第1章 第8話 どうやらここにも危険はあるらしい
僕らは、満腹になったお腹をさすりながら夜空の下を歩いていた。
「僕はどこで寝たら良いのかな?お風呂とかも入りたいし。」
それを聞いたミアが、ニヤッと不敵な笑顔をつくる。
「ふっふっふっ。ミライ、あんたは残念ながら超新米だから野宿よ。」
「えっ!?創造神さまの恩恵はないの??」
「あー。ミアのウソでやんス。ちゃんと“ミライの部屋”はあるでやんス。」
「んも~。もうちょっと、ミライをからかった方が面白いのに~。」
そう言って、ミアはくるっと回った。
「“辛い”のがダメなくせに、人を“からかう”なよ~。」
「はははっ、うまいこと言うわね。」
夜道をみんなで歩くと、無性に楽しくなるのは何故だろう。
「ミライの部屋は、たぶん、オイラ達と同じ建物の中にあるはずでやんス。」
「お風呂も着替えも、ぜ~んぶ部屋の中にあるわよ。」
それはありがたい。
創造神さまの恩恵に感謝しなければ。
「ただ、なぜか同じ服しかないのよね~。」
「オイラなんて、服は1着もないでやんス。」
「はははっ。だって、ポランに服はいらないでしょ?」
同じ服しかないというのは、つまりあれだ。
きっと創造神さまは、お決まりというものを分かっていらっしゃる。
僕らはそのまま、たわいない話をしながら歩いた。
「因みに、一度行ったことのある場所は、MAPに記録されるんでやんス。」
「記録された場所は、自分が見れるMAPの範囲外でもルートを示してくれるわよ。」
僕はMAPをもう一度見た。
確かによく見ると“設定地”という項目があり、そこには“所長室”と“食堂”が追加されている。
これを意識すれば、きっと目的地までの道筋を示してくれるのだろう。
「部屋に帰る前にちょっとだけ湖の近くまで行かない?」
ミアが言った。
僕は大賛成だ。
「いいでやんスよ。」
僕らは、あの湖まで歩くことにした。
湖はその水面に夜空を映して、神秘的な景色が広がっている。
かつての僕であったという像は月に照らされていた。
僕らは、湖畔の芝生に座ってそれを眺める。
「ここにも月があるんだね。」
「そりゃあるわよ。どの世界にも必ずあるわ。」
宇宙の神秘も、創造神さまなら教えてくれるのだろうか。
そんなことを思いながら雰囲気に浸っていた僕に、ミアが話かけてくる。
「ミライ・・・あの・・・あのね。」
「どうした?」
「あのね。その、ミライを巻き込んでしまって・・・ゴメンナサイ。」
ミアがしおらしくなって謝ってきた。
「あー。僕がここに来ちゃったこと?」
「うん。私のせいなの。」
「実は空虚の空間で、2人の会話が聞こえててさ。何となく知ってた。」
「ミアだけの責任じゃないでやんス。オイラも一緒だったから、オイラも悪いでやんス。」
ポランがミアを庇うように僕に頭を下げる。
「そういえば、何で2人は料飲の世界にいたの?」
「クエストを受注していたの。クエストっていうのはここの仕事のことね。」
「今回は、料飲の世界の廃屋に眠っていた“ツクモガミを持ち帰る”ことだったんでやんス。」
「あそこにツクモガミがあったんだ?」
「うん。確か風呂敷と言うのかな。モノを包む為の布よ。」
「それを探していて、やっと納屋の中で見つけたでやんス。」
「風呂敷を見つけた時、外にミライ達がいることは知ってて、それでも早く戻りたくて・・・。」
「ミアが“帰還の印綬”を使ったんでやんス。」
「その時、ミライが納屋に入ってきちゃって・・・。」
なるほど。
何となく僕は理解ができた。
まず、あの場所が心霊スポットとして噂されていたのは、廃屋の雰囲気が不気味だったことに加えて、風呂敷がツクモガミになっていたからか。
そして、8つの世界からこの異世界免許教習所に戻る為には、帰還の印綬なるものを使う必要があるのだろう。
それを納屋でミアが使ったタイミングで、僕が納屋に足を踏み入れてしまったことで巻き込まれたということか。
「ゴメンね。許してくれる?」
ミアが幼気な表情で目をウルウルしている。
「さ~って、どうしよっかな~。」
僕はちょっと意地悪をしたくなった。
「本当にゴメン。」
「ゴメンでやんス。」
どうやら二人は、真剣に誤ってくれているようだ。
「ははははっ。実は全く気にしてない。さっきのミアがついたウソへの仕返し。」
そういって、僕はペロっと下を出した。
「んも~っ!これでもくらえっ!」
ミアがぷんぷんと頬を膨らませた顔をして、しびれ粉をかけてきた。
「イタタタタタッ!ちょ、ちょっと本当に痛い。」
例えるなら何だろう、足がつった時のような痛みが全身に走る。
