完治
「なあ、タタラ。聞きたいことがいくつかあるんだけど、いいか?」
病室に戻ってきた蒼は、タタラに問いかける。
「ええ。蒼は友達だもの。友達の質問になら、なんでも答えるわ。何が知りたいの? 」
と、タタラは少し嬉しそうに答える。
「助かる。昨日のあの姿になったときのことについてなんだが……大丈夫か?」
──思い出したくないことだったら……
という蒼の不安とはうらはらに、タタラは笑顔のままよどみなく言う。
「もちろん。と、言っても大したことは覚えてないわ。ギアが掌に埋まっていって、そこからあの姿になってっただけで……」
「何か、変わったことは?」
「ギアが少し脈打ってたような気がするくらいかな。あんまり役に立てなくてごめんなさい。」
「いや、助かる。」
「あとは……あと2週間くらいは治らないはずの内臓がほぼ全快したらしい、ってことかな。これはあの姿になったあとのことだけど。」
「……もう、治ったのか?」
「うん。今日の間は様子見だけどなんともなければ、明日にはいつもどおり……って何?蒼、どうして泣いてるの?」
無意識のうちに流れていた涙を、蒼は手で拭う。
「ごめん、なんか安心して……」
「なんでそれで泣くのよ。そんなに涙もろかったら、ごんぎつねで干からびて死ぬわよ。」
「そうかも……」
「ほら、手で目こすると腫れちゃうから。ハンカチ……あら、ない。不便ね、病衣って」
ポケットを探ろうとしたタタラは、病衣にポケットすらないことを思い出し肩をすくめた。
「気持ちだけで十分だ、ありがとう」
「そう?ならいいけど……ああ、そうだ蒼。明日、外に出られるようになったら、1つお願いしたいことがあるの」
「もちろん、どんなことでも。友達だからな」
泣き腫らした目を細めながら、蒼は嬉しそうに答えた。
「まだ、データが足りないか……」
薄暗い部屋で、ナオトはモニターの明かりを眺めながら呟く。
ここは隠し部屋。ここを建てるときに密かに作らせた、ナオトしか知らない研究室だ。
「あと少し、もう少しだけデータが集まれば……」
ナオトは拳を握りしめる。その拳の中にあるギアは、脈打つこともなく金属的な無機物感を漂わせていた。