俺の彼女が「ねぇ、入れて?」&「ねぇ、出して?」とお願いしてくるので、毎朝毎晩、入れたり出したりしている
「ねぇ、入れて?」
付き合い始めて約1年になる俺の彼女、小夜が今日の朝も言ってくる。
「はいはい。今入れますよ――コンタクトをね」
……1週間連続で「ねぇ、入れて?」とお願いされているので、変な勘違いをすることもなく、俺は小夜の目にコンタクトを付けてあげた。
「ありがとう、拓真」
「どういたしまして」
俺と小夜は高校2年生。
高1の時は一緒のクラスだったが、今は別々のクラス。
「最初の頃みたいに、変な勘違いはしないのかしら?」
「……しません」
「そう、残念ね。慌てふためく拓真、可愛いかったのに……」
「俺なんかより、小夜が世界で1番可愛いよ」
――決まった!
高1の頃、小夜に告白したセリフの一部を、サラッと言ってやったぜ!
「あら、ありがとう。けれどね拓真? そういう台詞は、話を逸らす目的で使っては駄目よ?」
「……ごめんなさい」
「分かればいいわ」
……やっぱり敵わないな。
小夜は、すごく大人っぽい女の子だ。
いつも落ち着いているし、言葉も丁寧。
上品なお嬢様というイメージがピッタリ。
そんな小夜が時折見せる、照れたり恥ずかしがっている表情が、とにかく可愛いのだ。
小夜の可愛い表情をもっと見たくて、さっきのようなセリフを混ぜてみるのだが、あまり成功した試しはない。
……現在進行形で進めている計画は、吉と出るだろうか? 凶と出るだろうか?
「そろそろ学校行こうぜ? 遅刻しちまう」
「ええ」
小夜は俺の手を繋いで、玄関に向かう。
可愛い黒髪ロング美少女と、毎日登下校デート出来るんだから、俺は幸せ者だ。
俺の両親と小夜の両親。
どちらも海外出張で1ヶ月留守にするというミラクルのおかげで、俺達は今同棲している。
勿論、互いの両親は了承済み。
1ヶ月という期間限定ではあるが、好きな異性と一緒に暮らしている今の時間を大事にしたい。
「小夜」
「はい」
「好きだよ」
「私も拓真が好きよ」
俺と小夜は手を繋いだまま、玄関を出た。
♢ ♢ ♢
「ねぇ、出して?」
夜。
もう慣れた小夜の発言に、動揺することはなかった。
「はいはい。今出しますよ――コンタクトをね」
俺自身コンタクトレンズ歴は長いため、付け外しはお手のもの。
最初の頃は、小夜の顔に近づいて、コンタクトを付けたり外したりすることに緊張していたが、さすがにもう慣れた。
「外したよ、小夜」
「出してくれて、ありがとう」
小夜がコンタクトの付け外しを、入れて&出してとお願いしてきて1週間。
勘違いしやすい言葉で、いつまで続ける気なのだろうか?
