孔雀
「まぁ、ご覧の通り。うちの商店街めっちゃ寂れてるじゃないですか。」
地面に正座した孔雀の怪人は、向き合って座るシオンに語る。
「そうだな、ショッピングモールすら死にかけてるし」
「そうですねー。あれ潰れたら買い物どうすんだって話ですよ。」
「商店街がなんとかするもんでは?」
「できるならまず最初にショッピングモール潰しに行ってますよ私は」
「やろうとしたらわかってるよな?」
「やりませんよ。で、はがきが来たわけですよ。願いを叶えますっての。子供の夢とかと違って大人の願い事なんてチンケなもんでねぇ。派手な事をして商店街に活気を取り戻したい、なんて。数日後に送られてきたのはこんな怪人になる歯車。ならヒーローショーでもやって集客に使うか、と。結果このザマです。ヒーロー役の酒屋のオヤジは練習にも来ない。来たと思ったら私を倒しに来た本物のヒーロー。」
「難儀なもんだな……」
「そう思ってくださるなら!私を助けると思って、ヒーローショーに協力してください!あなたが出てくれたら、TVやSNSで拡散されて、集客につながるはず!」
SNS。シオンの脳裏に嫌な思い出が蘇る。
「いや……目立つのは、ちょっと。仲間にも聞いてみないと」
[キキならいいって言うと思うよ。僕も賛成だ。]
視界の端に文字が映る。
「ならキ……ビップに行ってもらったほうが……」
[あの子の技、早すぎてカメラに写らないから。]
「は?」
[達人だからねー。達人感ありすぎてご当地ヒーローのリアル感が無いんじゃない?あの子普段だいぶ忙しいのもあるし。]
「あー……」
──そういえば、キキは普段何やってんだろ。
考えたこともなかった。
「誰と喋ってるんです?」怪人が怪訝そうに尋ねる。
「司令官……的な?」
「司令官!ヒーローらしくていいですねぇ!」
鳥の顔でも笑顔だとわかるほど、怪人は顔をほころばせた。
「じゃあ今日の午後3時くらいにまた!よろしくおねがいしますね!」
「え?ちょっと、まだ出るとは……」
怪人は数件離れた蕎麦屋に帰っていった。
[がんばってね。]
「なんでこうなる!」
シオンは頭を抱えたが、それでどうなるわけでもなかった。
怪人名鑑#9 コックピーコック
蕎麦屋の店主が変身する孔雀の怪人。いつぞやの蕎麦屋の店主とは別の人。派手なだけでめちゃくちゃ弱い。 実際の孔雀は飛べるが、彼に飛行能力はない。未だ怪人制作の技術が未発展なのかもしれない。