異世界の警察
ラプンツェルは神へ祈りをささげていた。
幼い頃から努力をし、今では警備部隊のしかも騎士候補生になるまでになった。
彼女は信仰深かった。これも皆神への祈りを欠かさず行った自分を見ていてくれていたからだと。決して慢心はしなかった。
「ラプンツェル。今日も早いですね」
「はい、シスター。これは私の一日の始まりですから」
「そうですか。あなたほど信心深い人は他に知りません。あなたにシリル様のご加護がありますように」
「いいえシスター。私はすでにシリル様のご加護は頂いております。これは私の日々の感謝の祈りなのです。私をここまで育て上げてくれたシリル様への感謝です」
「そうですか」
ラプンツェルの祈りが終わる。
「祈ってる最中に喋ってもよかったのですか?」
「はっ!そうでした!祈りの最中は黙祷をささげなければならないのでした!」
「そうでしょう。あなたほど信心深い者はほかに知りませんが、あなたほど物覚えの悪い者も私は知りません。これで1012回目ですよ?」
「も、申し訳ありませんシスター・・・」
「私ではなくシリル様へもう一度祈りをささげた方がよろしいのでは?」
「そ、そうですねっ!」
そういうとラプンツェルは再度祈りを再開した。
「ではシスター行ってまいります」
ラプンツェルは教会を後にした。
ここ最近起こっている凶悪連続殺人事件を警備部隊の騎士候補生として捜査のためだ。
このような凶悪な事件に市民は怯えている。ラプンツェルは早く市民を安心させようと奮起していた。
彼女はまっすぐな姿勢でまっすぐ前を向いている。そのまっすぐな心で民を守る騎士になると誓ったのだ。
「これはこれはラプンツェル様。今朝もお早いようで」
「ご苦労様です。で?遺体はどこですか?」
「目の前です」
「なるほど・・・どこですか?」
「足元です。踏んでますよ?」
「わ、わざとです!あなたを試したのです!試すようなことをしてごめんなさい!」
「はぁ」
ラプンツェルは足を退けると血まみれの遺体に向き合った。ついでに右足を地面にこすりつけて血をとっていた。
「これは・・・腹部をナイフで一突き。即死ですね」
「おそらく刺されてから数分~数十分間は生きていたようですね」
「わ、わざとです!あなたを試したのです!試すようなことをしてごめんなさい!」
「いえ、即死で間違いないですよ?治療が間に合わずに死んだことを即死と言うのです」
「知ってます!今知りました!ごめんなさい!」
「それは僥倖で」
ラプンツェルはさらに遺体を観察する。
「争った形跡がない・・・となると・・・最近起こっている連続殺人でしょうか?」
「争った形跡がないということは闇討ちかもしくは催眠状態だったのでしょう。薬か魔術の類か、鑑識が出るまで分かりませんが、他の場所から運んだとは考えられませんね。これだけ綺麗に血痕をつくっているのです。しかも絞殺の痕などもなく死因は出血によるものです」
「となるとやはり・・・」
「しかしながらこの死体からはなにも取られた形跡もなく、素性は冒険者ということです。遺恨という線もあるでしょう」
「なるほど・・・実は私もそう思ってました」
「ですがそうなると冒険者同士が街中で殺り合うということは普通考えにくいでしょう。考える人はバカです。やはり最近起こっている不可解な連続殺人の被害者である可能性の方が高いのでは?」
「な、なるほど・・・って結局連続殺人でいいんじゃないですかっ!」
「ラプンツェル様は冒険者同士の争いと思っていたのでは?」
「ぐっ!ぐぅ・・・っていうかバカって言いませんでした?」
「聞き間違いでは?」
「むむむっ証拠不十分です・・・」
「ですが不可解な連続事件の犯人が冒険者である可能性はあると思われるのですが、ラプンツェル様はそれを指摘していたのでは?」
「え、えーっと連続殺人っぽいけど冒険者同士の争いと思ったけどやっぱりそれはなしで、で、でもやっぱり冒険者同士の争いの犯人であると?そういいたいのですねっ!」
「違います」
ラプンツェルは目に涙を浮かべて泣くまいと必死にこらえていた。
「あのー、あまりうちの先輩をいじめないで貰えます?」
「これはこれはセルギー様。こちらが過去の連続殺人被害者の鑑識結果になります」
「ぐすっ・・・えっ?なんで私の時は見せてくれなかったの?」
「先輩!一緒に見ましょ!」
セルギーと呼ばれた彼女はラプンツェルと一緒に鑑識結果を見る。
ラプンツェルは先輩風を吹かそうと鑑識結果を後輩へ教えようとしたがわからない字を教えて貰っている内に考えるのをやめた。
「やはり最近起こっている連続殺人事件と同じ手口ですね」
「ええ、犯行のやり方から間違いないでしょう」
「えっ?間違いないの?」
「それにしても被害者に気づかれずに音もなく近づき一突き。こんなことができるなんて最早人間技ではないですね・・・」
セルギーは遺体を見て恐怖した。これほどのことが、しかも誰にも目撃されずに行えるなど。
この事件がそう簡単に解決できるとは思えなかった。しかしこれ以上被害者を増やすわけにはいかない。
どこかに手がかりはあるはずだと、現場を慎重に観察し、周囲の音にも意識を向けた。そして思考の渦に飲まれていく。
セルギーは15歳という若さで騎士と天才少女と呼ばれている。今までセルギーに解決できなかった事件はない。
それはセルギーの誇りでもあった。セルギーは己の五感を研ぎ澄ませて捜査を続ける。
ぐぅー
「先輩、ちょっと早いですがお昼にしましょうか」
「・・・うん」