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#11

「そっちのパーツは、向こうに運んで。それは一度分解しないと使えるか分からないから

後回し。それは使い物にならないから、そっちに分けといて。それは、それはどうするかな、う~ん、修理に回して。おい!それはそっちじゃない」

格納庫でハヤテの指示が、あちこちに出される。

ネクティアから何人かの整備士を貸し出され、ルヴニールの完成を急いだ。

「それにしても作業ペースが速いよな。形だけならもう完成じゃないかコレ」

カガミとエムジーの前には作業2日目にして、大砲のような大型スナイパーライフルが整備士達により、ほぼ完成間近になっていた。

「後は細かな調整と、弾の完成を待つだけだとさ。ペース的には、これでも間に合うか怪しいらしいぞ」

「手伝いたい所だけど、俺じゃ専門用語とか言われたら分からないからな。実際役にたったのなんて、初日のパーツ分けと運ぶのだけだしな。……本当にやる事がないな」

「それなら、お姫様にでも会ってくればいいんじゃないか」

「あ~、そんな約束してたな。……一緒に来てくれないか?」

「なんでだよ。まぁ、別に一緒に行くのはいいけど、俺は何もしないぞ」

カガミとエムジーは近くのジープに乗り、屋敷がある方向に走り出した。

その道中カガミは2日前の会議室での事を思い出していた。





「これって……日本…ですよね」

カガミはホログラムに出された映像を見ながら、呆気(あっけ)に取られながら誰に聞くでもなく口にした。

「いやいや、そんな馬鹿な。何故に日本?ゲームの設定にも、リアル世界をモチーフにした要素なんて無かったはず。なにより異世界説どこにいった!」

「やっぱりゲームの中じゃない。新しくリアル世界がモチーフになったのかも」

「今更?世界観が完全に崩壊してるぞコレは」

ハヤテ・ジャガー・ハルが困惑しながら話していると、ムックはもう一度ホログラムを見て

「そもそもコレは、本当に日本なのかな?だいぶ地形が凄い事になってるけど」と言い、全員の視線はホログラムに向けられる。


ホログラムに映し出されている日本は、茨城から新潟方面に向けて綺麗に線でも引かれたかの様な運河が出来ていた。

その先を更に辿るとロシアの方にも運河があった。

トシは自分の人差し指で、ロシアの運河から日本の茨城だった場所までの運河をなぞり

「繋がっているな」と呟く。

「現在地的には埼玉と群馬の間くらいか?」

アキが携帯端末を操作していると、リュウとダイが

「これ地元の近くじゃね?」「位置的に多分そうだな」と言い出す。

「そう言えばリュウさんとダイさん、あとトシさんは、埼玉出身でしたっけ」

カガミが二人に尋ねると、リュウとダイは

「あぁ、この場所じゃないけどね。俺等はここのお隣なんだけどな」

「いや~、でもここが俺等の知ってる場所なら、だいぶ……いや、完全に地形が崩壊なさっているのだが」

そしてトシは

「ここまで地形が違うと、ここが埼玉かどうかも怪しいがな」と(いぶか)しげに言う。

三人がそれぞれな反応をしながら喋っていると、今度は

「ヤバいぞ、ベンベン氏!地元全部が砂漠になってやがる!!」

「はぁ!?なにを馬鹿な…ホンマや!!!」

そこにジャガーも

「うわぁ~、俺の家の辺りも完全に砂漠じゃん」と

ハヤテとベンベン・ジャガーが見ていた場所が、東京を中心とした一部地域を砂漠地帯と表記されている所だった。

他にも団長のアキが

「なにぃー!広島が密林地帯だとー!!!」と驚き

副団長のムックは

「九州がキメラの巣窟指定されてるとか、設定なら酷くないか」と反応は色々だった。

そこにゴードンが不思議そうな顔をして

「アキ団長殿達は、地図を見ながらいったい何の話をしているのだ?」と聞いてきた。

「えっ!?なにって、広島の話だよ!おかしくないか」

