玉水
「ほんとに、大丈夫なんだよな?」
翌朝。目を覚ました蒼は、銀色に変わったタタラの瞳を心配そうに覗きこみながら聞く。
「うん。今のところはなんにも痛いところとかないし、多分大丈夫。目立つから、カラコンとか買ったほうがいいのかな。」
「いや……俺はその色も好きだよ。綺麗な色だし……」
そう返した蒼がはっと気まずそうな顔をし、その頬が微かに赤く染まる。告白とまではいかないが、愛の言葉のようにもとれる事を言ってから気がついたようだ。
「そっか……綺麗か。えへへ。ちょっと照れるなぁ」
タタラの頬も赤い。少し気まずくはあるが、嫌ではない奇妙な空気が病室を満たした。
「ラブコメ中失礼。蒼、少し話したいことがある。来てくれないか。」
惚けた空気を踏み壊し、病室に入ってきたのは玉水 如人。
「またお前か。悪いなタタラ。なるべく早く戻る」
「蒼、あんまり私のこと気にかけなくてもいいんだよ?」
「俺が気になるんだ。──と。早く行くぞ、クソ狐。」
「ナオトさん、だろ?躾が必要かな。まあいい。すまないねタタラ、少し飼い犬を借りていくよ」
と、二人は病室を出ていった。
「二人とも、もっと仲良くすればいいのにな……」
この間まで素直でなかった自分を思い出し、タタラは呟いた。
「で、なんだよ話って。」
「シルバーマナの暴走のことだ。あれは……何だ?」
「俺に聞くか?あいつがなんでああなったのか、俺には何もわかんねえよ。」
「お前にわからなくても、お前と私ならああなる原因を、対策を見つけられるかもしれない。ああなる前のタタラの様子は?怪人細胞による再生医療との関連性は?」
「なんか必死だなお前。何回聞いても俺にはわかんねえってば。一昨日も普段どおり……少なくとも俺にはそう見えた。再生医療は知らねえ。俺も前一回受けたけど長いこと問題ないしな」
「そうか……なら、暴走したシルバーマナの様子はどうだった?」
「あー、まぁそれなら……再生したり、だんだん強くなったりしてたな」
「やはりなヴォイドと同じだ」
「そうだっけか」
「そうだ。ギアにはヴォイドの細胞が使われているから、前から低確率で暴走の危険があると言われていた」
「暴走すると、ヴォイドになるって?」
「似たようなものだ。デミヴォイドとでも呼ぶか、ヴォイドの遺伝子と融合した人間……」
「俺らもいずれああなるのか?」
「わからない。が、予防しておくに越したことはない。」
「そうか。ま、俺も手伝うぜ。タタラから話聞いたりとかしかできないけど」
「十分だ。ありがとう」
「お前からの礼なんて気持ち悪いだけだぜ。仲間なんだし、堅苦しいのはなしでいいだろ。じゃ、戻るぜ。」
と、蒼は病室の方角に去っていった。
「仲間、か……」
ナオトは呟き、遠ざかる蒼に背を向けた。