《☆~ その後のエルフルト王国 ~》
五人の魔女族が使命を果たし、王城に帰り着いた。
城内の広場に、数頭のお馬が並べられ、それを見物しにきたペペロミアに、サラミーサラドが報告する。
「レアレイズンは、この白い牝馬の姿に、他の者らも皆ご覧の通り、お馬となっております」
「そうか、ご苦労であった」
魔女族らは報酬として沢山の金貨を貰い、大喜びで立ち去る。
ここへ、城内でお馬の世話を任されている平民、バレルが呼び出される。彼に向かって、ペペロミアが愉快そうに話す。
「この白馬は、第一王女だったレアレイズンだぞ。あはは!」
「……」
バレルは胸を強く痛める。レアレイズンを心の底から敬愛していたので、そうなるのも無理はない。一方、ペペロミアは増長して酷いことを考える。
「よし、これは俺の馬だ。早速こいつを厳しく調教してやるとしよう」
そう言って背中へ乗ろうとするけれど、白い牝馬が後ろ脚で力強く蹴る。それで遠くへ飛ばされ、地面に激突する。
「ぐへっ!!」
レアレイズンの強烈な一撃となった。一部始終を横から眺めていた蒼いお馬が、胸の内でつぶやく。
《ざまぁ、ありませんわ》
この蒼毛は、第一女官のアルビュミンである。
蹴り飛ばされたペペロミアは、辛うじて命拾いをするけれど、首と背中の骨が折れてしまい、治療のため護衛兵が運んでゆく。この隙にバレルが、お馬たちを安全な場所へ移動させる。それから信頼できる女官に頼み、地下牢へ追いやられているポワロ八世に伝えて貰う。
それでバレルは病床に呼ばれ、今の状況を話してから尋ねる。
「レアレイズン王女殿下を、元の麗しいお姿に戻して差し上げる方法は、ないものでしょうか?」
「一つだけある。お馬の姿にしている魔法の効果を消すには、アイスミント山岳に生息する狂暴な金竜の逆鱗を奪い、乾燥粉末にして飲ませればよいのだ」
「それなら私めが奪ってきましょう!」
「大きな危険が伴うぞ。命を落とすかもしれぬ」
「覚悟の上であります」
「そうか、では頼もう。もしレアレイズンを元の姿に戻すことができれば、公爵にしてやろう」
「ありがたいお言葉です。必ずや果たしてみせます」
こうしてバレルは、たった一人でアイスミント山岳へ向かう。
彼は巧妙な作戦を考えた。酒で金竜を酔わせ、それが眠っている隙に逆鱗を奪い取ること。その策は見事に功を奏する。
急ぎ王城へ帰ったバレルが、乾燥させた金竜逆鱗の粉末を水に溶かし、お馬たちに飲ませる。するとレアレイズンや他の者も皆、元の姿に戻ることができた。
約束の通り、バレルは公爵になる。この先千年も続く、メルフィル公爵家の初代当主である。
またペペロミアは、自力で歩くことができなくなり、彼に服従していた護衛兵ですら、陰では彼を「お馬に蹴り飛ばされた愚王」と呼んでいる。女官たちも口には出さないけれど、胸の内で「ざまぁ」と思っている。
そしてレアレイズンは、今度こそ女王に就任した。エルフルト王国は、長い安寧の時代を迎えるのだった。