「すまないが、アキ団長が何を言いたいのか、私にはさっぱりだ。そのヒロシマとは、アキ団長達の居た国か大陸の名前だろうか?」

そのゴードンの言葉に、カイヤナイト一同が完全に口をポカンと開けて、暫く壊れた機械のようにフリーズした。


いち早く我を取り戻したカガミは

「いやいや、アーリィは知らないか?広島とか埼玉とか東京とか」

するとアーリィは一度考え込んでから、申し訳なさそうに

「すみません、聞いたことがないです。私はローデンハイム領から出た事が無いので」

「そう…なんだ、なんかごめん」

アーリィのシュンとした様子に逆にカガミが申し訳なくなり、気付けば謝っていた。

そこに今度はメグミが

「姫様は悪くありません。そもそも今は関係のない、自分達の国の話を持ち出した此奴等(こやつら)が悪いのです」と言い切った。

そして我に返ったアキが、両手をパンと叩き

「ひとまず……ひとまずだ!この話は皆、後回しにしよう。今は作戦会議の話に戻ろう」

ひとまずアキの判断によりこの話は後回しにされ、要塞奪還作戦の話に戻った。


ゴードンは咳払いを一度して

「それでは作戦会議に戻る。ネクティアからオータム要塞までの地図だ」

ホログラムには、ネクティアとオータム要塞を結ぶ道が幾つか出される。

「距離にして10㎞程度か。道は幾つかあるが、どの道を通るにしても直ぐに敵にバレるだろう。いくらパーツ毎にルヴニールを分けたとしても、敵に見つかった状態で現地で組み立てるのは、至難の業だ。何か策を講じねばな」

そこにアキが

「一つ俺から提案なんだけどメグちゃんの隊を囮にして、俺達は別方向から進軍しようと思うんだ」

そこにカガミが

「戦力が少ない状態で別々に進軍するのはリスクが高いんじゃ」と聞くとハヤテが

「確かに道中の事を考えると一緒に進軍した方がいいけど、正規ルートは警戒しているだろうから、メグちゃんの隊をゆっくり進軍させて俺達は別ルートで先にオータム要塞に到着するようにした方が安全かな」

「それに大事なことを忘れてるぞ、カガミン」

「大事なことですか?」

ベンベンにそう言われ、考えていると

「メグちゃんの隊は、直接戦闘には参加出来ない。要塞の最終制圧はメグちゃん達の仕事だからな」

「あぁ、成る程」

「気を使ってくれるのは嬉しいが、お前達は何処を通って行く気だ?それとメグちゃんと呼ぶな」

もう一度よく考えてカガミは

「なら森を抜けて行くんですか?」と答える。

すると今度はダイが

「ある程度の森は抜けて行くだろうけど、基本森は避けたいかな。ここら辺の森は小型のキメラが多いから、戦闘になればその反応で、俺達の居場所がバレるだろうし」

「なら何処を通って行くんです?」

アキは

「それを今から皆で考える訳なんだが…ハル君、頼めるかい」

地図のデータを携帯端末に移して、睨めっこ状態のハルに頼む。

「このオータム要塞って、小高い山の上にあるのか。……ちょっと気になる道があるから、暫く時間をくれるなら見てくるけど」

「なら頼むぜ~、ハル君。他の皆は、ハヤテさん達の指示を聞いて作業にでも入ろうか」





そんな事があったのが2日前のこと。

それ以降この世界の話は、全員で不自然なように避けた。

その代わりとでも言うべきなのか、ルヴニールとコンパクトガードの製作作業に全力を注いだ。

「そう言えば、ハルさんはまだ偵察から帰らないけど、お前は一緒に行動してたんじゃないのか?」

運転しているエムジーに聞くと

「俺とは偵察場所と内容が違うからな。」

「場所と内容が違う?どう言うことだ」

「俺は正規ルートやらの幾つかをコバルトで確認しつつ、わざと敵のレーダーと視認されてくる簡単な仕事だからな」

「なんだそれ」

「隠密しているように見せつつ、ある程度敵に見つかる事で作戦当日のルート偵察をしていると思うだろ敵は。スカル・ルージュ隊には俺が調べたレーダーと目視が難しいルートを通って貰う訳だ。するとハルさんが今調べているルートは」

