#5
時は戻り装甲車前で、ライラと揉めるカガミ
「あなた方は何者かと聞いているんです!!!」
「だから、さっきから言ってるでしょ。カイヤナイトのカガミって」
「そのカイヤナイトとは、どこの組織ですか!答えなさい!!!」
「多分……傭兵…かな、でも違うか?」
「自分の所属している組織が分からないパイロットがいますか!本当は何処かが雇った暗殺者なんでしょ!!!」
「この状況で、その勘違いは無いでしょ」
「御黙りなさい!姫さまには、指一つ触れさせませんよ!!」
カガミが頭を悩ませていると、装甲車を守るように囲んでいたハヤテ機のリベラルクリフトが、頭部ユニットだけをこちらに向け
【どうだいカガミ君、話は進んだかね】
カガミは手にしていたヘルメットを顔に近づけながら、リベラルクリフトの方に向き
「それが全然話が進まなくて…、ハヤテさん代わって下さいよ」
【ハイよ~、ちょっと待ってね。今降りる】
ハヤテが機体から降りようとリベラルクリフトを屈ませようとすると、横にいたダイ機とジャガー機から
【ちょっと、なに堂々とサボろうとしてんですか!】
【ハヤテさん、流石にまだこの数で俺とダイさんだけじゃ無理だよ!】
【えぇ~…ジャガーさんはしょうがない。ダイ君は2、3人分位働け】
【待て!ジャガーさんとの扱いの差についての、説明要求をする】
【簡単だよ!それはダイ君だからさ☆】
語尾にキラっと星でも付きそうな感じで言うハヤテに対してイラっとした感じで
【ほう~、なんてイラつく無茶振りをしてくるんだこのお方は!】
【褒めるなよ~】
【褒めてね~よん、殺意が沸いてるんだよん☆】
カガミはこのアホらしくも殺伐とした会話を遮るように
「あの~、とにかく誰か来てくれませんか?」と割り込む。
カガミ達のやり取りを聴いていたメイドのクロエが「責任者の方が居られるのなら、その方に……出てきて…頂ければ…いいのでは」と、ライラの背中に隠れるように言った。
カガミが振り返るとクロエは「余計な事を言いました!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」と、カガミに謝っていた。
クロエを守るように両手を広げ、ライラはカガミを睨みつけていた。
そこに機体の中から聴いていたハヤテが
【あぁ、成る程。そう言うことか】
「何か分かったんですか?」
【団長か副団長かじゃないと、話が進まないミッション系ってやつ】
「あぁ、成る程。だから俺じゃ話が進まないのか」
【となると、ムックさんは遠いいから、アキさん!団長必須のミッションなんでこっちに来て貰えます】
※
装甲車から少し離れた場所で、ロックビースト数体を相手にハルバートで戦う機体があった。
団長アキ専用機の號龍である。
ハルバートを使う戦い様は、まさに狂戦士と言っていいほどに荒々しかった。
近づくロックビーストの首元を軽々と両断して跳ねていく號龍。
時に牽制でアサルトライフルを撃ち、キメラに襲われ掛けるコバルトを助けていた。
その様子を見ていたコバルトのパイロット達は
【……凄い】【俺達は夢でも見ているのか】【生き残れる!助かったんだ、俺達!!!】
パニックを起こし、散り散りになっていたパイロット達に希望を与え、冷静さを取り戻させていた。
その時、アキに無線でハヤテからこちらに来るように連絡が入った。
アキは【了解!ベンベンさん、リュウさん、ここをお願いね】と言うと號龍は、襲い来るロックビーストの攻撃をヒラリヒラリと躱し、装甲車の方に駆け抜ける。
號龍を逃がすまいと4体程のロックビーストが、號龍に殴り掛けた瞬間だった。
先頭を走っていたロックビーストの上半身が肉片となって飛び散る。
【は~い、お任せ!】との声を出しながらロックビーストの前に現れたのは、ベンベンの乗る秋水だった。
右腕が大型のハンマー化しており、ハンマー先端部は分厚い三つ爪になっている。他に所持する武装は無い高機動軽量機の為か、他のカイヤナイトメンバーの機体に比べて、細い機体だ。機体配色は全体的に、ベージュ色である。
爪のその少し上には小型の杭が装填されており、これを連射してロックビーストの足を地面に打ちつけた。
【これで逃げれねぇだろ。リュウさん殺っちゃって!】
