《☆~ 王位継承の悩み ~》
エルフルト王国では、当代の王、ポワロ八世に男子が一人もいないため、この国が誕生してから今まで経験することのなかった、いわゆる「王位継承の悩み」を抱えている。
それでも幸いにして、ポワロ八世には娘が三人あって、長姉で第一王女のレアレイズンが王位継承者となり、エルフルト王国では初めてとなる女王に就任するという方針で、王室内の意見が概ね一致するのだった。
しかしながら、これに異を唱える王族が、少なからず現れている。その先頭に立って音頭を取るのが、ポワロ八世の甥子に当たるペペロミアである。
そんな彼が無礼にも、王に直談判しようと、ここ第一玉の間に今日もまた、ずかずかと踏み込んできている。
「伯父上! 我らがエルフルト王国では、建国より二百九十年、一度すらの例外もなく、男が王を継ぐ慣習が続いてきたではありませんか。そのしきたりは、頑なに守る必要があります。ですから次代の王になるのは、この俺をおいて他に誰一人としておりません!」
「ペペロミアよ、お前の言い分にも一理あるが、これまで王家に男子が必ず生まれたお陰で、代々の王が男であったに過ぎぬ。女子が王に即位しようと、なんら不足あるまい」
玉座で言葉を発するポワロ八世の顔には、明らかに疲労の色が見て取れる。
そんな様子に気づいていながらも、ペペロミアは、王の衰弱することを厭わず、自身の願望を、ひたすらに口から出すばかりである。
この日から十日が過ぎ、ポワロ八世は、とうとう病に倒れた。
病床へ見舞いに訪れた娘たち三人の一人ずつに、思いを伝えている。末娘から始めて次女、長女へと順番に言葉を掛ける。
「レアレイズンよ、民を思いやる立派な女王になってくれ。そして、このエルフルト王国のことを、よろしく頼む」
「はい、よく承知してございましてよ。ですからお父さま、ご存分に休養をお取りになり、一日も早くご回復なさって下さいまし」
「うん、レアレイズン、ありがとう」
月系統の魔女族である三人の娘たちは、癒し系の魔法が得意で、今夜もまた快癒を願い、深く心を込めてポワロ八世に治癒魔法を施す。それから静かに、第一玉の間を後にする。