「少なからず敵の目には、止まり難い訳か」

「まぁ、そう言うことだ。ほれ、着くぞ」

カガミ達のジープは、ちょうど屋敷の入口前までに来て車を止める。

そして扉の前に立つ兵士が、カガミとエムジーに敬礼し、顔パスで屋敷の中に入っていった。


屋敷の会議室に向かい扉を開けると、アーリィとライラが執務をしていたのか、色々な書類が散乱していた。

「あっ、カガミさん!おはようございます」

「あぁ、おはよう」

アーリィがカガミに挨拶をすると、カガミはぎこちなく返す。

その様子を隣で見ていたエムジーは、顔を背けつつ少し震えていた。

明らかに笑い声を隠しているのが分かる。

「おはようございます。立ち話もなんですので席にどうぞ、お茶を用意させます」

ライラは近くに居たメイドのクロエに指示を出し、自分も席に座った。

「それで俺になにか用があるとか、アキさんから聞いたんだけど」

「はい。本来助けて頂いた時に言うべき事なのですが、あの時は状況が状況でしたので改めて言わせて下さい。あの時いち早く駆けつけ、助けて下さいましたこと、本当にありがとうございました」

アーリィの横で、ライラも

「私もあの時は、パニックに陥っていたとはいえ失礼な態度をとり、誠に申し訳ございませんでした。そして改めて助けて頂いたことありがとうございます」

気付けば、アーリィとライラ含めてその部屋に待機しているメイドや警護に着いている兵士が、カガミとエムジーに頭を下げていた。

「感謝されるのは嬉しいけど、そんな大袈裟な事をしたつもりもないから、ここまで逆に感謝されると申し訳ない感じがするから。なぁ」

「俺に振るなよ!」

そこに扉を開けてお茶とお茶菓子を運んできたクロエが、部屋に入ってきた。

「取り敢えずお茶にしましょう」とライラが言い、カガミ達の前に紅茶が運ばれてきた。

気を使ったのか、部屋に居た兵士とメイドの数名は部屋を出た。

ネクティア側の人間は、アーリィを含めたライラとクロエの3人だけ。

そしてアーリィは目を輝かして

「カガミさん達は、ローデンハイム領以外の場所から来たんですよね!私、今迄ローデンハイム領から出た事がないので、皆さんのお話を聞かせて欲しいんです!!」

「お、おう」と、アーリィに詰め寄られるように聞かれるカガミは、困り顔でエムジーに助けを求めるように視線を送る。

だがエムジーは「この紅茶とクッキー美味いな」と一言いった後に口パクで


”こっち見んな 助けを俺に求めるな”


そんな返しが返ってきた。

カガミは、諦めたように

「分かった。俺が答えられる範囲で…教えるよ」

「はい!お願いします」





「あちらは楽しそうだな」

同じ屋敷内の別の部屋の窓から、アーリィとカガミ達が楽しそうに話をしている姿が目に入る。

この部屋は、ゴードンが会議で使うと言って、人払いがされている。

「それで、改めて俺達を呼んだのは、どんな理由なんだい」

「人払いしたって事は、あまり穏やかな話じゃないのかな」

煙草を吸い終え、椅子に深く座り込むアキとムックがそこに居た。

ゴードンはカーテンを閉め、部屋が完全に暗くならないように、テーブルスタンドのライトをつける。

「今から話すのは、御二人を信用しているからこその話になる。他言無用に願いたい」

アキとムックは顔を見合わせ頷き

「すまないけど、話の内容によるかな。前にも話したとは思うけど、ウチは仲間内で話し合いが基本だから」

「もちろん本格的にマズイ話なら黙っておくけど、時期を見て話せそうなら、いつか話すとは思うよ。それでも?」

アキとムックの言葉に、ゴードンは迷ったが

「やはり不思議な組織だ。長が自ら重要な話を、下の者に伝えたがるなんてな。まぁ、元より11人全員信用はしているつもりだから構わんさ。だが国に関係する話だ、洩れた時には御覚悟して貰うぞ」

そしてゴードンは持ってきていた書類を鞄から取り出し、アキとムックに手渡す。

「これは?」とアキが尋ねると

「契約書だ、今回の要塞奪還作戦の物とは別のものになる」

ムックは書かれた内容を読み上げる

「以後カイヤナイト傭兵団は、ネクティアの専属傭兵部隊として活動しその見返りとして、毎月の報酬とネクティア支配地域の一部の土地を与える……専属傭兵部隊?すまんけど、話の内容が理解出来ない」