【ウィース】と言いながらロックビーストの後ろから、地響きを立てながら現れたのはリュウの専用機デュークスだった。
背中に背負っていた大型ハンマーを掴むと、ブォンとバイクのエンジン音の様な音を鳴り響かせロックビーストの頭上に振り上げる。
そして振りかぶる瞬間ハンマーのヘッド部分の逆側から爆発的なジェット噴射が起き加速し、ロックビーストの身体を一撃で粉砕した。
するとハンマーの上部からカコンとの音と共に薬莢が飛び出て、柄部とバックパックを繋ぐ供給ベルトから再装填される音が鳴り響いた。
秋水も同様にブォンとバイクのエンジン音の様な音を右腕から鳴り響かせると、飛び上がり右腕を限界まで後ろに引き下げると同時に機体自身のスラスターと右腕のブースターで加速し、ロックビーストの上半身を殴りつける。
すると見事にロックビーストの下半身だけを残して、上半身をミンチに変えた。
その様子を離れた岩場の上から見ていたトシは機体のコックピットで
「みんな野蛮だねぇ」と言い、自機のヘルハンターにスナイパーライフルを構えさせる。
トシのパイロットスーツとリンクし、パイロットスーツのバイザーに拡大された映像が映し出される。
そこには、装甲車まで走る號龍とそれを後ろから追うソードスパイダーが居た。
アキも追われているのに気づいていたのか、號龍の左手で親指を立てながらヘルハンターに向け
【任せるぜぇ~トシリン】と言い、それに応えるように今度はヘルハンターが左手で親指を立てながら
【OK!アキッチ】と答える。
その無線会話を聴いていたダイが
【その呼び方についての突っ込みはした方がいいですか?したら負けですか?】
【突っ込む要素ないだろ、D】
【変なニックネームで呼ばないでトシさん!】
会話をしつつも、ソードスパイダーに狙いを付けて引きがねを引くトシ。
號龍に飛び掛ろうと飛び上がった瞬間のソードスパイダー数匹に、全弾命中し空中で全て仕留めた。
アキはそれを確認し【あんがとよぉ~】とだけ礼を言う。
ちょうどアキの視界に装甲車を守る、富嶽・リベラルクリフト・クロスドクターの3機が見えた。
3機の弾幕火力は非常に高く、キメラは全く近づけない状態だった。
その状況を理解してかコバルトのパイロット達の殆どは、この3機の弾幕の傘に逃げ込んでいた。
アキは射線に入らないようにと、號龍のスラスターで飛び上がり装甲車の前に膝間着くイヅナの横に、同じ様に自機を膝間着かせた。
そしてコックピットのハッチを開き、ウインチを使って降りた。
「待たせて悪かったね、カガミ君」
「アキさん、良かった。俺だけじゃダメみたいで」
「と言っても、おっちゃんも何すればいいのか分かんないんだけどね」と笑いながらカガミに話ていると、未だに装甲車の入り口前で睨みをきかせていたライラが、一歩前に出て
「貴方がこの集団の責任者ですか!姫さまの前ですよ!!その被り物を外しなさい!!!」
アキは「こいつは失礼」と言いながらヘルメット越しに頭を掻きながら謝ると、被っていたヘルメットの首の後ろにあるスイッチを押す。
先程のカガミ同様にプシュッと空気の抜ける音と共にヘルメットを脱いだ。
「どうも~、団長のアキでございます」
恐らくアキ団長的には、相手を怖がらせまいと笑顔で応対しようとしたつもりだったが、アキのアバターの外見は鋭い目つきに短髪頭で渋い雰囲気が任侠物に出そうな組長面なのだ。
そんな人間が作る無理やりな笑顔は、逆に相手を怖がらせるだけだった。
案の定クロエとライラそれと運転席に居た兵士は
「うぇぇん、怖いです」と、半泣き状態でライラの腰にしがみつき
「ふ……二人には…指一つ、ふ…触れさせませんよ!殺すなら私からにしなさい!!!」と、恐怖で目を瞑り更に両腕を広げるライラ。
「ふぁぁぁ、神様ぁぁぁ」と、運転で縮こまり泣き叫ぶ兵士。
その反応を見てか今度はアキが、膝から力が抜けた様に崩れ落ち
「そんな…そんな反応しなくたっていいじゃないか、確かに今までもこの見た目で散々弄られてきたけど……先に殺すとか、殺さないとか…おっちゃんにだって傷付く心が有るんだぞ!」
それをフォローしようとカガミは
「あ、あのウチの団長。えっと、アキさんはこんな見た目ですけど、なんて言えばいいのか戦闘中とかは怖…じゃなくて興奮状態でアレですけど、普段は優しくて良い人ですから。普通に話だけでも聞いて貰えませんか」
