《★~ レアレイズンたちの不幸 ~》
アマギーの山中では、レアレイズンたち一行が、偶然にして出会ったブレドンバタを交え、和やかに昼餉会を楽しんでいるところ。
ここへ突如、近くの茂みから一頭の獣が飛び出してくる。
「きゃあっ!!」
「牙猪だ!」
真っすぐに突進してくる獣に対して、ブレドンバタは怯むことなく俊敏に動き、弓で矢を放つ。しかしながら、いわゆる「明後日の方向」へ飛んでいった。
「やあ、失敗しちゃった!!」
ブレドンバタは、これまでの狩りで獲物を仕留めたことがない。だから、いつもと同じように的を外すのは、無理もないこと。
あわてて二の矢を射ようとするけれど、疾駆してくる獣が相当に速く、間に合わなかった。ブレドンバタは、大きな牙猪の激突をまともに食らい、あっけなく命を落としてしまう。
一方、勢いあまって転倒した牙猪は、地面に横たわっている。今の隙にフルレイズンが、獣に対して「静止」と詠唱する。それは月系統の魔女族が得意とする魔法で、相手の動きを止める効果がある。
フルレイズンは、この場から立ち去るべきだと、レアレイズンに話す。
「さあ早く、今のうちに逃げるのです」
「でもブレドンバタさんが!」
「可哀想ではありますけれど、あのお方には、もう息がありません。今すぐ逃げなければ、あたしたちも、彼と同じようになるのですよ?」
「はい、お母さま。分かりましたわ……」
とても本心で納得はできないけれど、それでもレアレイズンは、生き延びることが大切だと思い、足を動かし始める。あまりにも短い恋だった。
ここへ突如、空から箒柄に腰掛けた魔女族が、五人で飛行してきた。サラミーサラドから「追放しなさった第一王女と王妃が、後に復讐でも企てると厄介なことになるでしょう」という進言を受け、心配になったペペロミアが、こうして彼女らを送り込んだのである。
先頭のサラミーサラドが、レアレイズンに向かって「白い毛のお馬に!」と詠唱する。この魔法で白馬の姿にされてしまう。また他の魔女族四人も、同じ魔法を使い、フルレイズンや女官たちを、お馬に変える。
こうしてレアレイズンたちは、そんな姿のまま、エルフルト共和国へ連れ戻されることになった。