「それと毎月って事は、長期契約って事だよね。それは……」

アキとムックが困った顔になる。

「御二人の言いたい事は分かる。だがこちらも冗談や悪ふざけで言っている訳ではない」

「まず、なんで専属傭兵部隊?こういう時って、ネクティアの軍隊に入れとかじゃない?」

「ムック殿の言いたい事は分かる。だが、我がネクティアに、カイヤナイト全員に見合う地位と報酬を用意する事は、ハッキリ言って無理だ。だからこの形を取らせて頂いた」

「なにか事情がありそうだね。受けるかどうかは別にして、話を聞かせて貰えないかい」

アキがやんわりとそう聞くと

「話せば長くなる」とゴードンは話始めた。

「まずはローデンハイム家について話そう」





ローデンハイム家は、500年続く王家だ。

その支配地域は広く周辺国では、1・2を争う程のものだ。

そしてその家系は複雑で、前王のブルド・ヴァン・ローデンハイム王には、正妻の他に二人の側室がいた。

そもそも今のローデンハイム家が支配するローデンハイム領は、300年前に幾つかの国が纏まって出来た国なのだ。

その中核に居たのが、昔から権力(ちから)があったローデンハイム家だった。

側室の二人は、この時からローデンハイム家に取り込まれた家系の人間達だ。

ブルド・ヴァン・ローデンハイム王は正妻との間に男の子と女の子の二人の子供が出来た。

長男のアレン・ローデンハイム様と、我らが姫 アーリマン・ローデンハイム様だ。

正統な血を引くご子息が生まれ、国民も大喜びだった……側室の子供達が現れるまでは。

ミリィーシェル家とグリューネル家出身の側室方が、2人ずつの子供を養子としてローデンハイム家に迎え入れたのだ。

当初は多くの人間が反対したが、貴族達の手回しで多くの人間が賛成に回ってしまった。

それもそうだ。

上手くすれば、いずれ自分の家の者が王家に取り入る事が可能になるからだ。


そしてローデンハイム家は、

長男のアレン・ローデンハイム様・次女のアーリマン・ローデンハイム様

長女のミリィーシェル家出身のエイリス・ローデンハイム・三男のケネディス・ローデンハイム

次男のグリューネル家出身のベルクト・ローデンハイム・三女のアリル・ローデンハイム


この方々が次期国王の座に着くことになった。

正統性でいけば、長男のアレン・ローデンハイム様が次期国王になる…はずだった。

だが、昨年ブルド・ヴァン・ローデンハイム王が病で亡くなられてから全てが動きだした。いざ王位継承権について話し合うタイミングで、隣国のクレイドル帝国が宣戦布告をし、その話し合いは後回しにされる事になった。

帝国との全面戦争となれば、それどころでは無かったからな。

実際帝国のアーマード・ブレインは、第二世代機が中心で、未だ第一世代機のコバルトが中心のローデンハイムは、苦戦を強いられた。

それでもアレン様が練り出す策や、直属の精鋭部隊のお陰で、なんとか戦況は維持することが出来た。

そう…あの時までは……


それはローデンハイム領本国の首都コルレットに向けて、帝国が大規模部隊を率いて進軍しているとの情報が伝えられた時の事だ。

本来コルレットに居るはずの部隊が、ビショップ級キメラが出現したとの報告が上がり、半数以上の戦力がこれの討伐でコルレットを後にしているタイミングでだ。

それでもアレン様は、コルレットの防衛戦力を出来るだけ多く残し、自分の部隊のみを連れて報告のあった進軍している帝国の部隊を迎撃しに出た。

だがしかし、アレン様は戻らなかった。


不信感を抱いた私は直ぐに、自分の部下達を総動員して、色々と調査をした。

するとビショップ級キメラが出現したのは事実だったが、捕食剤と呼ばれる人のみを対象に捕食する条約禁止の危険な薬剤が何者かに散布され、コルレットに誘導されていた事が分かった。

