#15
【全機オータム要塞に一時退避!リンダ時間を稼ぐ、私に続け!!!】
メグミのコバルトが、右手にビームソードを持ち蜥蜴型キメラに突撃する。
その後ろを副隊長のリンダ機が続き
【第1小隊・第2小隊は、メグミ隊長と私に続け。その他は要塞内に入り、外壁通路から援護】
精鋭のみを引き連れキメラに攻撃を仕掛けるように指示を出す。
【お前達は要塞に逃げ込め!行くぞジョン、ネクティアがこの状況をどうにか出来ると思えない】
【分かってるさ。俺達が時間を稼がなきゃだろ】
ヴァレリーとジョンのコバルトも、キメラに向かい走りだす。
蜥蜴型のキメラはとにかく狂暴で、前足の爪でコンテナを引き裂き無理矢理に出てきた。
そこにベンベンの操る秋水が、キメラの頭上からバスターアームで殴りかかろうとしたが…
”シャァー”と威嚇したのち、長い尻尾でバスターアームを弾き返す。
キメラが振り払った尻尾の一撃は非常に重く、軽々と秋水を跳ね飛ばした。
【この野郎!】と言いながら、ベンベンは機体を空中で立て直す。
その隙を突き、アキ・ムック・ハルの機体が、キメラに斬りかかる。
アキの號龍はキメラの背に乗りハルバードを振り下ろす。だが、キメラの黄色い外皮はゴムのように弾力があり、ある程度はハルバードの刃が食い込むものの、外皮表面を傷を付ける程度にとどまる。
ムックの月光がスラスターを吹かし、大型ランスでキメラの腹部目掛けて突撃し突き刺すが、緑色の部分に当たると”ゴン”と音が鳴り響き、逆に月光が後ろにのけぞる形になった。
ハルのマークスマインはサブマシンガンを撃ちながら近づき、頭部に近づくと小型ナイフを双剣に持ち替え斬りかかろうとする。
キメラもただ黙って斬られる訳もなく、前足を突き出し反撃をする。
前足の爪は非常に鋭く、マークスマインはその一撃をいなすのに手一杯だ。
そこにリベラルクリフト・富嶽・クロスドクターの3機による銃撃が、キメラの頭部に集中する。
流石のキメラも怯み、後ろに下がる。
そこに更にリュウとエムジーのデュークスとアルダートが追撃する為に近づこうとするが野生の本能的なものだろうか、カイヤナイトの機体が厄介と判断すると、デカい咆哮を何回かし、迫りくるデュークスとアルダートを無視して別の物に狙いを変えた。
それは要塞入り口で争うDキャンパーとスカル・ルージュ隊であった。
アキが【マズイ!皆!!!】と指示を出したのと同時に、地面の至る所で土が盛り上がり、そこからルーク級のグストンと呼ばれる8メートル程の蜥蜴型キメラが大量に、地面から這い上がってきた。
その状況に気付いているのか、そうでないのか、いまだ要塞入り口前では
【このローデンハイムの飼い犬共が!】【ここは既に俺達の要塞だ!お前達を入れさせる訳にいくか!!!】
【姫様に弓引くテロリスト共が、貴様等はキメラの餌になるのがお似合いだ!】
【貴様等全員、この場で拘束してくれる】
などと言い合い、戦闘をしていた。
それを遠くの方から見ていたトシとカガミは
【あのバカ共何やってやがるんだ!状況を読むことすら出来ないのか!!】
トシは苛立ちながらルヴニールの冷却作業をしていたが、2射目を撃ってから冷却機能が大幅に悪くなり、ヘルハンターのモニター画面には所かしこにエラーメッセージが埋め尽くされている。
【トシさんあのデカいトカゲはなんです!?危険種って】
【ベンベンさんは、そんな事も教えて無かったのか】
トシは作業をしつつイラつきながら
【あの蜥蜴型キメラはナイト級・フォルストレザール。平均体長約28メートル。本来キメラは全てに等級が付けられているのは、カガミンも知っているな】
【はい。等級=キメラの強さと危険度だって教えられました】
【その通り。それに間違いは無いんだが、等級はキメラの大きさによって振り分けられたものだ。だがキメラの中には等級以上の強さを持つ個体もいる、それが危険種だ】
【どんな風に危険なんですか?】
【フォルストレザールは、狂暴で目に入った生き物や動く物は見境なく襲う。特筆すべき能力は他のキメラ程はないが、自然界には無い特殊な金属で出来ている尻尾と爪・牙・頭の鶏冠は、ヤツの最大の武器だ。コバルト程度の装甲なら、バターを切る程度の作業で殺られるぞ】
【マジですか】
【あとは同じ蜥蜴型キメラを従えてる事が多い、さっきの咆哮は付近に居るグストンを呼び集めていたんだろう。そもそもビショップ級に指定されなかったのも平均的な大きさが数メートル足りなかっただけで、どう考えてもナイト級に収まるようなヤツじゃない】
