#7
門の外で待てと言われ、かれこれ1時間が経とうとしていた。
「なげぇー」とハルが憤る。
「確かにな」「暇だ」とハヤテとダイも嘆いていた。
城塞に着いてから全員が門の前に集められ、外での待機が20分が過ぎる頃には全員が機体から降りていた。
因みにアキとムックも、城塞門前に着くと装甲車から降り、皆と合流して車内で話された内容を説明した。
「成る程、なにも成果無しか。……全く使えない団長と副団長だ」
「ひ、ひでぇ言われようだ!」
「一応他にも指揮官的な人間が、権力を持っているのを聞き出したんだよ!」
アキとムックの説明を受けて、トシがあからさまに溜息をして文句を言う。
「その程度で、情報聞き出したって言われてもな」
説明を受けたメンバーそれぞれで、仮説をたてていた。
最初に仮説を言い出したのは、ジャガーだった。
「もしかしたらこの国の中で、お姫様の……」
一瞬言葉に詰まるとムックが横から
「アーリィちゃん」
「そのアーリィちゃんの下で、権力争いがあるのかもね」
その意見にベンベンは
「遠くから見ただけだけど、アーリィちゃんの周りの人間が争ってる雰囲気は無さそうだったけど」
更にそこにダイが
「それに彼女…えぇと何だっけか?なんとか家の次女って名乗ったんでしょ?なら、お家問題の方が可能性高いんじゃ?」
「もしお家問題?騒動?だとしたらかなり深い話になって、解決するのに時間が掛かるんじゃ」
ハヤテは腕を組み考えながら言った。そしてハルは
「多少ならいいけど時間かかって、明日出勤出来ないなんてなったら流石に困るぜ」
「でも、車内では話せないって、言われたんでしょ」
「まぁね。だから長話になりそうな雰囲気もあったから、城塞で話を聞くならメンバー全員出席の元でってお願いしたよ」
その言葉を聞いた瞬間ムックを抜いたメンバー全員が、アキに冷めた視線を向けた。
「えっ、皆どうした!?なんだかおっちゃんに対する視線が、冷たく感じるんだが」
その答えをカガミが恐る恐る答える
「多分ですけど、メンバー全員で話を聞くってのが、長時間待たされている理由なんじゃないかと」
それを聞いてアキは「あっ!」と声に出し、皆に直ぐに謝った。
その中でも岩に座っていたリュウは、腕を組み貧乏揺すりをしながら激しくし息を荒くしていた。
アキはリュウに近づき「ごめんよ!リュウさん、この通りだ!!おっちゃんを許してくれ」
だがリュウは、むぅぅぅと唸るだけで返事をしなかった。
他のメンバーは、冗談で怒ったふりをしていただけだが、リュウの様子は明らかにおかしかった。
近くにいたエムジーが「リュウさん?」と言うと、ようやくリュウが喋りだした。
「ヤバい!超が付くほどの緊急事態に、身をもって気付いたぜ俺は…」
リュウの意味深な話にダイが
「はっ?お前なに言い出してんだ」
「クッ……」
リュウの言葉に全員が耳を傾け
『ク?』
「ク…が…」
『クが?』
「クソがケツからダイナマイッツしそうだぜ!!!」
『え?……えぇぇぇぇ』
その言葉に全員がリュウの言いたい事全てを理解した。
「おいおい!マジかリュウさん!マジなのか!!!」
「落ち着けリュウちゃん!まだ望みはある!!!」
「リュウさんの使っている座椅子、…あばよ。お前は床を主のクソから確かに守ったぜ」
ダイとアキは焦り、ベンベンは何故か月に向かって死んだ戦友を惜しむように語る。
「ど、どうしよう!どうするんですか!?」とカガミが焦っていると
【あ…あの、城塞の外側にも、トイレがありますが】と
会話を聞いていたコバルトの女性パイロットが機体から、気まずそうに話かけてきた。
ハルは左手をコバルトの方に向け、泣くふりをしながら
「いいんだお嬢さん!アンタの気持ちは嬉しいが、リュウさんのケツはもう……ケツは、もう…」
それを見ていたコバルトの女性パイロットは(この人達…なに言ってんだろう)と思っていた。
ジャガーはリュウの右肩に手を乗せ
「リュウさん、行ってこいよ。トイレはきっと君を受け入れてくれるさ!」
そして左肩にムックが手を乗せ