そしてもう一つが、帝国が大規模部隊を率いて進軍していたとの情報は、全くの噓だったと言う事だ。

実際には帝国側から小規模部隊が国境付近を偵察でうろついていただけで、それも国境警備部隊に撃退されていたとの事だ。

私はすぐさまこの事を報告し、アレン様捜索部隊を出すように進言したが……


「例え王族の人間であろうと、今の戦況で捜索部隊など出す余裕はない!」

「御兄様も覚悟をして出撃したはず。残った私達がなさなければならない事は次期国王を早急に決め、本格的に帝国との戦争に終止符を打つ事ではなくて」

「そうだな。兄上もそれを願っているに違いない」


ベルクトとエイリスから出たのは、こんな言葉だけだった。

まだアレン様が死んだと決まってもいない状況で、既に死んだ事が決まったかの様に言い、(あまつさ)え次期国王を決めると言い始めた。

この2人を怪しく思った私は、更に深く探りを入れた。

そして分かった事は、キメラ出現報告も帝国が進軍してきたと報告をしたのも全て、この二人の息のかかった者達の報告だった。

そして私は悟った、これは王位継承権争いによる暗殺だと。

アレン様が生きている可能性もあったが、捜索部隊も出せぬ状況で時間が経ち過ぎ、その可能性が薄れた事で次に狙われるのは、ブルド・ヴァン・ローデンハイム王の血を引く正統な後継者、つまりアーリマン姫が次に狙われると確信した私は直ぐにライラ殿に話を通し、このネクティアに避難させたのだ。

そして暫くして、王位継承権について話し合いを行うからとコルレットに呼びつけられ、その帰りの道で捕食剤を何者かにばら撒かれた。





「後はアキ団長達も知っての状況だ」

ゴードンが一通り話終え、テーブルに置かれたコーヒーを飲み干す。

話を聞いたアキは考える様に腕を組み

「アーリィちゃん達に、そんな過去があったとは……。メグちゃんはその時に?」

「メグミ中隊長のスカル・ルージュ隊は、元々はアレン様が率いていた部隊の一つだったのだ。だが、妹君であらせられるアーリマン様は、独自の兵を持っておらず、本人も軍部の事はあまり触れていなかったからな。心配なされたアレン様が、無理やりに姫様に付けた部隊なのだ」

「アーリィちゃんとアレン君の兄妹仲は良かったのかい」

「この御二人は、本当に仲が良かった。年が離れているのもあったのか、アレン様はまるで妹というより、娘を心配する父親のようだった」

ここでムックは、疑問に思っていた事を聞く

「話を聞いていて思ったんだけど、このネクティアは最初からアーリィちゃんの治めていた土地じゃないの?」

ムックが疑問に思った事を聞くと、予想外の言葉が返ってきた

「あぁ、元は私が領主として与えられた場所だからな」

その話にアキとムックは『えぇ~!!!』と驚く。

「なら何かい?自分の領地を、アーリィちゃんの為に譲ったのかい」

「譲ったのではない。お返ししたのだ。元はリーベル様から任せられた土地だからな」

「リーベル様?誰」ムックがそう聞くと

「姫様の母君だ。私はリーベル様の近衛部隊隊長だったからな。その関係で土地と団長の地位を頂いたのだよ」

それを更に聞いて、アキとムックは

「泣かせる話じゃねぇ~か」

「ゴードンさん、出来た人間だよ」と感動していた。

そこに、「ならば!」とゴードンはテーブルに頭を叩きつけるが如く勢いで、頭と手をつき

「そう思うのならば、どうか!どうか!!お力添え頂けないだろうか!!!」とアキとムックに頼み込んだ。

勢いが強くテーブルにぶつかった音が”ガン”と音を立てて、アキとムックは”ビック”と体をさせた。

2人は冷静になり

「取り敢えず頭は上げようとぜ、ゴードンさん」

「ほら、今は要塞奪還作戦を先に考えよう、ね」

アキとムックがそう優しく言うものの

「いや。御二人から”協力する”と言葉を頂けるまで、この頭は上げられん。どうか姫様と国民の為に協力して欲しい!私から出せる物は全て差し出そう!だから何卒、何卒!!!」

