血
「うう……あ……」
シルバーマナは呻き人間の姿、若い女性に戻る。
長い黒髪が地面に広がり、血に浸った。
シオンは少しその姿に見覚えがあるような気がしたが、今はそれどころではない。
「まずいな、救急車を……」
[だめだよ、厄介なことにになる。なるべくなら敵になんとかしてもらうのがベターだ。向こうには医療設備もあるはずだから]
「今そんなこと言ってられる状況じゃないだろ…まさかこうなるとは……」
シオンの足元まで、血溜まりがゆっくりと広がる。
──これがヒーローのやることか?いや、違う。新しい力にはしゃいでこんなことになることさえ予測もできなかった。俺は……
「お、俺はなんてことを……いや、てめぇだ、てめぇが悪い!イモムシィ!てめぇを殺す!」
激高したヴォルクの精彩を欠いた爪を、シオンは受け止める。
「わかってる。強くなって、考えなしに調子に乗っていた俺が悪い。」
「なっ……それで許されるか!お前を殺して……」
「あの子の手向けにする、か?確かに今ここで戦いつづければ、彼女は死ぬかもしれない。だがお前なら助けられる可能性もある。一旦ここは休戦といかないか?」
「どの口で!」
ヴォルクはシオンの手を振りほどき、鋭い爪を振り下ろす。。シオンはそれを身じろぎもせず受け止める。
爪はシオンの新しいスーツに弾かれ、ギシギシときしむ。
「ぐううう……うおおおお!」
ヴォルクは叫び、腕にいっそう力を込めるがスーツには傷一つすらつかない。
「なあ、こんなことやってる場合か?お前たちのとこにあるんだろ、何かしらの医療設備。彼女を連れ帰って助けろ。お前の足なら間に合うはずだ。」
「情けをかけるつもりか?」
苦々しげに言いながらもヴォルクは爪を引いた。
「情けじゃない。俺の落ち度だ。お前に尻拭いをさせるのは申し訳ないが……頼む。」
シオンはヴォルクに頭を下げる。
「ちっ……」
ヴォルクはバツが悪そうに舌打ちをすると、シルバーマナだった女を抱え、走り去っていった。
「くそっ……こんなかんたんに力に溺れて……俺、ヒーロー向いてないんじゃないか?」
[僕が言えるのは、君以外に新しいヒーロー候補がいないことくらいだよ。君がこれで心を折ってヒーローをやめたら、この街の平和がキキ一人に委ねられることになる。それでいいのかい?彼女は強い。けど一人じゃできないこともある。]
「わかってる。辞めたりしないよ。でもさあ……」
シオンは変身を解除すると、とぼとぼと帰路についた。