「リュウさん、何があっても俺達は友達だ!」
そして「うんをぉぉぉ」と叫んだあと、城塞門の横に有る警備室の中に有るトイレに駆け込んだ。
しばらくして警備室から出てきたリュウは、右手の親指を立てて天高く腕を伸ばしながら歩いてくる。
その様子はまるで”俺はやりきった”とでも言いたげな様子だった。
その様子を見てハヤテは
「リュウさん……無茶しやがって…」と、泣いたふりをする。
だがそこにエムジーが
「でもログアウト出来なきゃ、次は俺達がリュウさんの道を辿る事になりますよ」と言うと、全員の顔から冷汗が噴き出る。
「イエャェェェーイ!!!お前ら皆もこっちに来ちまえ!」とリュウが発狂した。
「でもこのまま行けば、確かに次は我が身だな」
トシはそう呟くとハル・ダイ・カガミは
「俺は朝から何も食ってないから大丈夫だな。代わりにコーヒーばっか飲んでて腹が減ったけどな」
「あぁ、分かります。俺も昼抜きだったんで、胃が結構限界かも」
「俺も今日マラソンが授業であったんで、結構腹が減ってます。夕飯前にインしたから、俺も腹が限界です」
そんな話をしていると、後ろから再びコバルトの女性パイロットから
【入国許可が降りました。ご案内しますので、機体を7番格納庫に移動させて下さい】
そう言われると、城塞の門が再び大きな音を立てて開いた。
各々「ようやくか」と口にし、自分の機体に乗り込んだ。
※
機体に乗り込むと城塞内の簡易地図がデータで送られて来て、格納庫までの道のりが表示されていた。
城塞門を通り中に入ると外の荒廃とした感じとは異なり、現代感溢れる街並みが窺えた。
カイヤナイトメンバーが入って来た方の門側は、軍事施設がある方らしく基地が門に隣接しているようだった。
格納庫まで機体を運び、機体をハンガーに格納する。
機体の中にあるカバンを取り出し、全員が機体を降りた。
カバンの中には着替えの軍服が入っていた。
なぜ着替えを持ち出したかと言うと、リアルを求めるアーマード・ブレインでは、パイロットスーツの様な装甲アーマーなどの服を着ていると、相手が警戒して話が進まない事がある。
その為カバンの中には、軍服や通貨などが入っている。
コミュニティーに入っている場合は、コミュニティー指定の軍服が存在する。
因みにカイヤナイトでは、結成した9月4日の誕生石の名前を取った物にしているため、軍服は青を基本とした白が少し入った迷彩色になっている。
格納庫にあるロッカールームで着替え、カバンの中に今度はパイロットスーツを入れた。
全員が着替え終わると、格納庫内に4台の軍用車両のジープが止まっていた。
「こちらにお乗り下さい。御屋敷にご案内致します」
今度は恐らくかなりの歳であろう、老兵と10代半ば位の少年達がジープの運転席に乗っている。
それを見てトシは小声で「噓だろ。これなら自分で運転するぜ」と言い
ハルも「歓迎されてないだろ、絶対に俺達」と愚痴る。
それが聞こえていたアキは
「取り敢えず迎えの車を用意してくれたんだ、感謝して乗ろうじゃないか」
と皆に言って、先頭の車両に乗り込んだ。アキに続いて他もジープに乗り込んだ。
先頭の車両にアキ・トシ・カガミ
2両目にムック・ハル・ジャガー
3両目にダイ・ハヤテ・エムジー
4両目にベンベン・リュウが乗り込んでいた。
基地の中を車で進み街中をま目指す。
基地内を走行中に、カガミはふと思った事を口にする。
「なんか子供と老人、あと女性ばかりですね。ここは本当に軍事施設なんですか?」
隣に座るトシも
「確かにな、俺もそれは気にはなっていた。女や爺さんの兵隊なんざ別に特別変とまでは言わないが、10代になるかも怪しいガキが多いのは異常だ」
アキは隣で運転をしている老兵に
「彼らも戦闘要員…そう思っても?」
カガミ達が気にするのも理由がある。
いくらリアルを追求しているアーマード・ブレインとは言え、少年兵をNPCで実装しているなんて事は今の今迄なかったことだ。
いくらテストサーバーと言えど、そのような事が本当にあるのだろうか?
