表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/245

失格


 「そこの2人!何してる!止まりなさい!」

振り返ると、追いついた警官が怪人とシオンに向かって銃を向けていた。

その隙をついて、怪人が尻尾をシオンに叩きつける。

「うわっ!」

シオンは吹き飛ばされ、地面を転がる。

──そうだ、あの子をまず助けないと。

「おまわりさん!あそこの女の子を!」

警官がジャングルジムの中の少女に気づき、頷く。

が、シオンの意図に気がついた怪人が警官に突進する。

「させない!」シオンの捨て身のタックルが、怪人を転ばせる。

怪人はお返しとばかりにシオンを太い腕で掴み、大きく口を開いた。その口の中には、ずらりと鋭い牙。

シオンは逃げようともがくが、がっちりと拘束されて呼吸すらままならない。

そのまま怪人の巨大な下顎の上に乗せられ、上顎が風を切りながら迫る。

──これで終わりか……

シオンは目をつぶる。が、その牙が彼を貫くことはなかった。

パァン、と銃声とともに怪物がよろめき、シオンの拘束が解ける。

「待たせたな!ビップ・ザ・スター!参上!」

シオンの窮地を救ったのは、カウボーイのようなテンガロンハットを被り銃を両手に構えた仮面のヒーローだった。


 2対1では分が悪いと判断したのか、シオンを離した怪人は地面に潜り込みそのままどこかに消えた。

「くそ、逃げられたか!」

ビップ・ザ・スターと名乗ったヒーローは銃をホルスターに戻し、シオンを指さした。

「ここに来るまで、さてらいとに中継見せてもらってたけどさ。お前、今んとこヒーロー失格な。じゃ、またそのうち。」

それだけ言って、スターもどこかに去っていった。

警官も少女を保護して離脱したらしく、あとに残されたのはシオンひとり。

「帰るか。」

もやもやした気分のまま、シオンは帽子とマスクをつけ自転車を走らせた。


 薄暗い六畳間。

無事に帰宅したシオンは、変身を解除して座り込む。

「なんだよ、ヒーロー失格って。」口を尖らせ呟く。

──俺が弱いからか?確かにあの怪人に手も足も出なかったけれど…

心の奥のもやもやが消えないまま、シオンは4自衛を開く。

面白げなスレッドも見つからない。

「寝るか。」

引きこもりの彼にとって、この方法は合理的なものだった。

これくらいの悩みは時間が解決してくれる。

少なくとも、今までのところは。 


 昼過ぎに目を覚ましても、もやもやとした感情は消えていなかった。

飯にするか、とシオンはカップ麺を出し、給湯器から直接湯を注いだ。

「割り箸割り箸……ないな。」

フォークを取り出すも、何故か食欲がわかない。

「なんだよ失格ってさぁ……」

無造作に投げ出したフォークは、机の安い集成材の上に金音を立てて転がった。

チェンジャーを片手で玩びながら十分ほどうじうじとしているうちに、カップ麺はすっかり伸び切っていた。

「あーあ、勿体ないなー……」

シオンは他人事のように呟き、ゴミ箱にカップ麺を放り込む。

再び寝ようとしたシオンの耳に、誰かの悲鳴が聞こえた。

近い。具体的には、家の前の道路くらい。

シオンは飛び起き、チェンジャーを腕に装着する。

「変身!」

『エンター!マスクドオン!ジュピター!』

「ッカゲンニシロォラァー!!」

変身音に、隣人の壁を叩くリズムがアクセントを加える。

ジュピターに変身したシオンは鍵もかけず家を飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