「カガミ君、今どさくさに紛れて…おっちゃんの事ディスらなかったかい?」
「えっ!?すいません上手くフォロー出来なくて」
カガミはアキの方に向かって頭を下げて謝った。
アキはグハァ、と唸り声を出すと
「今の謝罪は逆にリアルぽくなるから…やめてくれぇ~」と完全に地面に倒れ込んだ。
それを見ていたジャガーが【アキさ~ん、コントは後にしてくれ~】と機体越しに言ってきた。
アキもその一言で取り合えず立ち上がり、そして
「ジャガーさん、へこんでたのは…マジなんだぜ」と沈んだ表情で答えた。
それを見ていたカガミは内心(へこんだ表情も、結構怖いなぁ)と思ったのは秘密である。
コントのようなやり取りを他所に、アキとカガミの前に一人の女の子が歩いて来た。
ライラ達に守られていたはずのお姫様が、制止を振り切り二人の前まで来たのだった。
「危ない所を助けて頂きありがとうございます」と、ドレスのスカートが地面に着かない様に摘みながら頭を垂れる。
それを見ていたアキとカガミそして、機体のコックピットモニターから見ていたカイヤナイトメンバー全員が心の中で『本物のお姫様だ!!!』と叫んでいた。
お姫様はアキの顔を見ても別段恐怖する様子も無く普通に接してきた。
「家臣の非礼をお許し下さい。私を思っての事ですので、責任は私にあります」
お姫様が頭を下げようとすると、アキも慌てて
「あぁぁ、こちらも気にしていないので、そんな謝らなくていいですから」
そんなやり取りをしていると、お姫様とアキ達の間にライラが割って入る。
クロエもお姫様を守るように少し前に出る。
運転席に居た兵士もライラに引っ張られてか一応出てきているが、アキ達が味方である事を祈る感じで様子を窺うだけだった。
「姫さま危険です!こんな素性も分からない者達の前に出るなど」
「ですがライラ。この方々が居なければ、私達は今頃は全員キメラに殺されていました」
「まだ分かりません!油断させておいて、姫さまを攫う可能性もあります」
二人が揉めているとそこに
「ライラ殿、その可能性は無いと断言しよう」
いつの間にか一人の頭を坊主にしている厳つい年配のオヤジが近づいて来ていた。
そしてアキの前に立ち右手を差し出しながら
「師団長のゴードン・スミスだ。危ない所を部下共々助けてくれたこと感謝する」
アキも右手を差し出し握手をしながら
「カイヤナイトで団長をしているアキです。よろしく」と、挨拶を交わす。
すると横からライラが
「姫さまを攫う可能性が無いと、何故断言できるのですゴードン師団長」
ゴードンはライラの方に向くと
「簡単な話だ、ライラ殿。我らを助けたのが理由と言っていい」
「だから!その理由を聞いているのです!!!」
ライラは苛立ちを隠そうともせずに、ゴードンに怒鳴る
「先ほどからの戦闘をライラ殿も見ていたはず。姫様を攫うなら、我ら諸共殲滅していただろう。少なからず彼らにはそれが出来るだけの力がある。だが彼らは姫様の乗る車輌を今も守り、団長自ら機体から降り出向いてきているのだ!感謝をすれど疑うのは非礼というもの、違うかね?」
「それは……そうかもしれませんが…」
ライラも冷静になったのか、アキに
「御見苦しい所を御見せしました。それと無礼な発言の数々、誠に申し訳ございませんでした」
クロエも同じ様に頭を下げながら
「誠に申し訳ございませんでした」と頭を下げる。
アキは逆にアタフタし
「本当に気にしてませんから、ね、ね。頭を上げて…割とマジでお願いします」
その様子を何処で見ていたのか、アキのヘルメットの通信機から、ハヤテ、ダイ、トシ、ハルが
【アキさん暗黒面の部分をぶつけるのは、ダイ君だけにしなよ】
【流石はゲスの師匠!女性相手でも容赦ない。そしてハヤテ先生も暗黒面の人間だからね、何言ってるの】
【アキッチ、昔はこんな奴じゃなかったのに、なんで変わっちまったんだ】
【アキさん、そういう性癖は隠してお~け~よ~】
アキは悔し涙を流しながら
「こう言って煽ってくる子達ばかりだから、謝罪も頭も下げないで欲しかったんだよなぁ」
カガミはその様子を見て苦笑いをしていた。その横でゴードンは声を細めてお姫様に話をしていた。
