第1話―サバイバー
陽が沈む夕暮れ、若者達は背中に銃を背負って必死に前々だけを見て走った。一人の若い少女が地面に躓くとその場に倒れ込んだ。
『ダナ、早く起きて走って!!』
「駄目! 私はもう無理、走れない……! 構わずに行ってアンナ……!」
「何言ってるのよ! もう家まであと少しじゃない、頑張るのよ!」
もう一人の若い少女が、そう言って髪の短い少女に声をかけて励ました。そして、彼女を起き上がらすと二人は再び前を見て走った。すると背後から、獣の声を上げながら近寄ってくる者の声がした。それと同時に背後で銃声が鳴った。先頭を走っていた黒人の少年は、咄嗟に後ろを振り向くと彼女達に向かって話した。
「クソッ、ダニーが殺られた!! きっと今のはダニーの銃声の音だ!」
ダナとアンナは表情を凍りつかせた。
「きっと私のせいよ! 私がさっきもたついてたから代わりにダニーが……!」
「バカ言わないでよダナ! 貴女のせいなんかじゃない!」
「いや、きっと俺のせいだ。俺がダニーに後ろを頼んだから……。俺が先頭を走ってなければ今頃は……!」
3人はそこで互いのせいだと揉めた。そうこうしてるうちに、背後で再び獣の近づいてくる声がした。それはひとつではなく。多数の獣の声が同時に聞こえた。そこで彼らはハッと現実に返った。
「急ごう……! 早くここから逃げるんだ! こんな所で死んでた堪るか!!」
「ええ、そうよミシェル……!」
3人はそこで相づちすると再び前だけをみて森の茂みの中を突き進んだ。そして、あと少しまできた時、古ぼけた廃墟の外に辿りついた。敷地内はフェンスで周りを囲まれていた。その向こうに廃墟が見えた。中に入れば今よりは安全だったが、そうもいかなくなった。フェンスの外側に影がいくつも蠢いていた。彼らはその姿をみた時、絶句した。
「ストレンジャーだ……! 奴等、さっきまでは居なかったはず…――!」
「ミシェル落ち着いて、きっと他に方法があるはずよ!」
「他に方法? これを見ろよ、他にどこに抜け道はある!? あの中に入らないと帰れないんだぞ!! ストレンジャーがウジャウジャいるのをお前もみただろ!?」
「見たわよ! 私だってあんな中を突っ切るのはゴメンだわ! ましてや、フェンスを乗り越える前に襲われる危険性もある! ダナの体力を見てもフェンスを乗り越えるなんて無理よ!」
「うるさい! 俺だってそんな事は……!」
「2人ともこんな時に喧嘩は止めて! それよりあそこを見て……!」
ダナは廃墟の奥から僅かな光が差し込むのが見えた。そこに人が居るのがわかると2人に話しかけた。
「もしかしたら仲間かもしれない……! 私達が帰ってくるのが遅いから向かえに来たのよ!!」
そこに居た3人は茂みの中から息を殺して身を
潜めると、廃墟の中で明かりが二回点滅するのが見えた。
「ああ、ダナの言うとおりだ! きっとライアン達かもしれないぞ!」
ミシェルは2人にそう話すと、茂みの中から小さいライトを手に持って、二回点滅させて合図を送った。
「よし、一か八かやってみよう。もしライアン達ならきっと俺達を助けてくれるはず。確かあのフェンスの一番端に壊れかけた場所があった。あそこからフェンスを破って下から中に入ろう……!」
「ミシェル、そんなことをしたら……!」
「いいから今はとにかく生き延びるのが先だ! きっとライアン達が何とかしてくれる!」
「わかったわ……! 私もそろそろ体力的に限界だし、ミシェルに同意する! アンナ、貴女は?」
「――わかった。私も覚悟を決めるわ。もうそれしか方法は無いし。それに早く帰りたい。こんな暗闇の外でゾンビの群れに襲われて死ぬのはゴメンよ!」
