バイク
シオンは受け取ったUSBメモリを富岡に届け、分析の結果をさてらいとと一緒に待っていた。
隙間風が吹きすさみ、少し寒い。
「相変わらず、ずっとその姿のまんまなんだな」
サテライトははじめて会ったあの時と同じ、真っ白な、騎士鎧のような姿だ。
「君たちみたいに、人間の姿が必要なわけではないからね。これでも多少軽装なんだよ。」
「必要ない……って?」
「僕は戦闘用のロボットだ。対ヴォイド用に作られたね」
「ほー……すごい……かっこいいなそういうの!」
戦闘用のロボット。なんという浪漫を含んだ概念だろうか。シオンの少年の心が飛び起き、跳ね回る。
「そう、かな。そういうの言われるの初めてだから、ちょっと照れくさいかも」
さてらいとは頭を掻く。
と、富岡が奥の扉から、深刻な顔をして現れた。 「データの分析はまだだが……ついに来た。ヴォイドだ。データはさてらいとに送った。行ってきてくれ」
「……キキもいないのに?」
すぐ帰ってくると言われて数日。未だキキは帰ってきていない。
出張が長引いているようだ。
「やるしかない。君も強くなったろ。蒼にも連絡をしておくから。グズグズしてないで」
と、さてらいとが急かす。
「……わかってるよ。行くさ」
シオンはチェンジャーをカバンに押し込み、富岡の家を後にした。
「あれか……!」
見上げた青空に、銀色の点が斜めの落下軌道を描いている。
「落下予測地点は廃坑になった採石場だよ。行こう。」
「ああ!」
シオンは自転車を──
「それじゃ遅い。僕に乗れ。」
さてらいとが地面に伏せ、その体をガシャガシャと音を立てながら変形し──バイクのような姿に変わる。
純白のボディ、前部には鳥の頭のような、そして後部には羽のような装飾がなされ、いかにもヒーロー然としていた。
「うおお、変形!?」
「早く!」
「お、おう!」
シオンはヘルメットをかぶる代わりに変身し、促されるままにさてらいとが変身したバイクきまたがる。
「あっ、そういや免きょ」
持ってない──と言い終わる前に、車輪が唸りを上げる。
「うおおおおおお!?」
風のような速度で、バイクは──さてらいとはモーター音を響かせ採石場へ猛進する。
シオンは振り落とされないように掴まるのに精一杯だった。
──安全運転する仲間が欲しい。
シオンの切なる願いは、きっとかなわない。