「姫様、彼らは傭兵だと聞きました。多分ですがこの戦闘は、彼らにとってもイレギュラーな出来事だったのでしょう。彼らに今回の救援に対して御礼もした方がいいでしょう、共に城塞に来て頂くべきかと」
「そうですね。ですがここでお渡し出来る物が有ればひとまず先に何かを……」
「いいえ姫様。城塞にて、もてなすべきです」
「なぜです?城塞まではまだ距離が」
ライラは成る程といった様子で理解し
「姫さま、私もゴードン師団長と同じ意見です。その後の事はメグミ中隊長も含めてお話をしましょう」
「待って下さい。二人はなにを考えているのです」
「ここはこのゴードン・スミスに全てお任せ下さい」
そう言うと再びゴードンはアキの元に戻った
アキがカイヤナイトメンバーに弄られていると、横からゴードンが来て
「アキ団長殿、少しよろしいだろうか」
「あぁ、はいはい、よろしいですよ」
「助けて貰った礼がしたい、だが今手元には何も無くてな。出来れば共に城塞に来て貰いたい、食事と機体の整備と補給位のもてなしはさせて欲しい。恩人をここで返しては、姫様の名に傷が付く」
「う~ん、城塞の距離はどれくらいで?」
「まだ少し距離がある。だがそれ程時間は掛からないはずだ。いかがだろう」
アキは考えていた、そろそろいい時間になってきたので、何人かは明日の仕事などで落ちる時間になってきていたからだ。
「ちょっと皆にも聞かなきゃなんで、少し時間くれます?」
「分かった、だが場所が場所なだけに早めに頼む」
するとアキはカガミを連れて號龍の前まで来るとヘルメットの通信機で
「敵は全部片付いたかい?」
エムジーが無線越しに
【俺が今仕留めたのが、取り合えず最後みたいです】
「了解。皆一回俺の所に集まってくれるかい」
すると全員から『了解』と返事がくる。
暫くして號龍を中心に、全員の機体が集まりコックピットからウインチを使って降りてくる。
全員熱っち~と言いながらヘルメットを脱いだ。
するとムックが
「で、報酬はどんな感じ?」とアキとカガミに尋ねる。
「それがさぁ」とアキとカガミは一連の説明をしだした。
城塞まで行かないと報酬が貰えない事を話すと、何人かはマジかぁと困った様子になった。
トシ、ハヤテ、ダイ、ムック、ハルはそろそろ落ちないと、明日の仕事に響くとして城塞に向かうのは無理だと言い。
ベンベンに関しては、あと2時間後には出社との事でやはり城塞に向かうのは無理だと言う話の流れになった。
残ったアキ、リュウ、エムジー、ジャガー、カガミで、城塞に向かうかとの話も出たが、この人数で追加のミッションでも発動したら流石に遅い時間になると判断し、城塞に向かうのは止める方向に決まった。
そこでトシが
「俺は明日朝早いから先に落ちます。ダイさん俺の機体基地まで運んでおいて」
「いや、俺も落ちますよ。悪いリュウさん、俺の富嶽運んでおいて。絶対に傷つけるなよ」
「おう!ベッコンベッコンにへこませておく」
「止めんか!」
そんなやり取りをしていた時だった。ハヤテが
「はぁ!?」と、奇声を上げた。
カガミがどうしたんです?とハヤテに聞いた後で今度はトシが
「あれ?バグか」と、首を傾げる。
二人が同じような反応をしている答えをムックが出してくれた。
「ログアウト表示が消えてて……落ちれない」
その言葉を聞いて全員が所持している、スマホの形をした情報端末を操作しだす。
すると全員が保々同じリアクションで『マジか!俺のも消えてる!!!』と声を上げる。
そしてそこに更にエムジーが一つの疑問を投げかける
「暗くて気付きませんでしたけど、俺等の機体に付着しているこれって……血ですよね」
その言葉が合図だったかのように、雲で遮られていた月夜の光が各々の機体を照らし出す。
そこには返り血を浴びて、血に染まった愛機が照らし出された。
カガミはその光景を見て
「噓だろ……有り得ない」と口にしていた。
アーマード・ブレインを始めたばかりのカガミにですらこのゲームを始める前から知っている、一つの法がある。
それは、このアーマード・ブレインがリアルに近く造られたが故に作られた法律。
映し出される映像の出来栄えと、VRに接続された脳に信号を送り感覚すら体験が出来るが為
バーチャル世界と現実世界の区別を付ける上で
リアル体験を可能とする全てのゲームには絶対に
”血”の演出を入れてはいけないと言うものだ。