疑念
「結局何だったんだろうな、あいつ……」帰宅したシオンは、机の上のチェンジャーに問う。
コウモリの怪人と、フレイムボルト。
どちらも今までの怪人たちとはレベルの違う強さだった。
『さぁ。なんにせよ厄介な敵には変わりないね。次に来たときに勝てるかどうかも怪しい。』
と、さてらいとがチェンジャーを通して答える。
「だな……」
たまたまタイミングよく蒼が来てくれたから生還できたが、もしそうでなければ……命を落としていた可能性もあっただろう。
「ヒーローって割と命がけだな……」
『今更?』
呆れたようにチェンジャーからさてらいとの声が響いた。
「なんか腕もげたときとかも実感わかなくてさ……今回のでリアルになったっていうか……あ、そういやあのコウモリ野郎、炎は効いてたな。火炎放射器でも頼もうかな。」
『そうだね。頼んでおくよ。早ければ明日にでもできると思うよ。』
「よし。あとはもう少し鍛えるとか……意味あるのかな……」
『しないよりはずっといいさ。続ければきっと、キキみたいに強くなれるよ。』
「そんなもんかね、技の鍛錬はともかく組手の相手は……」
キキは出張、トオルはリハビリ。他に相手になりそうなのは……
「さてらいと、相手になってくれたりする?」
『無理。いろいろあってね。』
「そっか……」
蒼に連絡先を聞いておけばよかったな、とシオンは少し後悔した。
「あれは……フレイムボルトさん?」
タタラの部屋を尋ねようとしていた蒼は、備品庫から出て来るフレイムボルトに気がついた。
声をかけようとしたが──普段と様子が違う。あたりをきょろきょろと見渡し、まるで何か隠し事をしているかのような。
フレイムボルトはしかし、蒼に気が付かず去っていった。
「なんなんだ……?」
違和感、そして不審感。
「確かめないとな……」
蒼は足音が遠ざかっていくのを確認し、備品庫に入る。
普段と変わりないように思える、備品の山。
清掃用品や医療品、ゴミ袋などが大半で、怪人組織とはなんぞやと尋ねたくなるような品揃えもいつもどおり。
「気のせいだったか……」
蒼が出ていこうとしたその時背後の壁が──いや、隠し扉か──が、ゆっくりと開きはじめた。
「やべっ……!」
疑念の正体──今しがた何か隠し事をしているという確信に変わったが──を探るにしろ、中から誰かが出て来て見つかればパアだ。
蒼はゴミ袋の棚の空きスペースに身をかがめ、隠れた。