狼の戦士
「タタラ、蒼だ。入っていいか?」
病室の扉の前、蒼は閉まった扉の前からタタラに声をかける。が、返事はない。
「……タタラ?」
もう一度声をかけるも返答はなく、ただごそごそと物音が聞こえた。ぞくりと背中を這うような寒気を感じ、蒼は扉の前から離れる。
──なんだ?タタラに何か……
直後、扉が内側から吹っ飛び、廊下の壁にめり込みけたたましい音を響かせる。
「なっ……タタラ!」
彼女の無事を確かめるため、蒼は病室に駆け込む。
ベットの上に立つのは、銀色の怪人。
「シルバーマナ……?」
いや、似ているがシルエットからして違う。 シルバーマナは占い師のようにベールをまとっていたが、今蒼の目の前に立つそれは、何も身にまとっていない、裸にも見えるシルエットだ。真っ赤な五つの目がぎろりと蒼を睨む。
獣のような、敵意をはらんだ視線。
──タタラなら……いや、あれがタタラだとしても、あんな目をするはずはない。
しかし、病室にいるはずのタタラの姿がなく、かわりに面影のある怪人。
となれば考えられることは一つ。タタラはあの姿になり、制御が効かない状態にある、ということだ。
「正気失ってんなら……俺が助けてやる!」
『チェンジ……ザ・ロムルス!』
チェンジャーを装着した蒼は、光に包まれ、紺色の装甲を纏う、狼のような姿の戦士に変身した。
「さぁ、かかってこい!」
偽シルバーマナの瞳が少し細められる。
「キキキキキッ」
その銀色の腕が伸び、病室の天井に大穴を穿った。
「なっ!?まさか逃げるつもりか!」
「キキキキキッ」
偽シルバーマナは跳躍し、天井裏に消える。
「逃がすかよ!……っと!」
ロムルスに変身した蒼も後を追う。
「すげぇ……このスーツなら、あいつを……!」
ヴォルクの何倍もの膂力、そして跳躍力。
──いける、いけるぞ!これなら!
偽シルバーマナがまた天井に大穴を穿ち、屋外へと脱出する。
蒼もそれを追い、外に出た。
数分の追走劇の末、二人はかつてスーパーだった廃墟にたどり着いた。
偽シルバーマナは足を止め、曇天の下銀の怪人と紺の戦士は向かい合う。
「鬼ごっこは終わりだ……タタラ、今助けるからな」
そう呟き、蒼は拳を握りしめた。
怪人名鑑#12 スィニーヴォルク
素早い動きが特徴の狼の怪人。
青く輝く毛並みの美しさは、健康的な生活習慣によってのみ生み出されるものである。
野菜を多く取り入れ、玄米を主食とする食生活。
一日四時間程度のウォーキング。(ハンドルギアの配達)
六時間以上の睡眠。(基本定時上がり)
これらをクリアしてはじめて、天藍石のような毛並みを維持できるが、戦闘力には全く影響がない上、本人も毛艶を意識してはいない。
蒼がロムルスに変身するようになったので晴れてお役御免に。