脱皮
ひび割れた殻を破り現れたのは、先ほどとは姿が変わった怪物。 5つの目や体表の棘はそのままだが、十本以上あった細い足が、太い四本脚に変わっている。
「脱皮……?」
「あるいは進化かもね。どっちにしても不利なのは変わらないけど」
シオンとサテライトを睨めつけながら、怪物は息を吐く。
「フシュルルルル……」
怪物の背後、灰色の抜け殻が崩れ落ちる。
「どうする?」
シオンはサテライトに尋ねる。
「どうもこうも……やるしかないさ」
「あいつやばいぜ?死ぬぜ?」
「死なないように頑張るしかないね。行くよ!」
さてらいとが地面を蹴り、怪物の腕に剣を振るう──が。その皮膚に剣が弾かれ、火花が散る。
「何っ!?うわぁ!」
サテライトは怪物の太い腕に吹き飛ばされ、木に衝突した。
めきめきと音を立て木が倒れる。サテライトはずるりと木から剥がれ落ち、地面に倒れ伏した。
「おいおいおい、マジか……」
怪物の虚ろな目がシオンを捉える。
──どうする?戦えば死ぬ。逃げても……多分死ぬ。あれ?これ詰んでね?
怪物はいたぶるようにゆっくりとシオンに近づく。シオンは後ずさる。
──クソ、かっこ悪いな。こんなかっこ悪く死ぬくらいなら……!
シオンは覚悟を決め、拳を握りしめた。
「うおおおお!」
シオンは走り、勢いを乗せた正拳を繰り出す──が、眼前の怪物の姿が突然消える。
「なっ……」
背後に殺気。咄嗟に屈んだシオンの頭の上を、怪物の腕がうなりを上げて通り過ぎる。
「危ねえ……なんか必殺技の一つくらい無いのか?」
チェンジャーのボタンを押すが、『データが無いよ』と音声が流れただけ。
「フシュルルルル……」
怪物の腕を、シオンは後ろに下がって避ける。
攻撃に転じるほどの余裕は無い。
「このままじゃ……」
──俺だけじゃない、こいつを倒せなかったら……他の誰かが死ぬ。
「っ…うおおおおお!」
無理矢理に繰り出した蹴りは、怪物の固い皮膚に阻まれ、ダメージを与えられない。
「はあっ!」
一瞬の隙をついて繰り出した突きも弾かれる。
「くそ……ジリ貧か……!」
──息が上がってきた。さっきだいぶ血液を失ったせいか。
視界が一瞬ボヤける。
何か、何か逆転の一手を。シオンは靄のかかった脳を必死に回転させるが、何一つ浮かばなかった。