刃物
黒衣の男は鉄の棒──いや、杭か──を振り回す。
シオンはなんの変哲もない杭の一撃を掴む。怪人の素早い攻撃に慣れたシオンにとって、あまりにも緩慢な攻撃だった。
「なんだ……言うほど強くもない」
「この力……貴様も害獣か。駆除する!」
「違うって、俺はヒーローだ。よいしょ、と」
シオンはやすやすと杭を奪い取り、遠くに投げる。
「これで武器はないぞ。駆除?やれるもんなら……」
「くっ……撤退する!」
男が革ジャンのポケットから何かを取り出し地面に叩きつけた。
途端、煙があたりを覆う。
「うわ!くそ、どこだ!」
煙が晴れると、男はいなくなっていた。
「逃げられたか……」
シオンは変身を解除し、ビップと怪人のもとへ行く。
「お、お疲れ。その顔見るにあいつは逃げたか。ったく、ひでえことするよなあいつ。あ、お前。ちゃんと抑えとけよ。死ぬぞ」
怪人だったらしい男は、貫通した傷跡の胸側を手で抑えている。呼吸が荒い。おそらく肺に穴が空いているのだろう。
「怪人だってな、刃物で切りつけられりゃ中身の人間が傷つく。肺とか内蔵とか刺されりゃ最悪死ぬ。俺達が刃物使わないのはそういう理由なんだよ」ビップはシオンに言う。
「まあ…そうだよな」
銃はいいのだろうかという疑問が浮かんだが、多分そういうものだから問題ないなのだろう。
シオンはスィニーなんたらという狼の怪人から受けた爪の傷を思い起こす。まだかさぶたが取れていない。
「う……私は……死ぬのか……?泳ぎたかった……カナヅチだったから……それだけだったのに……」
「死なねーよ。ちゃんと抑えとけばな。安易な力に頼るより、泳ぎの練習したほうがいいぞお前。じゃ、救急車も来たみたいだし帰るぜ。ここにいても厄介事になるだけだ」
「ああ……そうするよ……もう怪人は……懲り懲りだ……ありがとう」
「達者でな。帰るぞ赤点。ギアも回収したし」
「…あいつが戻ってきたら?」
「あいつも厄介事はなるべく避けたいはずだ。ま、大丈夫だろ」
来たときと同じように、シオンはビップの後ろのシートに跨がり、二人を乗せたバイクは後味の悪い帰路を走り去っていった。
怪人名鑑#8 アルバトロス
アホウドリの怪人。カモメではない。泳ぎが得意だが海に入る前に倒されてしまった。悲しいね。