1-4初陣
「今日から冒険者かい?身体を大事にしながら頑張りなよ!」
「ど、どうも、」
ノルンの街の東門にて門番に励まされながらケンゴは目の前の森に目を向ける。
(森の奥の方には、危険なモンスターがいるって言ってたけど、最初に見た"サイみたいなやつ"よりも危険なのかな?気をつけよう)
ここにおいて、受付嬢も、そしてケンゴ自身も気づかなかったことがある。
それはこの世界の常識とケンゴ自身の常識の違いである。
場所は変わって"ケンゴからしたら"森の浅いところ。
「これで、6本目、クエスト達成まではあと4本か、」
ケンゴは手元にある薬草の絵と特徴が書いてある紙を確認しながらゆっくりと薬草採取を進めていた。
一つ懸念していたことといえば思ったよりも薬草が見つからないことだった。
(今年が不作なのかな?まああと4本だ、さっさと終わらせてしまおう。)
そんなことを考えつつ手を動かしている時だった。
ケンゴの背後に忍び寄る影があった。その影は一見すると人間よりも背の小さい小人のような見た目をしており尖った耳と緑色の肌、そして気色の悪い笑みを浮かべたような顔をしていた。
その小人のようなモンスターは音を殺してケンゴに近づき手にしていた棍棒を高くあげる。
小人モンスターがその笑みをいっそう深くした時だった。ふいにケンゴの右腕が"ブレた"。
そしてそれと同時に小人モンスターの頭部は"弾け飛んでいた"
「....受付嬢さんの言ってた通りだ、浅いところなら危険なモンスターは出ないんだな、」
約20体近くの小人モンスターを倒してきながらケンゴはそんなことを言った。
ちなみに、森の比較的深いところでは薬草はあまり生えておらず、かわりにこのようなモンスター達が出るようになっていた。
しかしその間違いを指摘する者はここにはいなかった。
そんなこんなで、目標本数を集めたケンゴはギルドの受付に戻って来ていた。
だが、そこは来たときとは違って人で溢れかえっていた。
(この人たちはクエスト帰りの冒険者達なのか、まいったなぁ、)
おそらくケンゴが訪問した時間帯は他冒険者はすでにクエストをこなしに行っていたのだろう。
そして今はちょうど帰ってくる頃だったのだ。
(とりあえず並ばなきゃ行けない、でもどこが最後尾なんだろうか、どうしよう、)
悩むケンゴに声をかけるものがいた。
「そこの新人さん!どうしたんだい!」
ケンゴに声をかけた主は茶色の短髪で背中に左手に小ぶりな盾と背中に剣を携えた顔立ちのいい青年だった。
「あ、あ、あの、す、すいません、薬草採取クエストを達成したんですが、どうすればいいか、その、」
「薬草採取クエスト?だったらどこの受付でもできるよ、Cランクより上のクエストだと、専用の受付だけどな、お、一番奥が空いてるぜ!」
彼が示したところを見てみると確かに空いていた。しかし人混みは減っていない。
「あ、ありがとうございます、人が空いてきたら、行ってみようと、」
「そんなこと言ってたら日が暮れちまうぜ?一言声かけりゃ大丈夫だよ!」
「あ、は、はい」
(そんなことをして、怖い人とトラブルになってしまいそうだな、)
青年に言われたことでケンゴは悩んだ、しかし日が暮れるのは帰りが遅くなるのでまずい。
(仕方ない、こうしよう、)
「そうですね、すいません、本当にありがとうございます、では、これで。」
「おう、俺は"キース"ってもんだ!また困ったことがあったらいつでも頼ってくれよな!、あれ?あいつどこ行った?」
大量の人混みの中をケンゴは誰一人としてぶつからず、それどころか、存在を認知すらされずに移動していた。
そして、すんなりと目的の受付に到着した。
すぐににこれをしようとしなかったのはそもそも人混みに入ること自体がケンゴは苦手なのである。
「す、すみません、薬草採取クエストを達成したのですが、」
「かしこまり、あら、ケンゴさんじゃないですか!」
「え?」
そう言われてケンゴは下げていた頭を上げた。
そこにいたのは朝に自分の登録をしてもらった受付嬢
の人だった。
「あ、ああ、朝受付をしてもらった、えっと、」
「セレスですよ、もう忘れてしまったのですか?残念です。」
「す、すみません、人の名前を覚えるのがあまり得意ではなくて、」
「うふふ、大丈夫ですよ、ちょっとからかいたくなっちゃただけです。」
そう言ってセレスは優しく微笑んだ。
「申し訳ありませんでした。それで、クエスト達成報告ですか?」
「はい、そうです。指定された数を持ってきました。」
そう言ってケンゴは薬草の入った袋を出した。
「確認させていただきます。薬草10本確認できました。おめでとうございます!クエストクリアになります。」
セレスは一枚の紙に判子を押し、そして銅色のメダルを5枚とついでに金属製のプレートを出した。
「こちらが達成証明書と銅貨5枚です。お受け取りください。そしてこちらがケンゴ様の冒険者カードです。お待たせいたしました。」
「あ、ありがとうございます、で、ではこれで、、、」
ケンゴはそれらを受け取り帰ろうとした。
「あ、ケンゴ様!言い忘れていたことがありました!」
セレスがケンゴを呼び止める。
「は、はい?なんでしょうか?」
「失礼しました、今回の薬草採取クエストなのですが、指定数以上を持ってきた場合、別途報酬をご用意することができます、また、ほかのモンスターなどの素材も、買い取ることができます。次からはそのような形でお金を稼ぐこともできますので、どうぞご利用下さい!」