カガミはトシの説明を一通り聞きつつ、フォルストレザールの居る方向に視線を移すと、メグミ達に接近しつつあった。
メグミ中隊長の機体がフォルストレザールの頭部を狙い、【化け物トカゲ!!!】と気合いを入れてビームソードを振り下ろす。
それに合わせたように、リンダの機体も【これより先に行かせるか!】と、目を狙いビームソードを突き出す。
二人の攻撃を嘲笑うように唸り声を出しつつ、寸前の所で体をくねらせ避ける。
【デカい癖に、なんて素早い】
リンダはあまりの素早さに驚くばかりだったが、メグミは危険種との戦闘経験があるのか、付いて来ていた小隊にすぐに指示を出した。
【第1小隊・第2小隊!避けろ!!!】
指示を出された小隊のパイロット達は、迫りくるフォルストレザールに、不気味さに恐怖でたじろぎ、ビームガンを咄嗟に撃ち出す。
【く、来るなぁぁぁ】
一斉にビームガンをフォルストレザールに撃ちこむが、焦げ跡一つ残らずダメージを与えられない。
そして距離を一気に詰められる。
【逃げろ!!!】と、メグミの指示も虚しく
フォルストレザールは頭を低くしそのまま小隊に突撃して、頭の鶏冠と尻尾の刃部分でコバルトを切り裂いて行った。
そこに残ったのは、生き残ったパイロットの絶望から出た嘆きと、負傷して唸り声しか出せない者達だけだった。
スカル・ルージュ隊の後方を走っていたヴァレリーとジョンは、フォルストレザールが突撃して来た際にスラスターを使いジャンプし、装備していたビームガンを上空から背中に目掛けて撃ちこんでいた。
【やはりビームガンではダメか】
【どうするヴァレリー?やっぱりビームソードで、接近戦を仕掛けるのか】
【そうするしかないと思うが…、危険種相手に俺達の機体じゃ……】
【でもやるんだろ。俺達がやらないと、皆が危ないからな。そうだろ?】
ヴァレリーは【フッ】と笑うと、今はここに居ない無鉄砲なリーダーを思い出す。
【そうだな。ベルナールが居たら、迷う事すらしなかっただろうな】
二人は要塞入り口に向けて走り続けるフォルストレザールの後を追った。
その頃未だにルヴニールの冷却作業が終わらないトシとカガミは色々と焦っていた。
【クソォ~、次から次にと】
トシの声はこれでもかと低い声で、イラつきが目に見えて分かる状態だった。
グストンの群れの一部が、トシとカガミの居る方に向かって来たのだ。
数が非常に多い上に、体の長さこそ8メートルあるが、高さが2メートル半くらいな為、全長15メートルのアーマードブレインで倒すとなると、時間が掛かる。
1匹、1匹の戦闘力はそれ程でもないが、数を揃えるとこれ程面倒なことはない。
【カガミン!ちゃんと仕事しろ!!こいつら一応、さっきの連中よりかは弱いんだからな】
トシのヘルハンターは地面に投げ捨てたサブマシンガンを拾いマガジン交換をすませ、近づくグストンを撃退しつつ、ルヴニールの冷却作業をしていた。
【無茶、言わないで、ください、よ】
イヅナはバスターソードを振り回しながら、グストンを斬り倒していた。
最初はトシの方に行かせまいと、ルヴニール付近に近づくグストンを集中的に倒していたが、そのうち違う方向からも現れイヅナの背中に飛びつかれたりと、四方八方から襲われ始めたのだ。
【ベンベンさん、アキさん!すいません、援護に来れますか】
カガミはこの数相手に、1機だけではルヴニールの護衛は難しいと判断しベンベンとアキに援護要請したのだが、返ってきたこたえは……
【無理だカガミン!こっちに居たグストンが、全部フォルストレザール追って要塞の方に行きやがった】
【すまないカガミ君、トシさん。このままアイツを放置すれば、ヴァレリー君達とメグちゃん達が危ない。おっちゃん達は、フォルストレザールを追う】とベンベンとアキから返事が返ってきたのだ。
【そんな!?俺1人じゃ正直そろそろキツイですよ】
【コラ、カガミン!泣き言をいうな!!俺達なんて弾薬使い果たしたうえに、連戦状態の機体で、フォルストレザール戦用装備じゃない状態で戦うんだぞ。泣きたいのは寧ろ俺の方だ、こん畜生!!!】
本来フォルストレザールの様な危険種やビショップ級キメラと対峙する場合、各コミュニティーで数機、特殊兵装を装備した機体を用意するのがセオリーである。
