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第1章 第7話 どうやら最初は酔うらしい

僕は、ミアとポランに導かれるまま、食堂に向かって歩みを進めていた。


「もうお腹ペッコペコ!」

「今日のメニューは何でやんスかね~。」


そう言いながら、2人は様々な建物が入り組む道を迷いなく歩き続ける。

ここは建物が多すぎて、まるで迷路のようだ。


「お金がなくても、食堂でご飯は食べれるの?」

「ここではお金は必要ないのよ。」

「お金という存在がないんでやんス。」


お金が必要ない?存在しない?

それでは、物々交換でもしているのだろうか?


「お金がないということは、みんなどうしてるの?」

「料飲の世界で育つヒト系-コモンって、ホント頭の中はお金ばっかりよね~。」


ミアが、ポランの頭の上で、呆れたといったポーズを取る。


「異世界免許教習所に雇われし者は、ここで働く対価として全てに恩恵を受けるんでやんス。」

「全てって、全部? 食べ物以外も?」


「そうでやんス。だからオイラ達はお金なんていらないんでやんス。」

「じゃあ、ここでは働いてお金をもらうわけじゃないの??」


仕事の対価がお金でなければ、他に何があるというのだろうか。


「オイラ達は、ここで働くことでステータスが上がるんでやんス。」

「ここでは、ステータスが全てよ。ステータスを上げることに働く意義があるのよ。」


ステータスを上げることに働く意義がある?

