっ!」


「陛下、どうなさいました?」


「フローラ、この本借りるぞ! 俺は不老不死になる!」



***



 アーティスが借りた本は次のようなものだった。

 メギドア帝国の伝説・伝承が数々書かれており、その中に『不老不死島』の伝説が載っていたのだ。

 メギドア近海のどこかにあるその不老不死島には仙人が住んでおり、不老不死の妙薬を持っているという。


「どうだ、ボルツ。この『不老不死島』に行けば俺は不老不死になれる!」


「なんですかこれ、うさん臭すぎますよ! というかこんな島があったらとっくに発見されてるはずですよ!」


「分かってないな、島に行くにはきっと特殊な条件があるんだよ」


「なんですか、特殊な条件って」


「ほら……ある場所で呪文を唱えるとか」


「ある場所ってどこです? 呪文ってなんです?」


「知らん」


「ダメじゃないですか!」


 もっともなボルツの意見だが、アーティスは諦めない。


「とにかく、近海にあるのは間違いないんだ。この島を目指そう!」


「あぁ、もう。分かりましたよ、手配いたしましょう」


 半ばヤケクソ気味にボルツは命令を受け入れる。


「さすがボルツ!」


 近くで会話を聞いていたレイラとミグも乗り気である。


「私も行きたいです、アーティス様!」


「あたしもー!」


「おう来い来い! 四人で不老不死になるんだ!」


「四人ってことは、当たり前のように私も含まれてるんですね」


 和気あいあいとする三人をよそに、一人ぼやくボルツだった。



***



 不老不死を目指す旅は、どのくらいの期間になるか分からない。

 当然留守中の政務は誰かが行わねばならない。


「ってわけでイディス、頼む!」


「分かったよ、兄上」


 兄より優れた弟イディスも了承する。皇帝業務を委任するという一大事も、この兄弟にかかれば一言会話を交わすだけで終わる。


「申し訳ございません、殿下。私が陛下を止められず……」


「いいよいいよ。ゆっくり楽しんできて。たとえ不老不死はなくても、別の何かは発見できるかもしれないし」


 アーティスが真剣な眼差しで言う。


「もし……一ヶ月経っても俺が戻らなかったらお前が皇帝だ。後は頼んだ」


「そのつもりはないけど……でも、気を付けてね兄上」


 兄を心配するイディスに、レイラとミグのコンビが話しかける。


「大丈夫です、私とミグちゃんがついてますから!」


「そうそう!」


「ありがとう、レイラさん、それとミグちゃん」


 そしてミグはイディスの顔をじっと見る。


「それにしてもイディスさまって、アーティスさまに似てるねー! だけどイディスさまの方がずっと賢そうに見えるの不思議!」


「ハハハ、僕もそう思うよ」


 全く謙遜しないイディス。彼にもアーティスよりスペック自体は高いという自負はあるからだ。


 アーティスは目を細めてこう声をかけた。


「おーい、全部聞こえてるぞー」



***



 不老不死島に行くためにアーティス一行は港町にやってきた。

 一行を送ってくれる船長の元に向かう。その腕は確かで、たとえ嵐の海をもやすやすと航海するという。


「ガハハッ! まさか皇帝陛下を船に乗せる時が来るとはねえ! 海は初めてですかい?」


「ワハハッ! まぁな!」


 船長は頭にバンダナをつけ、筋肉質な、いかにも海の男といった人物だった。船も大きくはないがしっかり組み立てられた木造の帆船である。船長にも船にも、アーティスも好印象を抱く。