他のメンバー含めて、そのような事を考えていた
「別段可笑しな話では無いと思いますが…。そうですな、他の国に比べれば確かにネクティアは少年兵が多いかもしれませんな」
運転している老兵は、そう答えた。
「何か理由があるのか?」とトシが聞くと老兵は、肩を落とすように
「10年前のクイーン級討伐戦敗退が一番の原因でしょうな」
「クイーン級ですか?そう言えば俺見たことがないです」とカガミは老兵からトシの方に向く。
「そう言えば…そうだったか?」とトシは首を傾げた。
キメラには基本的に等級が付けられている。
それはチェスの駒のように区切られている。
ポーン級・1~2メートル
ルーク級・5~6メートル
ナイト級・15メートル
ビショップ級・30メートル
クイーン級は現在確認されたデータで30メートル以上のキメラ
特命が下されない限りは、接触禁止生物指定
キング級・確認はされているもののデータ情報のアクセス禁止。
また、全ての戦闘記録は抹消されているとされている。
詰まりカイヤナイトメンバーでも、滅多な事ではクイーン級と戦う事はないのだ。
それを見ていた老兵は
「ほ~う。やはり遠征組みが言っていた通りの方々の様ですな」
アキ・トシ・カガミは老兵に向かって『え?』と声を出す。
老兵は少し笑った後に
「そう驚く事もないでしょう。ソードスパイダーの群れを薙ぎ払い、熟練のパイロットですら恐れるロックビーストを赤子をあしらうが如く倒したとか。その上で我らが国主をお救い下さった。今基地内では、あなた方の話で持ち切りですよ。姫様と兵士達をお救いした、異国の英雄が来たと」
それを聞いてアキは「そいつは…また、どうも?」と言い
カガミは「はぁ」と声に出すだけ。
トシに至っては、聞きたい話の内容じゃないと言わんばかりに、スマホ型の情報端末をいじりだす。
この3人の反応は当たり前だろう。
カイヤナイトメンバーにとっては、どんなにリアルに作り込まれようと、所詮はゲーム内の話なのだ。
英雄と呼ばれようとも、何かの称号を貰おうとも、ゲーム内表示に使うタグ程度のもので、
それならばゲーム内通貨か装備・弾薬を貰える方が嬉しいというものだ。
それを見て老兵はどう取ったのか
「どうやら本当に英雄気質のようだ。謙遜するでもなく、あなた方にとっては困った者を助けるのは、日常生活の行動範囲内ということですか」と言いまた笑いだした。
街の中に入ると更に風景が変わった。街並みは近未来的な構造や建物になっていた。
メンバーにとっては、更に不安になる要素である。
外での風景は今まで通りのアーマード・ブレインなのだが、城塞内部の街並みは別物だからだ。
本来の街は荒廃しており、綺麗な外観を残しているのは、精々軍事施設程度なものだ。
だが実際はリアルの街よりも機能的かつ清潔的で、それは先程の軍事基地でも言えた事だった。
暫く車で走ると街の中心地に林があり、その先に大きな屋敷が見えた。
すると老兵が「あちらが姫様の御屋敷になります」と口にした。
それに続いてアキが
「あぁ、そうそう。アーリィちゃんから、頼まれ事があったんだ」
後ろのトシとカガミが首を傾げたように
「なんだ、この上面倒事はごめんだぞ」
「なにを頼まれたんですか?アキさん」
するとアキは
「カガミ君に直接御礼が言いたいそうだよ」
「俺にですか?またなんで」
「助けて貰ったのに、ちゃんと御礼を言えなかった、だからだそうだよ」
※
アキは装甲車内での事を思い出す。
城塞が近づいた頃の話だ
「アキ団長、お願いが一つあるのですが」とアーリィが言ってきた。
「なんでしょう?」
「私達を最初に助けて下さった、カガミさまのお時間を少し頂けないでしょうか」
アキとムックは不思議そうに顔を合わせた後に、ムックは
「それは構いませんけど……その…なぜカガミ君なんですかね?」
「助けて頂いた時にお礼を言えなかったので、直接カガミさまにお礼を言えたらと」
アキとムックは少し悩んだ、何故ならカガミはアーマード・ブレインを始めてから、交渉事のミッションをした経験が無いからだ。
もしもこれが重要なカギになるイベントなら、カガミに任せて良いものかと思ったからだ。
そこにゴードンが
