職質
シオンが4自衛でのスレッド作成を再開しようとすると、またメールが来た。
差出人はまたさてらいと。
[近くの公園に 子供を狙う怪人が出没中。倒してきてくれるかな?]
「いや、昨日の今日で?まあいいか」
──俺はヒーローなんだから。
と、シオンは装置……ジュピターチェンジャーを手に取る。
『マスクドオン!ジュピター!』
最大にした音量のせいでまた壁が叩かれる。
人に見られるのをなるべく避けるため、シオンは仮面の上からマスクと帽子を装着し、上着を羽織る。
下はなんとかズボンと言い張れそうだ。
玄関から外に出ると、人の姿はなさそうだった。
「行くぞ!」
数ヶ月ぶりの自転車に乗り、ヒーローのシオンは公園に向かった。
公園についたシオンは上着とマスク、帽子を抜ぎヒーローの姿をさらけ出す。
決めポーズとかあったほうがいいんだろうか。
敵も目につく限りではいないからやめたほうが良さそうだ。
さて、子供を狙う卑怯な怪人は…とシオンが捜索していると、背後から威圧的な声で呼びかけられる。
「そこの君。何してるんだ?」
振り返ると警察官が、警棒に片手をかけ立っていた。
どこか見覚えのある顔だ。
──ああ、そうだ。数時間前家に聞き込みに来た警察官か。
一人納得するシオンに、警察官は「少しお話いいかな。その……ヘルメット?取ってくれるかい?」と尋ねる。
「いえ、僕はヒーローなので。お疲れ様でーす。」
会釈しながら横を通り過ぎようとしたシオンの腕を、警察官はがっちりと掴む。
「待ちなさい。マスク。取って」
「いやあの……ヒーローなんで……」
「何いってんの君?なんかいけない薬とかやってたりする?ついでに尿検査も……」
「キャー!!」突然、子供の悲鳴が公園に響き渡った。
「なんだ?君!ここで待ってなさい!」
悲鳴の方に向う警察官を追い越し、シオンは走る。
「なっ!何してるんだ君!」
「ヒーローなんで!」
──間に合え。
焦りがシオンの足を加速させる。
たどり着いた遊具広場にいたのは、ジャングルジムの中で震える少女と、ワニのような怪人。
「たすけてー!だれかー!」
泣き叫ぶ少女をあざ笑うかのように、怪人はジャングルジムに手を伸ばす。
「待てっ!卑怯な怪人め!」
シオンの声など意に介さず、怪人は少女に手を伸ばす。
「待てって言ってんだろがぁ!」
シオンの怒りを込めた蹴りが、怪人の背中を蹴り飛ばした。
怪人はジャングルジムにぶつかり、けたたましい音を立てる。
その音で怯えたのか、少女はいっそう大きく泣き叫んだ。
怪物は邪魔をするシオンを先に排除することを決めたのか、向き直り歯をガチガチと打ち鳴らす。
「はあっ!」
シオンの渾身の突きを怪人はやすやすと受け止め、太い尾を叩きつける。
「ぐっ……」
──強い。
「ふんっ!」
シオンの渾身の蹴りも怪人は受け止め、先程よりも強く尾を叩きつける。
「ぐうっ……なら…必殺!」
チェンジャーを操作するが、『データ不足だよ』と音声が流れただけだった。
──欠陥品め!
シオンは心の中で毒づいた。