蝙蝠
「いやー、いい仕事だな!戦うだけで金はもらえるし、カツ丼は美味いし!」
帰り道、シオンは上機嫌で封筒を鞄から取り出す。
「今回の分。次は来週くらいにやるから。」と手渡された封筒には、万札が五枚。そして商品券が一万円分ほど。稼ぎとしては上々だ。
「なんか高いもの買っちゃおうかな。ゲーム機とか……貯めてパソコン買い換える資金にしようかなー」
『浮かれてるところ悪いけど、シオン。』
鞄の中のチェンジャーからさてらいとの声。
『敵だ。』と。
夕陽が照らす信号機に逆さまにぶら下がる、蝙蝠のようなシルエット。──怪人か。
「良いお日柄ですね、ヒーローさん……」
陰気そうな声。いや、それより。
「なぜ俺がヒーローだと知っている?」
シオンは怪人に問いかける。
──いや、まあ知っていてもおかしくはない。思っきし敵のアジトで変身解除してたし。いうほど隠してもないし。
「貴方のことだけじゃありませんよ。ビップザスター、稲水キキ。ルドベキア、金木トオル。私は知っています。あなた達のことを……」
質問に答えることなく怪人は続ける。
──ジュピターのことならまだしも、なぜキキの、そしてルドベキアのことを?おかしい。どこからその情報を仕入れたのか……
「ぶっ倒して、じっくり吐かせる必要がありそうだな!」
シオンは鞄からチェンジャーを取り出し、装着する。
「いけませんね、血の気が多いのは……」
コウモリの怪人は、翼の裏から何かを取り出す。
──あれは、チェンジャー?そういやあの狼もヒーローみたいな姿になってたよな……向こうでもチェンジャーを開発できてるってことか?厄介な。
「私達はこういうこともできるんですよ。変身……」
『The Faceless soldier……ウプイリ……!』
不気味な変身音とともにコウモリの怪人は黒煙に包まれ、マントを纏った真っ黒な細身の鎧騎士に変身する。
その姿はさながら、東欧の伝承に伝わる吸血鬼、ヴァンパイアのようだった。
「さあ。どこからでも、お好きなように……」
ウプイリは足を揃え、挑発するようにマントを翻す。
「怪人がさらに変身か……!」
ジュピターに変身したシオンも構える。
「はあっ!」
先手を取るのはシオン。滑り込むように距離を詰め、横蹴り──シオンの足がウプイリの胴体を貫通する。が、手応えがない。雲を蹴っているような感触だ。
「効きませんね……」
シオンが足を引くと、ウプイリの胴に空いた大穴は黒い煙で満たされ、元通りに再生した。
「幽霊か何かか……?」
「そんな下等なものと一緒にされるのは心外ですね……無駄ですよ、何をしてもね……」
ウプイリはマントをはためかせ、ふわりと宙に浮く。