僕が元いた世界では、お金があることが“ステイタス”のようなものであったが。


「まあ、あんたもすぐに理解できるわよ。」

「そうでやんス。それよりもお腹ペコペコでやんス。」


僕は、まだ半ば理解できないままであったが、ちょっと早足になったポランとミアの後ろを追いかける。


それにしても、ここは迷路のようだ。

2人はよくこんな場所を覚えていられるものだと感心する。


「2人とも、よくこんな迷路みたいな道を覚えてられるね。」


僕は、すでにゴラン所長の部屋がどの方角にあったのかも見失っている。


「あー。まだ“MAPマップ”が見れてないんでやんスね。」

「あんた、さっき自分のステータスを見たでしょ?」

「うん。」


「それと同じように、ここのMAPマップを見るっていうイメージを持つのよ。」

MAPマップって、もちろん地図のことだよね?」


僕は、ミアに言われるまま、頭の中で地図を見るイメージをしてみた。


「むむぅ~ん・・・あっ。」


これは驚いた。


この異世界免許教習所ココカラの地図が見える。

見える範囲は、自分から凡そ半径200mくらいだろうか。


それぞれの建物の名称と用途が、きちんとMAPマップには記されている。

僕らが向かっている目的地の食堂もある。

すぐそこだ。


「うわぁ~。これはすごい!」

「異世界免許教習所に雇われし者は、8つの世界オクタグラムのどこでもMAPマップを見ることができるんでやんス。」

「だから、どの世界に行っても迷子にはならないのよ。」


「でも、広範囲のMAPマップを見る為には、ステータスが重要になるんでやんス。」

「たぶん所長クラスなら、この異世界免許教習所ココカラ全域のMAPマップが見えているはずよ。」


これは画期的だ。


ゲーム画面の端にMAPマップがあって、それを見ながらキャラクターを操作する感覚に近い。


「そのMAPマップの黒色の三角形の印があんたよ。」

「ちなみに、青色の点印がオイラ達、異世界免許教習所に雇われし者でやんス。」


僕の位置を示す黒色の三角印のすぐ横に青い点印が2つある。

これがミアとポランを示しているのか。


では、MAPマップの右上隅に見える3つの青い点は、みんな同僚ということなのだろう。


僕は、最初にハイ・エルフのエレンに看病してもらった時のことを思い出した。

あの時、足音が聞こえる前からポラン達が来ることを察知していたのは、このMAPマップを見ていたからか。


なるほどね。

これはとても便利だ。


僕は、このMAPマップに感動しながら辺りを見回した。

僕が向いた方角に伴って、僕を示す黒い三角形の印の向きが変わる。


「あんた、あんまりキョロキョロすると・・・ヤバイわよ。」

「最初は慣れないから、すぐに酔うでやんス。」


うぷっ。酔った。

もう少し早く、それを言ってほしかった。


そうこうしているうちに僕らは食堂に到着した。

食堂内には、まだ誰もいない。

どうやら僕達が一番乗りのようだ。


「今日のメニューは何でやんスかね~。」

「辛いのヤメテ。辛いのヤメテ。ほんっとうに辛いのヤメテ。」


ポランの頭の上で、ミアがぶつぶつと鬼気迫る顔で祈っている。


僕は、食堂内を見渡した。

食堂は結構な広さで、100人は入ることができそうだ。


しかし、どこにもメニューブックやメニューが表示されたものは見当たらない。

どうやら、その日ごとに食堂のメニューは決まっているようである。


僕らはオープンキッチンとなっているカウンターの前に立った。

しかし、厨房の中には誰の姿も見当たらない。


「あれ? 厨房に誰もいないよ?」

「大丈夫でやんス。」


ポランがオープンキッチンに向かって言った。


「3つお願いするでやんス。」


すると・・・・・。


トントントンッ。

ザッザッザッ。

ジュー。

ガチャガチャガチャ。


僕は信じられない光景を目の当たりにしている。

包丁や鍋が勝手に一人で動いて、手際よく調理を進めているのだ。


「えっ!まさか!?とっ、透明人間??」


誰の姿も見えないのに料理はどんどん出来上がっていく。


「あれは、“ツクモガミ”でやんス。」

「ツクモガミ??」

「そうでやんス。ここの包丁やまな板、色んな調理道具には、ツクモガミが憑いているんでやんス。」


「辛いのダメ。辛いのダメ。ほんっとうに辛いのダメ!」


ミアは鬼気迫る顔をしている。

どうやらミアは、辛い食べ物が苦手なようだ。


「職人が丹精込めて作ったモノが、長い年月をかけて丁寧に扱われたらツクモガミが憑くんでやんス。」

「あれ全部?」

「そうでやんス。でも、ツクモガミは生物ではないんでやんス。」


それにしてもすごい光景だ。

調理道具が勝手に料理をしている姿なんて、僕は想像もしたことがなかった。


「ただ問題は、ツクモガミがその日の気分でメニューを決めることよ!」


ミアがカッと目を見開いた。


生き物ではないのに気分でメニューを決める??

ここは本当に謎が多い。


うん。

もう深くは考えまい。


そして、僕らの前に3人前の料理が出てきた。

どうやら辛そうな料理ではないようだ。


「セ~~~~フッ!」


ミアが、野球の審判がするような恰好をして、満面の笑みを浮かべている。

因みにまだ、ポランの頭の上だ。


僕らは、ツクモガミが作ってくれた料理を席まで運ぶと、食事をとることにした。

それにしても、ミアの食べる料理も僕らと同じ分量で作られているのだが、この小さな身体で全部食べきれるのだろうか?


