表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/79

第1章 第4話 どうやら気に入られたらしい

所長の部屋と言われた巨大な建物の中は、驚くほど壮観であった。


天井はものすごく高く、壁という壁には全て本棚が埋まっている。

そして、本という本が、パタパタと宙を羽ばたいているのであった。


「ここにある本は全部“意思を持つコンシャスブック”なんでやんス。」

「本が本として、本がすべき仕事を勝手にしてるのよ。」


本が仕事をする?


「あんたのいた世界にある“コンピューター”みたいなものよ。」


なるほど。

もし、コンピューターの自動演算が目に見える形になったら、こんな感じになるものだと思えば良いのだろう。


それにしても、いったい何冊の本があるのだろうか。

この不思議な光景にどうしても目が奪われてしまう。


すると、奥に“玉座に座った形の巨大な像”があるのに気づいた。

僕の記憶にある古都の大仏さまと同じか、それよりも大きいかもしれない。


その像は全身が光沢のある銀色で、少しだけ七色の光を放っている。

恐らくは、普通の銀などで作られた代物ではなさそうだ。


それにしても大きい。

お金に換算するとすごい価値になりそうだ。


「あれが、所長よ。」


ミアが、心ここにあらずな遠い目をして言った。


「ん?」


僕は首を傾げた。


「所長は希少金属の“ミスリルで作られたゴーレム”なんでやんス。」


ポランが、現実逃避するかのような遠い目をして言った。


「え!? あの大きさの!? ミスリルのゴーレム!?」


驚愕した僕の肩に手を乗せて、その気持ちわかるわ・・・という風に頷くミア。


「そうよ。8つの世界オクタグラムを全部見たって、あれはクレージーな存在よ。」


僕の知る異世界でミスリルといえば、強力な武器や防具に使われるレアな金属素材。

それが、この膨大な質量で目の前にあるのだから、驚かないはずはない。


像の目が輝いた。

そして手が動く。


巨大ミスリルゴーレム所長が、右手でこちらを手招いている。

その手招きが、ぐわんっぐわんっ!という風を切る音が響いてとても怖い。


「さあ、こちらに来なさい。」


足がすくんでいる僕らに巨大ミスリルゴーレム所長が語りかけてきた。


声量は大きく野太い声だが、なぜかとても優しい雰囲気が感じられる声だ・・・が。

ゴーレムが流暢に言葉を話すことにビックリだ。


「ゴーレムもミスリルで作られたら、ただのゴーレムではなくなるのよ。」

「強さだけでなく、頭もすごく良いでやんス。」


僕らは巨大ミスリルゴーレム所長の前に歩み出た。

ミアは僕の頭の上に乗っている。


「さあ、そこに座りなさい。」


巨大ミスリルゴーレム所長は、所長の前に置かれているソファに促した。

ソファは結構な大きだが、巨大ミスリルゴーレム所長の前ではとても小さく見える。


「失礼・・・します。」


僕は緊張しながら一礼をして、ソファに腰を掛けた。


次にポランが、所長の顔色を窺うようにして僕の横に腰を掛ける。

ミアは僕の頭の上で正座しているようだ。

小刻みに震えているのが感じられる。


「ウチの者が、無関係の君を巻き込んでしまって、誠に申し訳ない。」


巨大ミスリルゴーレム所長が頭を下げた。


ぐぉうっ!と強い風が巻き起こって、僕らは仰向けに転げそうになる。

ミアは、僕の髪の毛を掴んで飛ばされないように必死だ。


「いえ、はい・・・です。」


僕は、とにかく声を絞り出してそう答えた。


顔を上げた所長は、僕の顔をまじまじと見てくる。

そして、その輝く目を少しすぼめた。


沈黙の間が少し続く。


「フフッ、ハハハッ、グハハハハッ、ダーッハハハハハハハッ。」


すると、巨大ミスリルゴーレム所長は急に笑い出した。


笑う姿はとても豪快で、笑いながら右手で膝を叩く音がドゴン!ドゴン!と尋常ではない。

ミアとポランはドン引きしている。


「いやいや、これは失礼した。」


巨大ミスリルゴーレム所長は姿勢を正した。


「わたしの名はゴラン、ここの所長だ。」


「は、はい。」


僕は、緊張で声にならない声で返事をする。

巨大ミスリルゴーレム所長、もとい、ゴラン所長はまだ愉快そうに笑っている。


「そして私はね。かつての君に作られたゴーレムなのだよ!」


また膝をドゴン!ドゴン!と叩きながら笑う。


「へ? 所長を作ったということは、こいつが初代の所長でやんスか??」


ポランが僕とゴラン所長を見比べながら言った。


「そう。はるか昔のことだがな。」


ゴラン所長は、昔を懐かしむかのような表情をして頷く。


「かつての君は、“秘宝の世界”で私を作り上げた。」

「はあ。」


僕はよく分かっていないので、間の抜けた返事をしてしまった。


「それから8柱の創造神より加護を受けて、この異世界免許教習所を造ったのだよ。」

「はあ。」


「そうか・・・あれから君は、何度か転生を繰り返しているようだな。」


そう言いながら、ゴラン所長は顎に手を当てる。


「しかし、作られたゴーレムは、いつまでも作り手のシンパシーを感じ取れるものなのだよ。」


「え~っ!あんたすっごいじゃん!」


ミアが飛び回って僕の顔をまじまじと見てくる。


僕が、ここの初代所長だった??

あの湖の先にあった像が、かつての自分だったなんて・・・。

まさか、まさかで実感は微塵もない。


「かつて私を作りだした君は、いまの何という名前なのかな?」

「それが・・・記憶がなくて、自分の名前や自分のまわりの人が思い出せないんです。」


僕はそう答えて、自分のいまの状況を色々と説明した。


「なるほど。空虚な空間に幾つかの記憶が溶けてしまったか。」


ゴラン所長は、顎に手を当てたまま天井を見上げて考え込む。


「よし! それなら、かつての君の名前を名乗れば良い。」

「かつての僕の名前ですか??」


「そう、かつての君の名は“ミライ”という。とても才能に秀でたゴーレムクリエイターだったのだよ。」


「ミライ・・・へぇ~、良い名前じゃない!」

「とっても良いでヤンス!」


2人にそう言われると、僕は嬉しさとともに少し恥ずかしくなった。


名前を付けられるというのは、こういう気持ちになるものなのか。

僕はミライ、ミライと自分の心に刻んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