「よし、じゃあ2人とも俺について来い!」
ミシェルは彼女達に声をかけると、先頭に立って茂みの中を右に迂回しながらフェンスの一番端の奥を目指した。端の方まで身を潜めて歩くと、ストレンジャーに気づかれないように音をなるべく立てずに最小限にしてフェンスまで近づいた。ゾンビの群れはユラユラと漂って歩いていたが、彼らには気づいてない様子だった。ミシェルは器用にフェンスの金網を道具を使って破ると、先にダナとアンナを中に入らせた。ミシェルは最後に金網を潜り抜けると敷地内に入った。すると突然、背後から銃声が鳴り、ダニーの大声が聞こえた。
「待ってくれ、ミシェル!! 俺も、俺も……!!」
息を切らせながらダニーは彼らの方へと走ってきた。銃声とダニーの声に3人は振り向くと慌てて声をあげた。
「嘘でしょ、ダニーが生きてる……!?」
「おいおい、ダニーだ! あれを見ろよ!?」
ダニーは銃を撃ちながらゾンビの群れの中を必死で走ると慌ててフェンスまで駆け寄った。ゾンビの群れは銃声の鳴る音に敏感に反応すると、一気に押し寄せてきた。そして、ダニーがフェンスを潜った瞬間に無数の手が伸びてきた。そこで立ち止まった3人は慌てて引き返えそうとした。するとダニーが大声で走れと声を上げた。
「はしれっ!!」
ダニーはフェンス越しで銃を撃ちならすと中に入ろうとしてきたゾンビを数体撃ち抜いて、彼らに向かって走ってきた。切迫感が押し寄せる中、彼らは一気に廃墟の中へと走って目指した。するとダナが再び扉の手前で躓いて倒れた。
「ダナッ!!」
アンナは扉の外から声をかけ立ち止まった。ミシェルもダニーも先に中に入ってそこには、アンナしか居なかった。ダナの背後からゾンビの群れが一気に押し寄せてくるとダナは恐怖心なら叫び声を上げた。
『キャアアアアアアアアッツ!!』
もう駄目かと思った瞬間、廃墟の中の二階から誰かがスナイパーライフルを使って弾丸をゾンビの頭部に目掛けて撃ち抜いた。ダナに襲いかかったゾンビは、頭部を鋭く撃ち抜かれるとその場に倒れた。呆然となるアンナとダナに誰かが二階の方から声をかけた。
「さあ、何をしている! 早く中に入るんだ!!」
彼女達はハッと我に返ると急いで建物の中に入った。二階からはスナイパーライフルの銃弾の鳴る音が響いた。二階に居る男が銃弾をゾンビに浴びせていると、ミシェルとダニーは扉を急いで塞いで2人に声をかけた。
「さあ、2人とも急いで戻るぞ! ここは彼に任せるんだ!」
「ねえ、彼とはライアン達の事!?」
「いや、違う。ライアン達じゃない! 上にいるのはセスだ!」
『セスがっ!?』
彼女達はそこで驚いた表情をした。
ミシェルとダニーは近くにあった物で出口を塞ぐと、彼女達に声をかけて誘導した。
「ここもそんなには持たない、早く地下室に行くぞ!!」
「でも、セスが上にいるんでしょ……!?」
「彼なら大丈夫だ! さあ、早く!!」
二階にいたセスはライフル銃の銃弾をゾンビの群れに向かって何発か喰らわすと二階から降りてきた。
「お前達何をしている! 早く行くぞ、もたもたするな!!」
ダナはセスに向かって話しかけた。
「どうしてセス、貴方がここにいるの!? ホープに居たんじゃなかったの!?」
「ああ、居たさ。でもお前達の帰りが遅かったから迎えにきた。ライアン達じゃなくて残念だったな」
「そう……! でも、助かったわ……!」
ミシェルは地下室に降りると床に隠された古ぼけたカーペットを捲ると、秘密の抜け道へと繋がる小さな扉を開けた。そして、下の階へと梯子を使って全員で降りた。彼らは地下室にある秘密の抜け道を一気に走ると、暗闇の中で小さな明かりを頼りに急いで出口へと向かった。