今日のメニューは、僕が元いた世界でいうところの生姜焼き定食に近い。

味は・・・うん。悪くはない。

しかし、元いた世界と比べると野菜の味がかなり劣る。

特にトマトなんかは水っぽくて味が薄い。


「ここの野菜は、全てゴーレムが育てているんでやんス。」

「たぶん、昔のあんたが作ったゴーレムよ。」

「へえ~。もう何だか、チョットのことじゃ驚かなくなってきたよ。」


「でも、残念ながらゴーレムは、基本的に決まった作業しかできないでやんス。」

「所長みたいな規格外ゴーレムを除いてね。」

「だから、料飲の世界で育てられている野菜と比べたら、味が大きく落ちるでやんス。」


なるほど。

やはり、人が手塩にかけて育てた野菜とは、雲泥の差が出るということか。


「ここには、ゴーレムが沢山いるの?」

「そうね。かなりの数がいるわ。」

「ゴーレムは四六時中動いているから、ここの生活の要になっているんでやんス。」

「そのゴーレムは全部、昔のあんたが作ったんじゃないかしら。」


どうやら、かつての初代所長であった僕は、相当な数のゴーレムを作ったようだ。

それにしてもミアの食いっぷりは凄まじい。

この小さな身体のどこに入っていくのだろう。


「あのさ。二人にお願いがあるんだけど。」

「なに?」

「何でやんス?」


「かつての僕が初代所長だったってことは、他のみんなには内緒にしてもらえないかな?」

「なんで?」

「何でやんス?」


「だって、かつての自分の記憶や自覚がないし、いまの僕はレベル1だから・・・。」

「あー。確かにそうね。いまのあんたを見たら幻滅よね。」

「わかったでやんス。約束でやんス。」


僕らが食事を終えようとしていた時、食堂に誰かが入ってきた。

どうやら一人だけのようで、背格好からすると男性だ。


背が高くてスタイルの良い男前8頭身で、腕の筋肉が隆々としていて逞しい。

頭には角が1本。

髪の毛が緑色であるという特徴を除けば、“とても強そうな人間”としか見えない。

背中には2本の斧を差している。


「あら?ミッチーじゃない。」


ミアが男前8頭身に向かって言った。


「だから、俺の名前はミックだといつも言ってるだろうがよ。」


ミックという名の男前8頭身がミアに言い返す。


「ミック、お疲れでやんス。」


ポランがミックという名の男前8頭身に挨拶した。


それに対して、男前8頭身はさりげなく手を振って挨拶を返す。

男前8頭身は、ちょっとした仕草でも様になる。

何て羨ましいのだろう。


「よぉ。お前、新入りか?」


ミックは僕の姿を見るなり言ってきた。


「はい、ミライです。よろしくお願いします。」

「なんだ、レベル1じゃねえか。こんな軟弱な奴、使えるのか?」


そう言って、ミックが僕に絡んでくる。


どうやら僕のステータスを見たようだ。

僕もミックのステータスを見てみることにした。


《ミック》

■系統種族:ヒト系-オウガブラッド  ■年齢:21  ■レベル:10

■経験値:10500/12000

■HP:250/250  ■MP:50/50

■攻撃力:40(+60)  ■防御力:30(+30)  ■魔力:5

■ちから:40

■みのまもり:30

■すばやさ:10

■きようさ:2

■かしこさ:5

【スキル】麻痺耐性

     毒耐性

     筋力強化

     すてみ

     不屈

【ジョブ】ウォーリア

【称号】異世界免許教習所に雇われし者・ホープ


強い。

僕では、どう転んでも勝てないステータスだ。

称号がホープとなっているからには、期待の新米といった感じなのだろう。


「ミッチー、あのね。ミライは実はとってもすごいのよ!」


ミアはミックの目の前まで飛ぶと、偉そうにポーズを決めた。


「はっ?こいつの何が凄いってんだ?」

「実はね。ミライはしょだ・・・ぃ。」


ミアは、途中まで言いかけると、しまった!と手で口を塞ぐ。


どうやら、さっきの約束を守ってくれるようだ。


「何だよ?何が凄いってんだ?」

「そ、それはあれよ、あれ。ミライは、プラモデルをつくりし者の称号を持ってるのよ!」


ぶふーっ!!僕は食後の一服であるお茶を噴き出した。

ミア、それはダメだ。

僕の秘密をえぐるのはヤメテ下さい。


「何だ?そりゃ?」


ミックが僕を見て問いかけてきた。


「な、何なんですかね?は、はははっ。」


何とか誤魔化そうとする僕の様子を見て、ミックはチッと舌打ちをした。


「せいぜい、すぐに死なねぇようにするんだな。」


そう言うと、ミックはオープンキッチンのカウンターに向かって歩いて行った。

ツクモガミが調理を始めた音が聞こえる。


「ああ見えて、ミックは悪い奴じゃないんでやんス。」


そう言って、ポランが僕に気を遣ってくれている。


「大丈夫。全く気にしてないから。」


僕らは、食べ終わった食器類を返却棚に返して食堂を出た。


外はすでに暗くなっている。

MAPマップを見ると、複数の青い点がこちらに向かってきているようだ。

どうやら、みんな夕食の時間で食堂に集まってきているらしい。


僕は夜空を見上げた。

ここの夜空はきれいだ。

満天の星が輝いている。

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