雷
「さて、これ以上ここにいても厄介事になるだけだ。行こうぜ」
シオンはコウモリの怪人を入れた球体を玩びながら、蒼に言う。
破壊されきった電柱と地面。幸い人通りはないが、見られると良くて重要参考人、悪ければ犯人扱いだ。
「そうだな。じゃ、俺はここらでお暇させてもらうぜ。また危ないときは呼んでくれ。お前に死なれると色々と寝覚めが悪い。」
「お前もな。そういや名前なんだっけお前」
「千疋蒼。お前は……」
「北村シオン」
「そうか。じゃあなシオン。またそのうちな」
変身を解除した蒼は手を振り、歩き去っていく。
と、視界が滲むように薄暗くなる。
「なんだ?」
シオンと蒼は空を見上げる。真っ黒な雲が一面に浮かんでいた。
遠雷がゴロゴロと鳴り始める。
「一雨来そうだな……早めに帰らないと」
呟き、歩きはじめたシオンの視界を稲光が覆う──ドオオオオン、と一瞬の遅れもなく雷鳴が耳元で轟く。
衝撃でシオンは吹き飛ばされ、地面に背中から叩きつけられる──幸いにも、怪我の類はしていないようだ。
地面に激突した背中だけが、鮮烈な痛みを訴えていた。
「なんだ……?」
立ち上がった眼の前には、バチバチと弾ける雷光を纏った怪人。
どこかで見たような、仮面のようなもので覆われた顔。その仮面には宝石のような7つの目がついていた。
そしてひょろりと長い腕と鋭い爪。
「やぁ、久しいねヒーロー君。元気にしていたかね?」
旧知の親友に語りかけるように、怪人はシオンに声をかけた。
「その声……覚えがある。フレイムボルトとか言うやつか。生きてたんだな。」
「おや、覚えていてくれたのかい。嬉しいね」
シオンと戦い、溶岩と化した地面に消えていったあの時とは大幅に姿が変わったが、不遜な口調は変わっていないようだった。
「そりゃあな。まさか地面に埋まった奴が空から落ちてくるとは思わなかったけど」
「雷神となった私は、高度も深度も超越した。覚えておきたまえ」
「……で、何の用だ」
シオンは変身し、構える。
「聞かなくてもわかるだろう?」
稲光を散らしながら、フレイムボルトは答えた。
「……お仲間か」
「引き渡してくれると、助かるんだがねえ」
「断られないとでも?」
「だろうね。だからこうしよう」
パン、とクラッカーが弾けるような音とともにフレイムボルトの姿がシオンの視界から消え──
「なっ……!?」
コウモリの怪人から奪ったチェンジャーと、怪人を閉じ込めた球体が、シオンの手から消えた。
「確かに、貰ったよ。それではまた」
耳元で声が聞こえ──シオンは振り向くが、もうそこには誰もいなかった。
空の雲は消え、久方ぶりの太陽が大地を照らしていた。
「クソ、一体何だったんだ……」
『なんにせよ、良からぬことだろうね。』
チェンジャーからはさてらいとの声。 いつになく暗い気がした。




