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美貌の王太子は、孤独な娘を逃がさない  作者: Aki


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2 予想外の女性

 

 今から五年前、ドロニア国は隣国のルンドスフィア国と戦争が始まった。

 五年にも及ぶ戦争の末、ドロニア国の勝利となったが、その後も荒れた国内の立て直しに誰もが疲弊していた。

 

 アリヴィアンが王太子となったのも、そんな激動の時であった。






 アリヴィアンの父王と母の王妃は仲睦まじい夫婦として有名で、アリヴィアンを含めて子供が十人おり、アリヴィアンは四番目の子供として生まれた。

 生まれた当初から輝く金髪、青い目の美しい容姿をしており、十人いる兄弟姉妹の中でも一際目立つ容姿だと国内では有名だった。



 しかしアリヴィアンは自分の容姿が嫌いだった。



 その理由の一つ目に、父王も王妃もそして他の兄弟姉妹たちも見事な黒の髪と瞳をしているのに、アリヴィアンだけは違っていたということだ。


 「先祖返りってやつだろうよ。前王妃が見事な金髪だったからな」


 と父王は豪快に笑っていたが、家族の中で自分だけという事実は、周囲の者達が気付かないほどに、幼いアリヴィアンを悩ませるものだった。


 「何も気にすることはない。お前だけが髪の色が違うのも、顔つきが綺麗なのも天からの恵みだ。何も恥じることはないだろう?」


 尊敬する一番上の兄・エドアルドも、他の兄弟姉妹や側近や使用人たちもそう言ってくれたが、アリヴィアン自身は美しい自分の容姿を嫌いだった。




 自分の容姿が嫌いな理由の二つ目に、その美貌に女が沢山寄って来るということだった。


 アリヴィアンだって男だ。可愛らしい女性や美しい女性に興味がないわけではない。

 しかし彼女たちはその愛らしい容姿とは裏腹に、時に強引すぎる手段でアリヴィアンを己の物にしようとしたのだ。襲われかけたのも一度や二度ではない。


 そんな彼女たちの本性を知るうちに、アリヴィアンはふと思ったことがある。


(私の顔が醜くても、彼女たちは私を愛していると言うのだろうか?)と。


 実行したことはないが、アリヴィアンの顔がものすごく不細工で、そして王子でなくなればきっと見向きもしないだろうと、そういう結論に達するまでにそう時間はかからなかった。

 結果、アリヴィアンが己の容姿が好きでなくなるというに至ったわけである。




 そして三つ目の理由に、アリヴィアンは女性のように弱く儚いと、そんな印象を持たれることが多かった。

 アリヴィアンは決して弱くはない。力は結構強いし、剣の腕前もなかなかだった。

 考え方も合理的で時に冷酷で頑固な一面もあり、多くの女性が持つ「優しさ」はあまり持ち合わせていないにも関わらず、どういうわけか周りの者達はアリヴィアンを「体が弱く、優しく麗しい王子殿下」と見る者達が多い。


 故に、十六歳になった折に騎士団に所属し、国の為に騎士として働いて行こうと決意した。


 

 そして十九歳になった折、ドロニア国とルンドスフィア国との戦争勃発時には、周囲の反対を振り切って出陣。五年以上も戦場にいたが、上の二人の兄が他界し、気づけば王太子になっていたという特殊な経歴を持つ王子だった。



 アリヴィアンに恋人や婚約者が長年いないというのは、こうした背景が関係していることは明らかだ。


 彼も男ではあるから娼婦相手に気を抜くことは多少あったものの、戦争中ということが心の底から休むことを許さなかったのだろう。決まった女を隣に置くなんてことは絶対にしなかった。


 そんなアリヴィアンが、だ。


「妻に迎えたい女性がいる」と王と王妃、そして側近たちの前で言い放った。


「おお!」「めでたい!」「ようやく女性に目を向けてくれた…」と誰しも喜んだのも束の間、アリヴィアンが連れて来た女性を見て一同顔を強張らせた。







「エステルです。さ…、エステルこちらに」


 アリヴィアンが手を引いて部屋に連れ入れた女性。

 真っ直ぐで長い黒い髪、小柄で細いが、胸があってスタイルがとても良い。

 着ている服はアリヴィアンが見立てたものだろうか、緑の明るい色をした流行りの型のドレスだ。


 しかし女性の両目には包帯が巻かれていた。それは彼女が盲目であることを示している。


 その場にいる者達は言葉が出ず、ただ入って来た女性を見つめるだけだ。

 アリヴィアンもそんな空気になることを予想していたいのだろう、にっこりと笑いながらも堂々とした姿勢を崩さない。


 エステルと呼ばれた女性はドレスを持ち上げて、綺麗なカーテシーをした。


「初めまして。エステル・マハノヴァと申します」


 それを聞いた宰相のローレンツはハッとした。


「マハノヴァ…とは、もしやマハノヴァ辺境伯の関係者で……?」


 ドロニア国とルンドスフィア国と戦争があった時、その国境を守っていたのはマハノヴァ辺境伯だった。  

 齢五十歳ほどになる侯爵は、領地の騎士達を組織して敵と果敢に戦っており、マハノヴァと言えば、その貴族を指す言葉に他ならない。


「流石宰相殿です。その通りです。エステルはマハノヴァ辺境伯家の血筋ですよ」

「…しかし、その……。辺境伯に娘がいるとは聞いたことがないのですが…?あそこは息子さんが三人ほどだと記憶しておりますが…」

「それはそうでしょうね。エステルはマハノヴァ辺境伯の血筋ですが、正式に一族として認められていなかったのですから」


 誰しもが首を捻る。エステルは緊張しているのか、その身を固くしている。


 アリヴィアンはそんなエステルの腰に腕を回し、優しく抱き抱えた。


「お話ししましょう。私とエステルがどのようにして出会ったのかを」


 そう言うと、アリヴィアンは一つ息をついて顔を上げた。



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