これは痛い。
ここで、こうして3人で話をしている時間は、とても幸せな気持ちがする。
僕はこの2人と出会えてラッキーなのだろう。
「さて、そろそろ部屋に帰ろっか。」
そう言って僕は立ち上がってMAPを見た。
MAPには、僕を示す黒い三角印とその横に青い印が2つ。
そして、僕らの周りに赤い印がいくつか見える。
「あれ? MAPのこの赤い印って初めて見たや。これは何?」
「!!?」
「!!?」
僕が2人にそう言うと、急に2人の表情が硬くなった。
「まずいでやんス!!」
2人からは、とても深刻な雰囲気が感じられる。
「どうしたの?」
「赤い印は、わたし達に敵意を持っている相手よ!敵っ!モンスターっ!」
そういうと、ミアとポランは辺りを見回して構えた。
グラッと周りの空間が所々で揺らぐ。
すると、骨だけの身体をしたモンスターの姿が鮮明になった。
さらには腐った死体のようなモンスターの姿も出てくる。
数が多い。
僕らは完全に囲まれているようだ。
「仮免堕ちでやんス!!」
「なんで仮免堕ちがこんなに湧くのよ!!」
仮免堕ちとは何だろう。
僕は気にはなるが、この緊迫した状況は質問している場合ではない。
敵の数は30体以上はいるように見られる。
敵モンスターのステータスを見てみた。
《スケルトン》
■系統種族:不死系-スケルトン ■年齢:0 ■レベル:1
■経験値:0/2000
■HP:50/50 ■MP:0/0
■攻撃力:4 ■防御力:3 ■魔力:1
■ちから:4
■みのまもり:3
■すばやさ:2
■きようさ:1
■かしこさ:1
【スキル】刺突耐性
【ジョブ】なし
【称号】なし
《ゾンビ》
■系統種族:不死系-ゾンビ ■年齢:0 ■レベル:1
■経験値:0/2000
■HP:40/40 ■MP:10/10
■攻撃力:2 ■防御力:2 ■魔力:2
■ちから:2
■みのまもり:2
■すばやさ:2
■きようさ:1
■かしこさ:1
【スキル】毒攻撃
【ジョブ】なし
【称号】なし
これは危険だ。
1体だけなら何とかなりそうだが、とにかく敵の数が多い。
敵モンスターは、僕らの存在を確認すると明らかな敵意を向けてくる。
「この数は・・・流石に無理でやんス。」
「逃げ道は・・・ないわね・・・。」
僕はとっさに足元に落ちていた棒きれを拾った。
僕のステータスの攻撃力に+2が表示される。
恐らくは武器の性能でプラス値が付加されるのだろう。
「作戦があるでやんス。」
「何?」
「どうするのっ?」
「まずは、オイラが何とかして道を切り拓くでやんス。」
「それでっ!?」
「ミアなら、そこから逃げれるでやんス。ここから脱出して、助けを呼んできてほしいでやんス。」
なるほど。
ミアのすばやさなら、この囲まれた状況から脱出できるであろう。
「でも、それまでに・・・。」
ミアが不安そうな顔をする。
「大丈夫でやんス。オイラのジョブはモンクでやんスから。」
ポランが、その身体に力を溜める。
ポランの身体が淡く黒光りした。
きっとスキルの“硬化”で少し硬くなったのだろう。
「オイラよりもミライが心配でやんス。」
僕は手にした棒きれを握りしめた。
MAPを見る限りでは、残念ながら近くに仲間を示す青い印はない。
すぐに応援が来ることはなさそうだ。
ここは覚悟を決めるしかない。
「僕も何とか頑張るよ。その作戦でいこう!」
僕の声にミアが頷く。
「すぐに、すぐに助けを呼んでくるから、2人とも・・・。」
ミアの声が少しか細くなる。
その声に僕とポランは力強く頷いて返した。
「まずはオイラが、あそこに突っ込むでやんス。」
「わかったわ!」
「ミライは、オイラの後ろについてきて、オイラの背中を守ってほしいでやんス!」
「わかった!」
敵モンスターが僕らに襲い掛かってきた。
「いくでやんス!!」
ポランが敵モンスターの囲みの一角に突撃した。
僕は遅れないように後ろをついていきながら、棒きれを振り回す。
ポランがスケルトンの1体に正拳突きを繰り出し、すぐさまその横の2体に回し蹴りをする。
敵モンスターの囲みに少し穴が開いた。
「ミアっ!いまでやんスっ!!」
「!!」
ミアが素早くその隙間に向かって飛んだ。
そこにゾンビが口から何かを吐き出した。
それを被ってしまったように見えたのだが、ミアはそのまま大急ぎで飛び抜けていった。
「やったね。」
「あとは何とか耐えしのぐでやんス。」
僕とポランは顔を見合わせて頷くと、目の前の敵モンスターに対峙した。
助かる道は残っている。
大丈夫、怖くはない。
僕はこんなに早くも終わるつもりはないのだ。