カイヤナイトの場合は、ハルのマークスマインがその役割である。
渦龍槍と呼ばれるパイルバンカーを、マークスマインの両腕に装備し、目標のキメラに撃ち込むのだ。
撃ち込まれたパイルバンカーは先端部分がキメラの外皮をある程度貫通すると、自動で先端部分が開きそこから、対キメラ用化学薬品が注入される。
さほどの時間を置かずに、キメラの外皮は弱体化し、更に動きを鈍らせる作用がある。
一言でいってしまえば、大きな注射器だ。
余談ではあるが、この兵器は使い切りであり、恐ろしく費用が掛かる為、ほとんどの場合渦龍槍よりも効力の下がる対キメラ用化学薬品入りのミサイルを、ハヤテのリベラルクリフトに装備し使用している。
【駄目だ、このままだと冷却作業に時間が掛かり過ぎる。カガミン!俺達も皆と合流するぞ】
トシはルヴニールの冷却作業を諦めて、前線に上がる判断を下した。
【でもいいんですか?ルヴニールの威力なら、フォルストレザールを倒せるんじゃ……】
【いつまでも使えない兵器の為に、時間を取る訳にはいかないだろう。今は前線の数を揃える方が最優先だ】
【分かりました。トシさんについて行きます】
付近に居たグストンをある程度掃討し、ヘルハンターとイヅナは要塞に向け走り出した。
※
時を同じくしてオータム要塞前は、地獄絵図と化していた。
フォルストレザールは既に要塞入り口前に到達し、見境なくDキャンパーとスカル・ルージュ隊を襲っている。
フォルストレザールは1機のスカル・ルージュ隊の機体を両手で肩を押さえつけ、コバルトの頭部ユニットにかぶりつく。
【あっ、あっ、あぁぁぁ】と叫びながらパイロットが機体から脱出するが、地面に降りた所にグストンがおり、そのまま「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と悲鳴と共に数匹に取り囲まれ捕食される。
フォルストレザールはコバルトの頭部ユニットをかみ砕くと、次の機体へと襲いかかる。
その間もDキャンパーとスカル・ルージュ隊の機体から、ビームガンが一斉射撃されるが、気にする様子もなく、確実に1機づつ襲っていった。
今度はDキャンパーのコバルトが狙いを付けられ、追いかけまわされる。
【だ、誰か、誰か!誰か助けて!!お願いだぁ、誰か助けて!!!】
半泣き状態の声が戦場に響き渡るが、誰も助けには来ない。
恐怖で要塞内に我先にと逃げ込むのを優先としている者もいれば、助けに行こうとするがグストンに襲われそちらの対応に追われる者と、他人を助け出せる余裕がある者は何処にも居なかった。
フォルストレザールに城塞の外壁に追い込まれたパイロットは、コックピット内で【助け、て…誰か……お願いだ】と泣き叫ぶことしか出来なかった。
一歩一歩近づいて来るフォルストレザールの口が次第に大きく開かれる。
コックピット付近に口が近づいた瞬間
【早く逃げろ!!!】とジョンのコバルトが、ビームソードをフォルストレザールの目に突き刺していた。
【ありがとうジョン!】と泣きながら言い要塞の入り口に向かった。
”シャァー”と鳴きながら転げまわるフォルストレザールにそれでも、突き刺したビームソードを離さず張り付くジョンのコバルト。
だが次第に機体が限界を迎え、弾き飛ばされる。
目を刺され激しい怒り状態になると、両目の後ろに更に別の目がギョロリと出てくる。
フォルストレザールには本来目が4つある。
普段は陽の光に目がやられないようにする為、2つの目で森の中を徘徊する。
但し怒り状態になると目が4つになり、視野が広がり全方位を警戒する事が出来る。
その怒り状態で、ジョンのコバルトに向かい真っ直ぐ走り出す。
それでもジョンのコバルトは動かないままだった。
何故ならコックピット内で、ジョンは激しく揺さぶられ気絶していたからだ。
もちろんキメラのフォルストレザールからすれば、動かない良い獲物でしかない。
そこに今度はヴァレリーのコバルトが、フォルストレザールの背中に飛び乗り頭部をビームソードで何回も突き刺す。
だがやはり大したダメージは与えられず、精々焦げ目を付ける程度だ。
そしてこちらも転げまわるフォルストレザールに、振り落とされる。
【クソォ……でも時間は稼げただろう】
ヴァレリーのコバルトは外からの見ても酷い状態になっていたが、コックピット内も負けず劣らずに酷い状態だった。
コックピット内モニターはヒビだらけ状態で、画面全体が赤色に染まり上がっていた。