「拓真」
「何?」
「お願い」
小夜は目を閉じて、言う。
……キス待ちか。
「ああ」
"チュッ"
俺は目を閉じた小夜の唇にキスをした。
……最近、よくねだってくるな。
彼氏冥利に尽きる。
「察しが良くて助かるわ」
「たまには小夜の方から、キスしてくれると嬉しいんだけどな~」
「ふふ。考えておくわね」
「頼むよ。あと、ちゃんと暖かくして寝ろよ? 冬が近いんだから」
「お気遣い感謝するわ。でも、大丈夫よ? 誰かさんと違って、私は寝相いいですから」
「……何で俺が寝相悪いの知ってるの?」
「ッ! い、以前、拓真自身が言っていたわ!」
「そうだっけ?」
「そ、そうよ! じゃあお休みなさい! 私はコンタクトを洗ってから寝ますので!」
"バタン"
少し焦った様子で、小夜が俺の部屋から出て行った。……あの様子ならば、計画は順調に進んでいるかもしれないな。
♢ ♢ ♢
『ねぇ、入れて?』
『さ、小夜!? 俺達にはまだ早くないか!? 学生だし、何よりも同棲初日から、そ、そういうコトをするのは、さすがに小夜の両親にも罪悪感を覚えるというか……なんというか……』
『あら? エロい勘違いをしているのね? 拓真のエッチ♡』
『いやいやいや! してないしてない!』
『……本当に?』
『ほんとほんと!』
『それなら、私にナニを入れてくれるのかしら?』
『……こ、コンタクト……レンズ……』
『……ふ~ん。そしたらこれからは、拓真に私のコンタクトを入れてもらおうかしら?』
『あ、ああ! 任せろ!』
『……拓真のバカ』
『え? 何か言った?』
『別に何も言っていないわ。お休みなさい、拓真』
『お、お休み~』
という会話を同棲1日目の夜にして、早10日。
未だに小夜の「ねぇ、入れて?」と「ねぇ、出して?」は続いている。
初めて「ねぇ、入れて?」を言われた時はテンパったが、後日冷静に考えて、俺に1つの計画が浮かんだ。
題して「小夜から直接誘われたい!」である。
俺の思い違いでなければ、「ねぇ、入れて?」は夜のお誘いであると思う。
小夜とは付き合って1年になるが、まだ肉体関係には及んでいない。
お互いに経験がないので、どういう風に誘ったらいいのかが分からないし、緊張や不安もある。
俺としては、ゆっくりでいいと考えていたが「ねぇ、入れて?」と小夜が誘ってきたのだ。
デートやキスなどの誘いは、ほとんど俺から。それに不満を持ってはいないが、たまには小夜の方から誘ってほしい、と常々思っていた。
だから敢えて「ねぇ、入れて?」の本意に気づいてないふりをすることに決め、そのおかげなのか、最近はキスをねだってくるようになった。
もう少し、もう少しだ。
まだ後20日も残っている。
焦るな、俺。
計画「小夜から直接誘われたい!」は、順調なのだから。
そんなことを考えながら、小夜の「ねぇ、入れて?」&「ねぇ、出して?」10日目深夜は過ぎていった……。
♢ ♢ ♢
「ねぇ、入れたり出したりして?」
同棲1日目から数えて12日目の夜。
俺の部屋ですっかり恒例となった小夜の言葉に、変化があった。
「……どういうこと? コンタクトを入れて出せばいいの?」
俺はまだ惚ける。
「拓真にコンタクトの付け外しをしてもらうのは好きよ。意外な発見だったわ」
「光栄でございます」
「けどね、今日は違うの。もうコンタクトは外してきたし、入れてもらうつもりもない」
「なら、何を入れればいいの?」
さらに惚ける。
「……そう。やっぱり惚けるのね」
「なんのこと?」
小夜は何かを決意した瞳で、
「た、拓真を、い、入れて……ほしいの」
顔を真っ赤にしながら、小さい声で言った。
か、可愛い!
恥ずかしがっている小夜、マジ可愛い!
「私の、は、初めてを、拓真にもらってほしい……」
そこまで言うと恥ずかしさが限界に達したのか、俺の胸に抱き付いて顔を隠してしまった。
女の子にここまで言わせたのだ。
男として、責任を取ろう。
俺も我慢の限界だ。
「分かった。上手くできるか分からないけど、なるべく優しくするから」
「……意地悪な拓真だったわ。絶対気が付いていたくせに」
少し拗ねたような声。
「ごめん。たまには小夜から誘ってほしいと思ってたんだ」
「ううん……いいの。私も拓真に甘えっぱなしで、悪いと思ってたから……勇気を出すことにしたわ」
「ありがとう、小夜。大好きだよ、愛してる」
小夜の顔を見ながら言う。
「私も大好きよ、愛してます」
目を閉じた小夜に優しくキスをして――甘酸っぱい言葉を交わしながら――体を重ねた。
♢ ♢ ♢
「ねぇ、入れて?」
翌朝。
俺の腕を枕にして寝ていた小夜が目を覚まし、ベッドの上で開口一番言う。
昨夜セックスしてそのまま寝たので、お互い素っ裸である。
「……どっちを?」
「どっちでもいいわよ♡ どっちに入れたいのかしら?」
小夜が意味深に聞いてくる。
――据え膳食わぬは男の恥。
「いただきま~す!」
「エッチ♡」
小夜との同棲期間が終わった頃、俺の体重は……約3㎏落ちていた。