アキとムックは困った様子で、暫くゴードンを説得するまでに時間が掛かった。





時を同じくして、ネクティアを強襲し失敗して逃走したDキャンパーのヴァレリーとジョンはオータム要塞に逃げ込んでいた。


「救出が出来ないとは、どう言う事だ!ベルナールは、アンタ等の応援があると信じてこんな無茶な作戦に参加を決めたんだぞ!!!」

青髪がかった髪に丸眼鏡を掛けた青年のヴァレリーが、黒いローブにフードを被る男が何人か要塞には居て、そのうちの隊長らしい一人の男に掴み掛かる。

「落ち着け。お前達の仲間はもう無理だ、諦めろ」

「ふざけるな!お前達が手伝わないならそれでいい、俺達だけでもベルナール達の救出に行く!!行くぞ、ジョン」

「お、おう!」

ヴァレリーの後ろに居た大柄で坊主頭のジョンが、後に続く。

「本当にそれでいいのか」

ローブの男がそう言い、その言葉を聞いてヴァレリーの足が止まる。

そしてローブを着た男が近づきながら

「ここでお前らが居なくなれば、間違いなくこの要塞はネクティアの連中が取り戻すことになる。そうしたら俺達は撤退しなきゃいけないよなぁ~」

「おい!」

ジョンはヴァレリーに近づく男との間に入り込んだが、それをかわしながらヴァレリーに近づく。

「あの廃村に隠れ住んでるお前らの家族とやらは、どうなるだろうな?キメラの居る地域まで食料と水の調達に向かわなきゃいけないよなぁ。そんな危険な場所に足を踏み込んだら危ないよなぁ。あっ!そうだったな、それでこの前ガキが5人程ソードスパイダーに食わ――」

「やめろ!!!」

ヴァレリーの悲痛な叫びが要塞内に響き、周りに居た仲間やローブを着ている連中の注目を集める。

「……やめてくれ」

ヴァレリーの手から強く握り拳を作ったせいなのか、血が滲み出る。

そこに気安くローブの男が肩に手を乗せ耳元で

「安心しろよ。”俺達が居る間”は水や食料、それに薬なんかも用意してやるよぉ。それにネクティアを奪った暁には、お前達を優先的にネクティアに住まわせてやる。壁のある街だ、キメラに襲われる心配も無い」

そしてローブの男は、ヴァレリーをジョンの方に強く押しやり

「俺達は一蓮托生だ、今更逃げられねぇ。仲良くやろうや」

そう言い自分の機体が有る場所に向かう。

ジョンは心配そうに

「大丈夫かヴァレリー」と気遣う。

「クソー!なんで俺達ばかり」

ヴァレリーの目には、悔しさや憤りといった感情が入り交じり涙する。


ローブを着た隊長らしい男の下に、数人の部下らしい男達が寄ってきた。

「ヴァン隊長、ケビン師団長からの指示書が届いてます」

「おう」

部下から指示書を受け取り暫く読むと、不快な笑い声を上げて

「最高だぁ!あの馬鹿共が一人残らず死ぬのを見届けるだけの詰まらない任務かと思ったが、ちゃんと戦争してこいだとよ!!新しいネクティアの機体をバラシて良いなんて、最高の仕事じゃねぇーかぁー!!!」

「あ、あのヴァン隊長?」

部下が恐る恐る様子を伺うと、フードを後ろにやり部下の方に顔を向ける。

そこには左頬に大きな#マークのタトゥーを入れた20代前半位の燃え上がる炎のような髪の男がいた。

部下も恐ろしさから一瞬”ヒィ”と引きつる様に声を出す。

だがヴァンと呼ばれる男は気にする様子もなく

「いいかオメェ等!このオレ、ヴァン様とガルビィードの初陣だ!!ネクティアのカス共とその新しいおもちゃ共を八つ裂きにしろ!!!」

『はっ!』と部下がヴァンに敬礼をする。

そのヴァンの後ろには、獣の様な頭部ユニットをした機体が(ひざまず)いていた。

ヴァンの髪のように色は赤とオレンジ、白のトリコロール色に塗られている。

他にも同型の機体が並んでいたが、色は黒と紫、白のトリコロールになっている事から専用機として組まれているのが、明らかに分かる。

ヴァンの不気味な笑いが、自機に向けられ

「ネクティアの新しいおもちゃを幾つ潰せるか、今から楽しみだぜ」

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