「私としても、彼には礼を言いたいところだ。彼が駆け付けてくれなければ、姫様達は危なかっただろう」
更にライラとクロエも
「そうですね。私も助けて頂いたのに、失礼な態度を取ってしまいましたから、謝罪とお礼が出来ればいいのですが」
「わ、私も御礼を言わせて頂ければと……」
運転席からも小さな声で「あの出来れば自分も」と聞こえてきた。
全員の視線がアキとムックに注がれる、するとアキは暫くの沈黙ののち
「分かりました。個別に時間を作れるように、カガミ君に伝えておきましょう」
その言葉にムックは
「アキさん、…いいのかい?」と不安を含めて聞く。
「いいのかと聞かれれば、正直どうなのかなと自分でも思うけど……、ダメだね」と言い
アキはアーリィの方に視線を向ける、ムックもそれに続きアーリィを見る
「あんな純粋無垢な目で頼まれたら、なかなか断れないよ」
「はぁ…まぁ、俺もアキさんも自分の娘みたいな女の子に弱いってことだね」
「まっ、そう言う事だね」
※
「とにかくある程度の話が終わったら、カガミ君は少し時間を割いてくれ」
「分かりました」とカガミが答えると、トシが茶化すように
「お姫様にエロイことするなよ」と言った。
カガミが「しませんよ!」と言い合ってる間に屋敷の入り口前に着いた。
車から降り屋敷全体を見回す。カガミの隣でトシが
「やっぱりというか、随分と警備が厳しいな」と言う。
ここに来るまでにも物々しいと言っていい程の装甲車や戦車、それにアーマードブレインが数多く配備されていた。
実際に屋敷の周りにもコバルトが4機程警備している。
「無いとは思うが…ベルトの中のもんは、いつでも使えるようにしておけ」
「分かりました」
トシに言われ、カガミはベルトをなぞる様に触る。
ベルトには特殊な加工を施してあり、刃物が隠されている。
どこでもそうだが重要な建物に入る場合、まず身体検査を行なわれ武器を取り上げられる。
非武装だと不安だとアキの意見から、ジャガーがベルト内にしまえるプラスチック製の小型ナイフを作ったのだ。
強度はある程度加工しているので丈夫に出来ているが、刃先は短く切り付けると言うよりも、投擲武器として使う事を想定している。
心許ない武器だが、実際何度かこのナイフのお陰で窮地を潜り抜けている。
「どうぞこちらです」
気付けばクロエと呼ばれる少女が、扉前に立っておりアキ達を出迎えに来ていた。
彼女の案内で、屋敷の中に踏み入れる。
屋敷は4階建てで、カイヤナイトメンバーは2階の会議室に案内された。
部屋に入り各々椅子に座った。
「また、何時間も待たされるなんてオチはないよな」
ハルは会議室にまだアーリィ達が居ない事に不満を垂らす。
「お姫様ですからね、準備が色々あるんでしょ」と、ジャガーが落ち着かせる。
「実は俺達をここで殲滅して、機体だけ貰おうとか考えてたりして」
リュウがふんぞり返って言うとクロエは「そんな事考えたりしません」と怒る。
そのタイミングで部屋の扉が開きゴードンが先頭になって入ってくる。
「恩人相手に、そのような恥知らずなことをする訳がないだろう」と言いながら入ってきた。
どうやら外まで話声が聞こえていたらしい。
ゴードンに続いてアーリィが部屋に入りその後ろを、ライラが続いて入る。
そしてその後をもう一人の人間が、続いて入ってくる。
「おぉ~、お綺麗なお姉さん」とダイとハルが口にする。
するとその女性に二人が一瞬睨まれる。
「ダイくんハルさん、興奮するなよ」
『興奮するか!!!』と、ハヤテの言葉に二人で言い返す。
四角いテーブルにネクティア勢とカイヤナイト勢で対面する形になり、全員が席に着くとアーリィの御礼の言葉から話がはじまった。
「まずは、窮地に陥っていた私達を助けて頂きありがとうございます。この場に居ない兵士達の分も含めて御礼申し上げます」
椅子に座ったままお辞儀をする。
「その事については、私からも礼を言わせて欲しい。部下共々助けてくれて、感謝する」
ゴードンも礼を述べると同じお辞儀をした。
「礼はそこまででいいでしょう」
そう言ったのは最後に部屋に入ってきた、黒髪のショートヘアーにした、目つきの鋭い強気な女性だった。