「それじゃはりきって船を出させてもらいますよぉ!」


「頼む!」


 初めての船旅に興奮気味のアーティス。

 レイラとミグも嬉しそうだが、ボルツは一人海を見ながら「とんでもないことになった」とぼやいていた。


 不老不死島を目指すアーティスに船長が言う。


「しっかしあっしら、何十年も海に出てますが、不老不死島なんて見たことありませんぜ!」


「文献によるとメギドア近海にあるはずなんだ。くまなく探索してくれ」


「了解しました!」


 いよいよ船が出る。不老不死を目指す大航海の始まりである。といっても近海をぐるぐる回ることになるが。


 アーティスはさっそく不老不死の話題を切り出す。


「もし俺が不老不死になったら、未来永劫俺が帝国を治めるわけだ。いったいどんな国になるだろうな」


「陛下が未来永劫……考えたくもないですな」とボルツ。


「きっとアーティス様が次々に愉快なことをする摩訶不思議な国になるかと!」とレイラ。


「変な国になりそう」とミグ。


「みんな、忌憚のない意見をありがとうよ」


 最初のうちは船の上で航海を満喫する一行だったが――


「う、うぷっ……!」


「大丈夫ですか、陛下?」


 アーティスは早くも船酔いしてしまった。顔は青ざめ、目は泳ぎ、口からは何度も海の魚に餌を与えている。


 見かねた船長が尋ねる。


「かなりタチの悪い船酔いですなぁ……どうしやす?」


「帰ろう……不老不死は諦めた」


「えーっ、もう終わり!?」


 残念がるミグ。


「仕方ないよ、ミグちゃん。アーティス様のお体の方が大事」


 レイラは聖女らしくアーティスの体を気遣う。


「面目ない……」


 さすがのアーティスも凹んでいる。あれだけ大々的に始めた不老不死の旅は、たった一時間で引き返すことになった。イディスが「もう帰ってきたの」という姿が想像できる。

 だが、その時だった。


「なんだ!?」


 船長が何かを発見する。


「変な島が見えてきた……!」


 濃い霧に包まれ、うっすらと島影が見える。船長もこんなところに島はないはずなのにと驚いている。

 島を見つけたとたん元気になったアーティスが叫ぶ。


「そうか、分かったぞ!」


「何がです!?」


 ボルツの問いに、アーティスは得意げに説明する。


「不老不死島に行く事ができる条件だ。きっと『不老不死を目指して出航しつつ、すぐ船酔いして諦めて帰る』だったんだ! そうすると船の前に島が現れるんだ!」


「なんですか、その秘密組織アジトに入るような回りくどさは……」


「だって不老不死の薬なんてそんぐらいのセキュリティで守らないとダメだろ」


 船の上でも相変わらずの二人に、船長が判断を仰ぐ。


「どうするんで!? あの島に上陸しやすかい!?」


「もちろんだ!」


 凛々しく返事するアーティス。


「なにしろ船酔いしちゃって、そろそろ陸地が恋しいし……」


「あ、そっちが本音ですか」


 ボルツは冷ややかな目つきで言葉を漏らした。



***



 突如現れた謎の島に上陸したアーティスたち。霧が深く、どういう地形かはほとんど確認できない。


「行くぞぉ、野郎ども!」


 勇ましく声をかけるアーティスだったが、船長は船を降りようとはしない。


「あっしはここで待ってますんで」


「ええっ、なんで!?」


「あっしは不老不死に興味はないですからねえ。それに船の番がいた方がいいでしょう。いざとなればすぐ出航できるようにしときます」


「それはいえるな。よし、四人だけで行こう」


 アーティスを先頭に島を突き進む四人。

 島はなだらかな山のような地形であり、白い霧こそ立ち込めるが、歩くのにそれほど苦はなかった。


「この山を登っていけば、きっと仙人に会えるはず!」


 船酔いも回復し、アーティスは俄然はりきる。


 しかし――


「なんか唸り声が聞こえるぞ」


 グルルルル……と声がしたかと思えば、白い狼のような獣がアーティスに飛び掛かってきた。


「うおっ!」


 四人のうち、もっとも反応が早かったのはレイラ。


「せいっ!」


 狼を殴りつけ、事なきを得る。


「どうやら、我々は歓迎されていないようですな」


 魔法の使い手でもあるボルツが構える。


「うん、そーだね!」


 ミグも戦闘態勢に入る。


 一頭目は撃退したが、続々と狼が湧いてくる。


「みんな、来るぞ!」


 狼に斬りかかるアーティス、余裕でかわされる。

 しかし、かわして体勢の崩れた狼にレイラがアッパーを叩き込む。


「ギャンッ!」


 一方のミグとボルツにも狼が襲いかかる。


「えいやっ!」


 ミグのローキックで狼の動きを止めると、


雷撃魔法サンダー!」


 ボルツの放った雷が炸裂し、狼が吹っ飛ぶ。


「ボルツさま、やるぅ!」


「君こそいいローキックだったよ」


 称え合う二人。中年と少女ながら、冴えたコンビネーションを見せる。


 剣を振り回しながら、アーティスが満足げに笑う。


「なんかうまく機能してるな、このパーティー」


「陛下は……あまり機能してませんけどね」


「俺はあれだよ! いるだけでみんなに支援効果を与える的なやつだよ!」


「なんですか支援効果って……」


 白い獣相手にレイラの拳が唸る。


「ごめんなさいね、でいやぁっ!」


「ギャオンッ!」


 レイラがまた一頭狼を倒した。

 とはいえ狼の数は多く、いくら倒してもきりがない。四人は徐々に追い詰められていく。


 ボルツは考える。まず真っ先に優先すべきは君主アーティスの命、そしてレイラとミグ。老い先短い自分が殿しんがりになってでも、三人を逃がさねばと考えていた。


 だが、こんな時でもアーティスは進んで前に出る。


「おい、狼ども!」


 この一喝に、狼たちもピクリと反応する。


「この島に侵入したのは悪かった。だが、俺たちとしてもお前らと争う意志はないんだ。俺は皇帝として、不老不死を目指さなきゃいけないんだ。だから道を空けてくれ!」


 争う意志はないことを示すため、アーティスは持っていた剣を投げ捨ててしまう。


「国宝ォ!」叫ぶボルツ。


 すると――


 周囲を覆っていた霧が晴れていく。

 霧が晴れると、この島は小さいながら木が生い茂る自然豊かな山だと分かった。


「どうしたんだ、急に……?」アーティスは困惑する。


「なかなか面白い連中じゃ」


 狼たちの姿は消え、代わりに四人に声が届いた。女の声である。


「追い払おうと思ったが気に入った。わらわの元に来るがいい」

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