翌朝
翌朝。シオンは全身に走る、ひきつるような痛みで目を覚ました。
おそらく筋肉痛だろう。無理もない、毎日ナメクジ程度にも動いてなかった体で命がけの戦いをしたのだから。
「痛ったたたた……あー痛っ……」
きしむ体に鞭打って鏡を見ると、頬に乾いた血がこびりついている。机の上には昨日貰った装置。
「夢じゃないんだよなぁ……あれ」
濡らした手で頬を拭うと、水が傷に染みた。
「痛たぁ……絆創膏とか……ないよなぁ。買ってないし」
ネット通販で買うにしても、届いた頃には必要なくなっていそうだ。
「買いに行くか……傷が目立つの嫌だなぁ……」
筋肉痛もひどいし、薬局かコンビニにいくのは明日にしよう。
シオンはまた寝転がり、天井を眺める。
「ヒーローかぁ……俺みたいなのが……」
──もし、もう一度会えたら、あの装置は男に返そう。でもそれまでは、俺がやらないと。でなければ、きっと誰かが傷つけられる。昨日の自分のように。
そんな決意とともに、シオンの意識は眠りの中に吸い込まれていった。
どれだけ寝たのだろうか。シオンはインターホンの音で目が覚めた。
宅配便だろうか?いや、今日来る荷物はないはず。
嫌な予感がして、シオンは装置を秘密の場所に隠した。
「おはようございます、昨日の爆発のことでお聞したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
ドアを開けると、立っていたのは警官だった。
手帳を見せられるが、彼の名前を見られるほどの余裕もなかった。冷や汗が背中を伝う。
「えっと……何があったのかよくわからないですが……僕が何かの犯人だと?」
答えながらシオンは考える。
あの装置は警察に見つかって押収されるようなものだろうか?
おもちゃと言えばそれで通じるかもしれないが、あんなおもちゃが売られていたことはないと言われればそれまでだ。
見られないのが吉だ。家に上がり込まれないようにしなくては。
シオンの心配をよそに、警官は答える。
「いえ、もう少し先で爆発があって。通報で駆けつけたのですが、何がどこで爆発したのかもよくわかってないんです。なのでここらへん一帯の人に地道に聞き込みをするしかないと」
「はあ……お疲れ様です」
どうやらシオンが怪しまれているわけではないらしい。
「ところで、その頬の傷、どうしました?」
「あっ」
そうだ。怪しまれる要因として十分すぎる頬の傷。隠しておけばよかった。
「昨日ちょっと、かまいたちに……」
苦しい言い訳だが、意外にも警官がそれを疑う様子は無かった。
「あー。最近なんか多いんですよね、かまいたち。お大事にしてくださいね。ではこれで失礼します。ご協力ありがとうございました」と、警官は一礼して去っていった。
ドアを閉め、シオンはへなへなと座りこむ。
「あっぶねぇ……」
安心したら力が抜けた。
筋肉痛も相まって、5分ほどシオンは立ち上がらなかった。