暴走
「はぁ?ヒーロー達と共闘?しかも向こうは敵対してくるかもしれないって……正気か?」
アニバースのアジトの一室、蒼は呆れた声で尋ねる。
「玄龍さんの指示だ。ヴォイドと交戦している時は、なるべくヒーローと共闘するように、とな」
蒼と向かい合うのは幹部の一人、玉水 如人。
表情の乏しい中性的な顔に、黒縁の眼鏡。
高そうなスーツはどこかのブランドのオーダーメイドらしいが、蒼にはどうでもいい話だ。
「そんなことしなくてもよ、ヒーローが来る前に俺達だけで……」「無理だ」
ナオトは蒼の言葉を遮り、続ける。
「今の我々の戦力で、ヴォイドに勝つことは不可能だ。虎の毛皮を身に着けたところで、虎に勝てるはずもあるまい。それと同じだ。」
「はいはい。わかりましたよ、っと。とはいえヒーローたちが、素直に俺らと共闘してくれる保証はないんだろ?ましてあいつは……ジュピターはフレイムボルトさんの敵だ……あいつと肩を並べてなんて……」
「忠犬気取るのは君の勝手だが。君は我々の貴重な戦力だ。私情だけで動いてもらっては困る。」
「わかってる……いざと言うときがきたら、あいつに手を貸せばいいんだろ」
「ものわかりがいいな、さすがは忠犬といったところだ。伝達は以上だ。業務に戻れ。」
蒼は不機嫌に部屋を出る。
──クソ野郎め! どいつもこいつもクソばっかだ。
苛立ちを癒すために何かないかと思案を巡らしていると、ふと脳裏にタタラの顔が浮かんだ。
「……ちょっと様子見に行くか。」
少しの気恥ずかしさを感じながら、蒼はキキの病室に向かった。
その数分前。タタラはベッドから身を起こし、一人悩んでいた。
──怖い。戦うのも、誰かを失うのも。このままじゃ、仲間どころか自分の命すらも守れない。
「私、ただの足手まといに……」
──嫌だ。
タタラはギアを握りしめる。
──もっと……もっと、強くなりたい。
キキの想いに応えるかのようにギアがドクドクと脈打ち、熱を持つ。
「熱っ……何、これ?」
今までにない現象。明らかにおかしい。
タタラはギアを手から話そうとするが、ピッタリと掌に張り付いて離れない。
ギアが光を放ち、タタラの掌に埋まっていく。
その掌が、意思に反して銀に染まっていく。銀色は全身に、覆うように纏わりついてくる。
「嫌……何?何が……」
意識が遠のく。自分が自分でなくなっていくような感覚。
「私……」
言い終えることもできないまま、タタラの意識は深い闇に落ちていった。