「メグミ中隊長、彼らが居なければ、我々は今ここには居なかっただろう」
「その話は既に何度もお伺いしました。早く報酬を渡してしまいましょう。そうすれば彼らがここに居る理由も無くなるでしょ」
「中隊長!いくら何でもその様な言い方は、如何なものかな!!」
「おやめなさい!姫様とお客人の前ですよ。失礼しました、話を進めましょう」とライラがその場を治める。
アキは隣に居るトシに目配せをする、トシは頷くと
「既に団長から俺達が傭兵部隊だと説明は受けていると思うが、依頼を受けてアンタ等を救出をした訳じゃない。俺達にとってもアレは、イレギュラーな出来事だ。だからこちらとしては、機体の整備補給をさせて貰えればそれでいい」
カガミは(トシさんにしては、報酬の要求が無いな)と思っていたら、隣のエムジーが小声で
「下手にこっちから要求すると、フェイク報酬を掴まされる場合があるからな。向こうの出方を先に見るらしい」
「そうなのか?でもそれで報酬が貰えなければ?」
「忘れたのか?俺達の機体は実弾・実剣だぞ、とにかく金が一番掛かる兵器だ。補給の弾薬量さえ指定していなければ、とりあえずの元は取り戻せる」
「なるほどな……結構ゲスイな」
「なに言ってやがる。ウチのコミュニティーに、ゲスくない人間が居ると思ってるのか」
「思……わない…かな」
「だろ」
カガミとエムジーがそんな話をている間に、トシ達の話は本題に入ろうとしていた。
最初に切り出したのは、ゴードンだった。
「それでは本題に入らせて頂こう。貴殿等カイヤナイトに、是非依頼を……」
「私は反対です。実力も分かりませんし、何より傭兵は信用出来ない。傭兵など、盗賊が働く時の為に使う肩書のようなものだ」
ゴードンに横やりを入れたのは、やはりと言えばいいのか、メグミと呼ばれる中隊長だった。
「実力については、話をしたはずだ。それに彼等は信用出来る」
「少し前にもその様な事を言って、盗賊紛いの傭兵を雇った事がありましたが、お忘れですか」
「あれについては、私も反省している。だが、キメラの大群からネクティアを守る為には、苦渋の決断だったと思っている。今同じ状況に置かれれば、同じ決断をするだろう」
メグミ中隊長はため息のあとに
「百歩譲って、あの時の判断が正しかったとしても、私は彼らの実力を知りません。姫様をお守りする立場としては、反対する十分な理由でしょう」
その言い合いにアキが手を上げ口を挟む
「ちょいとよろしいですか?」
「あぁ…どうぞ」とゴードンが促す。
「因みにですが、依頼内容…特に掛かる時間によっては、こちらとしてもお断りしたいのだが」
「アキ殿それは……」
その時だった。アキ達が来た西側の方角から爆発音と共に火柱が上がっていた。
その場に居た全員が、なんだと言った感じになる。続けて会議室の扉が勢いよく開かれる。
そこに一人の兵士が息を切らして立っていた。
「何事だ!」と、メグミ中隊長が声を上げる。
「も、申し上げます!西門方面から盗賊と思われる、大規模部隊のアーマード・ブレインが接近中!!!防衛部隊が応戦中ですが、状況は芳しくなく危機的状況です!」
「馬鹿者!何故もっと早く気付かなかった!!」今度はゴードンが大声を上げた。
「申し訳ありません!オータム要塞との連絡が取れずまた、警戒中の部隊とも音信不通に」
ゴードンは「クソ!」とイラつき、兵士に「私の予備機を用意せよ!第一部隊に、ゴードン・スミスが出撃すると伝えろ!!」
ゴードンはアーリィに向き
「姫様、賊を討伐してまいります」
「お気を付けください、ゴードン」
ゴードンはアーリィに一礼し、今度はアキに向きなおり
「話の途中に申し訳ない。直ぐに戻るゆえ、茶でも飲んで待っていてくれ」
アキは「おう」と一言だけ返す。
そしてそのまま部屋を出ていった。
そしてゴードンとすれ違いに、一人の女の子が入ってきた。
彼女は軍服を着ており、そしてその声は何処かで聞いた声だった。
その答えを出したのは、意外にもエムジーだった。
「あぁ、門に居たヤツか」
カガミが「えっ?」と言うと
「ほら、リュウさんにトイレがある事教えた」
そこに全員が『あぁ』と、納得した。