ひび割れたモニター画面には、DANGERとWARNINGの文字だらけだ。
ヴァレリーは声に出さずに
(どうせこれ以上生きていてもいい事なんて何もない、ならココで終わっても…)と思った瞬間に機体が激しく揺さぶられる。
ひび割れた画面越しに、自機がフォルストレザールにより脚部から、かみ砕かれているのが映し出される。
それはゆっくりと確実に機体ごと捕食されるのが、理解できる。
死を覚悟していたヴァレリーだったが、目の前の死の元凶を目の当たりにして、恐怖が心の底から湧き出てきた。
ヴァレリーは先程助けた仲間同様になっていた。
恐怖で体が震え、叫びたくても声は出ず、ただ涙を流すことしか出来なかった。
【あっ、あっ……うぁぁぁ!!!】
ヴァレリーは我を忘れて激しく叫んだ時だ、コックピット内のモニター画面が赤色一色だったのが、一瞬銀色になったと思ったら機体が激しく再び揺さぶられる。
だが今回は機体が宙に浮かぶ感覚があった。
そこにオープン回線で声が入ってくる。
【ベンベンさん!任せた!!!】
【了解で~す!】
壊れた画面をよく見るとそこには、ブォンとバイクのエンジン音の様に唸らせながら右腕がやたらに大きいベージュ色の機体が、フォルストレザールに右腕で殴りつけようとしていた。
フォルストレザールは体をひねらせ尻尾で弾き返そうとするが…
【二度も同じ手を食うか!】と言うと、機体が空中で加速しフォルストレザールの顔面に直撃し、跳ね飛ばす。
”シャァー”と鳴きながら、転がり吹き飛んだ。
【ウッシャー!ザマァみろバァーカー!!!】と言いウッヒャヒャヒャヒャと極悪人も驚くような笑い声で喜んでいた。
【ナイスだぜ!ベンベンさん】と喋っている人間をヴァレリーが探そうとしていると
【そう言えば無事かい?ヴァレリー君】と声の主が尋ねてきた。
コックピット内のモニター画面を操作し外の映像が映るようにする。
すると自分の機体が脚部を切断され、白をベースにした縁が金の機体に抱きかかえられていた。
しかもその声には聞き覚えがあった。
【アンタは、いや、貴方は先程の】
※
ヴァレリーに尋ねられたアキは
【おう!さっきのおっちゃんやで】と答える。
するとヴァレリーは
【なぜ、なぜ助けてくれたんですか?】と驚いた様子で聞いてくる。
【何故って、言ったでしょ。ベルナール君から頼まれて、ネクティアとの今回の件で仲介役をする予定でもあるって】
【あれは、本当の事だったのか】
【あれよ、おっちゃん餅はついても、噓はつかんよ】
【師匠、その言い回しは流石にもう古いっす】
【ちょっ!ダイ君!!!】
アキとダイが変なやり取りをしていると、ヴァレリーは思い出したかのように
【ジョンは!?まだジョンが!】と焦り出す。
だがアキが
【そっちも大丈夫。ウチの長老が、もう救出しているよ】
ヴァレリーのモニター画面には、ムックの月光に担がれオータム要塞に運ばれるジョンの機体が映し出されていた。
【良かった…本当に、良かった。】
【さてと、あとは俺達に任せて貰おう】とアキは言い、ヴァレリーの機体をハルのマークスマインに渡す。
ハルは
【俺に感謝しろよぉ。俺は本来、綺麗で美人なおねぇちゃん以外は、運ばねぇ主義なんだぞ。今度尻の良いねぇちゃん紹介しろよ】とヴァレリーにいう。
だがヴァレリーは、ハルの言葉を聞いていないようでアキに
【待って下さい。敵はフォルストレザール以外にもグストンが…】
アキの號龍は右手を振りながら
【あぁ、大丈夫大丈夫。それもウチの子等がもう対処してるから】
要塞入り口前には、リベラルクリフト・富嶽・クロスドクター・アルダートの4機が、Dキャンパーとスカル・ルージュ隊を守りながら、グストンを討伐していた。
倒したグストンの死骸を要塞の破壊された扉の前に積み上げて、簡易的なバリケードを作らせたりと、戦闘をしながら指示も出していた。
驚く程にDキャンパー達とスカル・ルージュ隊のパイロット達が、この4人の指示を聞き従っている。
恐らくこの世界に来てからのカイヤナイトの戦闘を何度か見ている者は、戦闘力の高さを知っているパイロットが多いのか、特に歯向かう者はいない。
【ほらね、大丈夫だろ】とヴァレリーに言い、アキはニヤリと笑うと
【そんじゃちょっと遊んでくるね!】と楽しそうにいい、フォルストレザールに向け走り出す。
その後ろに合流したトシとカガミの機体が追従した。