4 少女の棲む場所
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「これが…? ここに棲んでいると……?」
エステルが辿り着いたところは、洞窟だった。
入口が狭く、一人が通れるのがやっと。ましてや馬なんて入れない。
「冗談だろ…? 君は洞窟に棲んでいるとでも?」
「そのまさかです。中は結構広いのでご安心を。申し訳ございませんが、お馬ちゃんは入れませんのでここに置いて行くことになります」
「いや……そういうことよりも……」
「それより、どこを怪我されておりますか? 歩けますか?」
馬からゆっくり降りたアリヴィアンは、怪我をした場所を隠すことなく伝える。歩くことも少し辛いということも。するとエステルはすっと右手をアリヴィアンに伸ばしてきた。
「……その手は何だ…?」
「エスコート致します。私の腕におつかまり下さい、騎士様」
小柄な、しかも盲目の少女にエスコートするなんて真顔で言われてしまい、アリヴィアンは思わず噴き出した。
「大丈夫だ。流石に女性にエスコートしてもらうなんて、騎士の名折れ…いや、男として面子が立たない」
「気にすることございませんのに。…では、足元にお気をつけ下さいね。私の手が必要ならば、いつでも仰って下さい」
洞窟の中へするりと入るエステルに続いてアリヴィアンもゆっくりと入ったが、しかしすぐにエステルのエスコートを受けざるを得なくなった。
何しろ洞窟の中には光が一つもないのだ。エステルは慣れているのか、するすると歩みを止めない。奥に進めば進むほど、外の光が入らなくなり、アリヴィアンは自分がどこにいるのかすら分からなくなってしまった。
「す、すまない…! エステル…! やはり君の手を貸してくれないか!」
エステルはアリヴィアンの元へ戻ってくると、その腕をとって歩き出した。
(そうか…盲目だから…光は必要ないのだな)
その事実に気付いたのは少し遅かった。アリヴィアンは小柄な少女の腕に手を回す今の状況を、心から恥ずかしく思っていたのだ。
洞窟の奥深く進んだ右手にどうやら扉が存在していたようで、エステルはそれを開けて入っていく。
ようやく暗闇に慣れたアリヴィアンの目には、うっすらとだがテーブルなど家具が置かれているのに気付いた。
(本当にここに棲んでいるのか……)
「まずは履物をここで脱いでください。そしてそこに座って下さい」
部屋と思われる空間に入るや否や、エステルはアリヴィアンから離れてそう言う。しかしアリヴィアンは部屋の隅々を把握しているわけでもないし、ましてや暗闇だから分かりもしない。「ここ」とか「そこ」はどこを指すのか見えないのだから。
「エステル…す、すまない…。暗くて分からない」
アリヴィアンの弱り切った声に、エステルは「ああ!」と楽しそうな声を上げて笑った。エステルの笑い声を聞いたのはこの時が初めてとなった。
「すみません、私だけだと光は必要ないので気付きませんでした。少々お待ち下さいね」
しばらくした後、部屋が明るくなっていく。部屋にあるいくつかのランプに光が灯された。
(盲目なのに、すんなりとランプに光を灯せるのか…)
部屋の中は予想以上に広く、そしてテーブルやソファー、その他の家具など置かれていたが、アリヴィアンを驚かせたのは、それらの家具が比較的高価な物のように思えたからだ。
装飾がしっかりされた家具やテーブル、そしてソファーは貴族家にあってもおかしくないものだ。
敷かれた絨毯も綺麗で、豪華なもので。
(この娘は一体何者だ…)とアリヴィアンが思うのも無理はなかった。
絨毯が汚れるのを防ぐためか、ドアの前にはエステルの靴が揃えられており、エステルは裸足で絨毯の上を歩いている。
慌てて具足を取り外そうとするもやはり足に激痛が走り、なかなか時間がかかった。
「無事に脱げましたか?」
アリヴィアンの方を見ないで、机の上に籠を置きながらエステルはそう尋ねる。
「あ…ああ、何とか…」
「兄が来る時にしかランプは点けないもので…失礼しました。さ、ソファーにお座り下さい。怪我の手当が必要でしょう?」
「すまない…助かる」
「必要なものはございますか?包帯と、水と…」
「…矢を取り除かないといけないから…汚れてしまうかもしれない…」
「ならば布も必要ですね。お待ち下さい」
エステルはてきぱきとしていた。部屋のどこに何があるのかしっかり把握しているようで、その行動に迷いが一切ない。
矢を取り除いて止血をし、傷口を縫い合わせれば疲労感が押し寄せる。
ソファーにどっと身を投げて荒い呼吸をするアリヴィアンに向かい、エステルはトントンとその肩を叩いた。
「騎士様、ベッドがありますのでそちらでお休みください。こちらです」
「……有難いが…しかしそれは君のベッドでは…」
「いえ、たまに来る兄が使っているものですのでお気になさらず」
「……そうか…正直助かる……」
眩暈がするし、体もだるい。よくここまで耐えたと自分を称えたいアリヴィアンだ。
一度部屋から出ると、洞窟の向かい側にも同じような扉が存在していたらしい。
こんな深い洞窟に、よくもまあこんな手の込んだ部屋を作ったなんて感心しながら扉の向こうを通れば、これまた貴族の部屋かと突っ込みを入れたくなるような作りの部屋だ。
「すぐにお湯をお持ちしますね。この部屋のベッドなど、お好きにお使い下さい」
部屋の中に灯されたランプの明かりが幻想的に部屋の中を照らす。
エステルが出て行った後、アリヴィアンは自分の身を纏う全ての物を脱ぎ捨ててベッドに寝転がった。
「ああ……死なずに済んだか……」
どういうわけか自分は助かった。盲目の少女に助けてもらい、こうして洞窟の中の、不自然に豪華な部屋のベッドに全裸で寝転んでいる。
疲労がピークに達していたのだろう、アリヴィアンはそのまま眠りについた。
お湯を持ったエステルが部屋に入って来たのだが、当然アリヴィアンはそれに気づくことはなかった。




