コーラ
「で、あいつは何なんだろうな。新しいヒーローが来るなんて聞いてないぞ?」
シオンの部屋、六畳間。キキは冷蔵庫から勝手に取り出したコーラをあおる。
「ゼロカロリーかよ。しけてんなお前」
「糖尿になりやすい家系なんだから、気使ってるんだよ……あいつ、ヒーローにしては弱すぎた。力も、スピードも……」
シオンは黒衣の男と戦ったときのことを思い出す。人間の範疇から出ない戦闘力だった。
「となると、生身で怪人狩りやってるって?正気じゃないだろ」と、キキ。
「正気なやつが中身の人間もろとも怪人を殺そうとするか?あいつは多分狂ってる」
「まぁ……赤点のお前に負けかけるわけだからなぁ。生身でもおかしくはない。いや、おかしいのはあいつの頭か。何が目的でそんな危ない橋渡ってんだ?」
「さあ?次に合ったときにでもとっちめて話聞けばいいさ」
「最近ちょっと前向きだよな、赤点。ヒーローらしくていいぞ!」
と、キキは親指を立てる。
「そ、そうかな。」
「おう、お祝いにコーラもう一本開けとこうか!」
「いや、それは……」
シオンの静止も聞かず、キキは一本目のコーラを飲み干し、二本目を冷蔵庫から取り出した。
「つまみは?」
「無い」
「おっ、セロリあんじゃん。貰うぜ」
──野菜まで漁り始めた。もう帰ってくれ。
シオンの心の声も届かず、キキはセロリを食べ尽くす。
「じゃ、また来るから。」
バイクの排気の匂いだけを微かに残して、キキは帰っていった。
「はぁ…」
人を家に招くのは何年ぶりだろうかとシオンはふと思った。
あんなに騒がしくなるのも、何年ぶりだろう。
セロリとコーラは犠牲になったが、それなりに楽しくはある……気もする。
あれが友達……いや、少し違うか。なんにせよ久方ぶりの関係性だ。
[ご機嫌だね。]デスクトップに文字がうつる。
「ああ。さてらいともそのうち遊びに来てくれよ」
[今はまだ……無理、かな。そのうちにね]
「ああ」