「な、なるほど、ありがとうございます」
「はい、ケンゴ様はいいお方なので、今後ともいい関係を、、、、あれ?もういない?」
ケンゴはすでに人混みを抜けてギルドを出ていた。
「この、門、どうやって開けるんだ?」
イリスとレナのいる屋敷に戻ってきたケンゴは門の前で立ち往生していた。
門の鍵の起動法がわからないのである。
「だめだ、何度手をかざしてもうんともすんとも言わない、、、、あれ?」
あれこれとやっていたケンゴはふと門にある鈴の紋章に気付く。
「これって、、、、」
不思議に思い紋章に触れると家の中から鈴の音がした。
しばらくして門の向こうの玄関が開いた。
「お待たせしました。いかがいたしまし、、、、ケンゴ様、お疲れ様でございます。」
玄関から出てきたのはレナだった。
******
「なるほど、失礼しました。なにぶん慌ただしかった故、魔法錠にケンゴ様の魔力を登録するのを忘れておりました。」
「あぁ、大丈夫ですよ、レナさんがいましたし。」
「でも、レナがいなかったら面倒なことになってましたね、ひょっとしたら不審者として、兵士の方々に連行されていたかもしれないですよ?」
「そ、それは困りますね、」
夕食の時間、昨日のようにレナの料理に舌鼓を打ちながら、会話に花を咲かせる。
「ところでケンゴ様、初のクエストはどうでしたか?」
食べ終えて、フォークを置いたレナがケンゴに尋ねる。
「そうですね、やっぱり慣れてないですね。薬草採取という1番簡単なクエストだったはずなんですが、てこずってしまって、」
「なるほど、今年は不作なのですかね、ところでモンスターは倒しましたか?」
「ああ、それらしきものは倒しました。」
「そうですか、モンスターの素材は売れるので倒したらそのモンスターの特徴的な部位を切り取って、ギルドで売るといいですよ。」
「そういえば、セレスさんも言ってましたね、わかりました。」
「レナァ、ケンゴさんを独占しないでくださいぃ、私も話したいですぅー、」
イリスが頬を膨らませながら言う。
「申し訳ございません、ケンゴ様の初のクエストが気になったもので、」
「じゃあ私が話しますね!ケンゴさん!」
イリスはケンゴの目を見据えて聞いた。
「その、セリスさんという方はどういう方ですか?」
「え?セリスさんですか?」
「はい、どういう方ですか?」
心なしかイリスは前のめりになっているような気がした。
「え、えっと、受付嬢の方です、それ以外は特に何も、」
少し押されながらケンゴが、答えた。
「....そうですか、わかりました」
イリスとレナがほっとしたことにケンゴは気がつかなかった。
「でも、慣れないといってもケンゴさんの実力があれば、すぐに上に行けますよ!街1番の冒険者なんてすぐですよ!」
「同感ですお嬢様。」
「あはは、ありがとうございます、、、、」
(それは、無理な気がするなぁ、)
そんな会話が続き時間が過ぎていった。
それから数十分後のこと。
「ケンゴ様、お湯加減はいかがですか?お背中お流ししますので、失礼しま、」
風呂場の脱衣所のドアが開き、風呂を済ませたケンゴが出てきた。
「す、すみません、もう済ませましたので、お気遣いありがとうございます。」
笑顔で礼を言い、風呂場を後にするケンゴ。
「....次は、もう少し早く行きますか、」
何かを企むレナがそこにはいた。
******
次の日、いつもより早く起きたケンゴはレナとイリスがまだ寝ているうちに、朝のウォーミングアップを済ませ、ギルドに向かっていた。
(まだ、陽が出て間もないけど、ギルドは空いてるかな?)
不安を抱えながらギルドに赴く、なかを見てみると受付には人がいた。どうやら空いているみたいだ。
「いらっしゃいませ、ケンゴ様、お早いですね。」
どうやら受付にいたのはセリスだったらしい。
「おはようございます、えっと薬草採取を受けます」
「かしこまりました。こちらがクエスト要項になります。それではお気をつけて!」
受付を済ませ、ケンゴは森に向かった。
******
何かがおかしい
ケンゴは森に入ってからそう思っていた。
(小人の数が昨日の比じゃない、)
森に入って少ししたところでケンゴに小人モンスターが次々と襲いかかってきていた。
次々と襲いからそれら有象無象を処理しながらケンゴはある疑問を抱いていた。
(統率がとれていない、最初から僕を襲う気ではなかったのか?なんだろう、何かから逃げてきた途中のような。)
小人モンスターを処理しながらケンゴは考える、やがてそれは確信に変わった。
とてつもない大きさの力の気配にケンゴは気付いた。
方向は小人モンスターが来る先、何かが力強く大地をかける音がする。
初めて会った鱗をもったサイのようなやつの足音ではない、力の気も鱗サイとは比べ物にならない。
「やはり、何かがいるか、大丈夫だろうか、まずいんじゃなかろうか、」
少しの不安を覚えるケンゴ、ここは異世界、自分よりもはるかに強いなにかが、いるかもしれない。
身構えるケンゴの前に木々を押し除け、ソレは現れた。
登場モンスター:ゴブリン
ランク:D
物理耐性:D
魔法耐性:D
緑色の肌と尖った耳、そして醜悪な顔をした小鬼のようなモンスター、一体一体は弱いが、群れをなしており、統率力が高い、巨大な群れともなればAランクにも匹敵するので、侮れない