「ここの出口から外に出られるぞ!」
「ああ、早くでよう!」
ミシェルは鉄格子の扉の前でそう話すと、ダニーは側で相づちして返事をした。彼女達も疲れた表情で返事をした。そんな時、ミシェルは持っていた鍵を慌てた拍子で地面に落とした。
「ああ、クソッ!! どこに落ちた!! 誰か明かりを頼む!!」
「何をしてるミシェル、早く扉をあけろ!!」
「わかってる、俺だってな……!」
「シッ、黙れ! 奴らが来たぞ!!」
セスは耳を研ぎ澄ますと、自分達がきた道からゾロゾロと人が歩く足音と、獣みたいなうめき声をあげながら近づいてくる声を聞いて一気に焦った。
「ヤバイ、奴等がきた!!」
ダニーは明かりのライトを片手にミシェルに声をかけた。
「何してる!? 早く開けろよ、ミシェル!!」
「うるさい! 今探してる!!」
慌てた様子で落とした鍵を鉄格子の隙間の下から入れると、手を伸ばして探した。
「ああ、クソッ!! 鍵はどこだ!!」
「キャアアアアアアアッツ!!」
ダナは近づいてくるゾンビを目にすると、突然悲鳴をあげた。それと同時にセスが、持っていたハンドガン取り出し、近づいてくるゾンビに向かって撃ちならした。
「早くしろミシェル!!」
「わかってる、わかってるよセス!!」
「俺はこんな所でゾンビに喰われるのはゴメンだぞ!!」
セスは苛立ちを見せるとミシェルを急かした。
「あった! あったぞ! ああ、クソッ!! 鍵が届かない!! 腕が挟まってこれ以上は……!」
ミシェルは鉄格子の隙間からギリギリまで腕を伸ばしたが途中で引っ掛かった。指先の手前に鍵が落ちていたが僅かに届かなかった。
「退いてミシェル、私がやる!!」
アンナは見るに見かねて代わりに自分が鉄格子の隙間から腕を伸ばすと地面に落ちてる鍵を広いあげた。アンナの腕は、ミシェルより細かった。女性特有の体格をいかすと、鍵を拾いあげて急いで鉄格子の扉を鍵でこじ開けた。
鉄格子の扉が開くと、全員は急いで外に飛び出した。セスは外から中に向けて銃弾を放つと、ゾンビを次々に撃ち抜いた。アンナはタイミングを見て、すかさず鉄格子の扉に鍵をかけた。全員はギリギリの所でゾンビの群れから生き延びると安堵した。そして、助かったと胸を撫で下ろした。
「――さあ、戻ろう。ここは危険だ」
彼らはセスの方をみると、黙って相づちをしたのだった。鉄格子の中では、暗闇の中で蠢く獣の声が微かに聞こえた。ゾンビはゾロゾロと足を音を立てながら鉄格子の扉の前に集まると無数の手を伸ばして、彼らをとらえようと手を動かしていた。その光景に彼らは僅かに恐怖に息を呑んだ。
「……もうこの抜け道は使えないかも。きっと中に沢山いるかもしれない。ライアン達に殺される」
「うるさい、ダニー! そもそもお前が銃を鳴らして来たから――!」
「俺のせいか、ミシェル!? そもそもお前が先頭なんかやらなければ良かったんだ!! 途中で俺のこと見捨ておいて良くいえるな!? 俺はあいつらに喰われかけたんだぞ!!」
「ねえ、2人とも止めて!! こんな所で争わないで!!」
アンナとダナは、口論し合う2人を止めに入った。
「お前達いい加減にしろ! 全員生きて帰れたんだ。それでいいだろ? こんな所で争ってもお腹が空くだけだ、やめよう。俺はお前達の争いごとは見たくない。わかったな?」
セスはあくまでも冷静だった。そして、先頭に立つと彼らを導いた。ミシェルもダニーも、ダナもアンナも、セスのその言葉に黙り込むと黙って彼の後を歩き、全員は家路を目指したのだった――。