「でもまさか……お嬢さんだったとは」と、ムックが口にする。
彼女の歳は20位か、上司に似たのかキツそうな性格の金髪ツインテールの娘だった。
そしていつの間にか運んできたクロエの紅茶を飲んだメグミ中隊長は、席を立ち入ってきたパイロットの所まで行くと立ち止まり
「臆する気持ちが無ければ、戦場に顔を出せ。臆する気持ちが無ければ…な」
そう言うとアーリィに一礼し、部屋を出ていった。
残されたカイヤナイトメンバーも、紅茶を啜った後に
「いくら美人でも、あそこまで煽られると流石にカチンと来ましたね俺は」
「俺達の力が知りたい?だったか。ちょいと見せつけてやるか」
ダイとベンベンは、イラつきを隠した感じで口にする。
そこにライラが
「あの…口を挟むようで申し訳ありませんが、7番格納庫までは距離がありますよ」
今度はムックが紅茶を啜った後に
「ライラさん。近くのコバルトパイロットに、機体を奪おうとする人間が居ても、それは味方だと伝えて貰えます?」
「はい?なにをおっしゃって……」
そしてカイヤナイトメンバー全員が、席を立つ。
そしてアキは
「アーリィちゃん、こいつはサービスって事で」
「アキ団長、どちらに?」
「ちょいと遊び場に行って来ます」
そう言うとそれぞれ部屋を出つつ、エムジーとカガミは窓に近づき
「ここの護衛機借りるは」
「俺もここの機体から借りるんで、先に行ってますよ!」
そう言うと屋敷を警護していた機体のコバルトに飛びつく、そして容赦なくコックピットのパイロットに
「どけ」とエムジーは言い、カガミは「借りるぜ」と言って、パイロットを引きずり出し乗り込む。
引きずり出したパイロットはコバルトの手に乗せ、屋敷の会議室に投げ込む。
西門に向かおうとした時だ。窓の近くにアーリィが来て
「カガミ様!あの……あとでお話を…したいのですが、よろしいでしょうか」
カガミは機体をアーリィの居る窓枠に近づき
「あの……えぇ…分かった。それと様呼びは止めて貰えると」
「ほら、行くぞ」とエムジーに言われ
「取り合えず話はまた後で!」
そう言うとコバルトのコックピットを閉じ、西門に向かって走り出した。
それを見ていたアキ・ムック・ハルは
「若いっていいねぇ~」「まっ、お行儀は良くないかな」「行儀の良い人間は、俺だけかぁ~」
それを聞いていたリュウは「オヤジ…いや、爺臭いな」と口にする。
その言葉に三人は『誰が爺だ!!!』と突っ込みを入れながら、会議室を後にする。
部屋に残されたアーリィ達は、
「行ってしまいましたね」「紅茶を新しく入れなおします」とアーリィとクロエが話してる横で
「もう!どなたも勝手が過ぎます!!」と、怒り心頭状態だ。
そこにエムジーとカガミに引きずり出されたパイロットが
「あの……我々はどうしたら…」
「そんなの決まっているでしょ!このネクティアが賊に襲われているのですよ!!あなた方の仕事は、姫様とネクティアの民を守る事でしょう!!!直ちに防衛部隊に合流なさい!!!」
「は、はっ!直ちに防衛部隊に合流いたします!!!」と、逃げるように会議室から出て行った。
その後もライラは部屋の備え付けの電話を取り、近くの部隊に連絡を取る。
話の内容は「今から数分間、屋敷周辺に出る盗賊紛いの方々は味方です。決して攻撃しないように。……ですから、数分の間だけと…いいから言う通りになさい!」と揉めていた。
アーリィは西門に向かって、神に祈るように両手を合わせた。
※
アキ達は屋敷の外に出て乗り物の確保をしていた。
「アキさん!取り合えずジープ2台確保した」
ジャガーとハヤテが荷台に機銃が付いた車両を確保していた。
ハルとリュウは、どこから拝借してきたのか、ロケットランチャーとアサルトライフルを人数分確保した。
「でもまだ移動手段が足らんね」とムックが腕を組んでいると、後ろから
【俺等も先に行ってるよ~ん】【遅れるなよ】【お先で~す!】と、ベンベン・トシ・ダイの声だった。
振り向くと3機のコバルトが西門に向かって、駆け抜けていった。
それを見てアキは「ありゃりゃ、出遅れたか」と言い
ハヤテは「あいつら自分の機体だけ、確保しやがって」と言って全員が車に乗り込むのを確認し、アクセル全開で西門に向かった。