ヒーローショー
翌日。大取の「流れでなんとかなるっしょ!」という太鼓判により、ろくな打ち合わせもなしにヒーローショーは始まった。
「クーッジャッジャッジャ!この商店街の魚屋、吉住鮮魚店のウナギをすべてドジョウにすり替えてやる!小さすぎる蒲焼に咽び泣くがいい!クーッジャッジャッジャ!」
と大取──孔雀の怪人、コックピーコックはステージの上で鰻より大きいドジョウのぬいぐるみを掲げる。
わかりやすさを優先したのだろうが、あれで良かったのだろうか。かすかに子どもたちの笑い声が聞こえる。全く怖がられていない。
『シオン、出番だよ。』
「ああ、わかってる」
ステージの裏、シオンはチェンジャーを装着し、ジュピターに変身した。
『マスクドオン!ジュピター!ジュピター!ジューピーター!』
騒々しい変身音はスピーカーを通さずとも観客の耳に届いたらしく、少し遠くから「ジュピター!」と子供の叫び声が聞こえた。
『人気者だね。羨ましいよ。』
「そうだな。幻滅されないように頑張るぞ!」
シオンは幕の裏から駆け出し、ステージに駆け上がる。
「待てっ、コックピーコック!そんなしょうもない悪事を止めに来なきゃいけないこっちの身にもなれ!」
「クーッジャッジャッジャ!来たなマスクドジュピター!今日がお前の命日だー!」
ピーコックは滑り込むようにシオンに近づくと、地面に手──いや、羽?をつき、横薙ぎに振り回すような蹴りを放つ。
カポエイラ二段とか言っていたか──早い。
シオンは真上に跳躍し、蹴りをかわす。
「かかったなぁ!必殺!蕎麦屋ソバット!」
着地しようとしたシオンに、蕎麦屋の飛び回し蹴りが炸裂し、シオンは盛大にステージに叩きつけられる。
「ぐっ……かっこ悪りぃ……」
シオンは体軸を跳ね上げて立ち上がり、構え直す。
「クーッジャッジャッジャ!そんなものか、ジュピター!その程度では吉住鮮魚店は明日から更地だぞ!クーッジャッジャッジャ!」
ピーコックの笑い声が曇り空に響く。
子供だましじゃ燃えないから本気でやろうと言ったのは大取だが、それにしても容赦がない。
生身でこいつと互角に渡り合った黒衣の男は何者だったのだろうか──そういや最近見ていないが生きているのだろうか。
「隙ありっ!もういっちょ蕎麦屋ソバット!」
ピーコックの飛び回し蹴りが、シオンの脱線した思考を引き戻す。
「はあっ!」
シオンはピーコックの蹴りに回し蹴りを合わせ、相殺する。
ピーコックはバランスを崩し、ステージの上を転がる。
「よし、いける!」
「クーッジャッジャッジャ!やるな、ジュピター!だがこれはどうかな!」
怪人は再び距離を詰め翼をはためかせ──
「蕎麦屋ソバット!」
「ふっ!」
カウンターの正拳突きは、蹴りがシオンに当たる前にピーコックを吹っ飛ばす。
「同じ技じゃねーか!」
子どもたちのクスクスという笑い声が聞こえた。




