工作
蒼は棚の隙間で息を殺し、様子を伺う。
「ん?今なにか動いたような……気の所為ですかね……」
辛気臭い声。蒼には聞き覚えがあった。
──デスモダス……あいつはシオンが捕えたはず……なぜここにいる?
デスモダス──今は人間の姿だが──は蒼に気がついた様子もなく、一人づく。
「全く……フレイムボルトさんも人使いが荒い。人類の進化のためとはいえ……骨が折れますね……」
──フレイムボルトさんは、こいつのところに……何故コソコソと……?
蒼は首を捻る。少なくとも、彼らは何か良からぬことをしようとしているという確信だけが胸に浮かんだ。
──俺に良くしてくれたのも、組織に尽くしていたのも、全部嘘だったのか……?
確かめねば。彼らが何を目論んでいるのか。蒼の胸に、悲しい決意が燃える。
「さて……足りない試薬は……と……」
こつこつと足音を立て、ウプイリは倉庫から出ていく。試薬は薬品庫だ。ここにはない……隠し扉が閉まっていく。
──今のうち!
ウプイリは振り返らない。倉庫の戸が閉まった。
蒼は駆け、隠し扉の向こうに滑り込んだ。
「これは……」
薄暗い研究室が、隠し扉の向こうにあった。
シャーレがいくつか、そして試験管……蒼には名前がわからなかったが、いくつかのガラス器具や顕微鏡のようなもの、その他諸々が机の上に散らばっていた。
モニターには何かしらの文字列。
「何やってるのかわかんねえけど……ろくなことじゃ無さそうだな。」
パソコンにはUSBメモリが突き刺さったまま。なんと不用心な。
シャーレにはなにかの肉片──いや、鱗か?
「わかんねえなら……わかるやつのとこ持ってきゃわかるよな?」
蒼はUSBメモリを引き抜き、シャーレの中身をポケットに入れた。
「このままじゃすぐバレそうだからな……なんかいいもの……」
蒼は引き出しを探り、同じ型のUSBメモリを見つけた。
「これでいいか」
ついでに中身をフォーマットし、空にする。データが消えたと思わせれば、発覚は大幅に遅れるはずだ。
こちらのメモリの中身も気にはなるが、贅沢は言っていられない。
ついでに鱗のようなものも引き出しで見つけたニッパーでカットし、小さい方をポケットにしまう。
あとはメモリの端子を差し込み、扉を開け──内側からは簡単に開くようだ──外に出る。
「ふう……いい仕事したな。」
背後で扉が閉まる。
もうここに用はないと、蒼は倉庫を後にした。