黒衣の駆除人
「さーて、構えもなおったとこで……模擬戦だー!……ってあれ、連絡だ。」
キキがジャージのポケットからスマホを取り出す。画面に蜘蛛の巣のようなヒビが入っているのがちらっと見えた。
「三丁目の埠頭。久々に怪人だってさ。乗せてってやるよ、ほれ」
キキはビップ・ザ・スターに変身するとバイクに跨がりシオンを振り返った。
「えー……」
この間の地獄のドライブが蘇る。
「大丈夫大丈夫、今日は昼間だし法定速度で走るから。」
「じゃあ……お願いしようかな」
シオンはジュピターに変身し、バイクの後ろに跨がり、ビップの腰を掴む。
「よっしゃ行くぞぉー!」
「え?」
真っ白な排気とともにバイクは急加速し、法定速度の倍近くに感じるスピードと風がシオンに押し寄せる。
「やっぱりかああぁ!」
「この辺人少ないからよゆーよゆー!」
バイクは悲鳴と白煙を残し、埠頭へと消えていった。
「あうあうあうあうあうあう…」
「いつになったら慣れるんだお前。呆けてないでとっとと行くぞ」
ビップは腑抜けになったシオン……ジュピターをバイクから引きずり下ろす。
「怪人……あ、あいつか。あれ?誰と戦ってんだあいつ?」
ビップの視線の先にいるのはカモメのような怪人。誰かと争っている。
「新手のヒーロー?」
「そうそういないと思うんだけどな。ま、加勢しますか……え?嘘だろあいつ!」
駆け出したビップを追ってシオンも走る。その先では、既に決着がついていた。
「ウ……ウウ……」
地面に膝を付き、呻く怪人。
その胸からは、先端の尖った金属の棒が突き出ていた。
「駆除完了……ん?何だ貴様らは……新手の怪人か?」
怪人と争っていた相手はシオンたちの方に首を向ける。
真っ黒なフルフェイスヘルメットと皮ジャン、そして同じく黒いワークパンツ。少なくともヒーローの出で立ちには見えない。
「いや、俺らは……」「お前!何考えてるんだ!」
敵ではない、と弁明しようとしたシオンを遮るように、ビップが叫ぶ。
「害獣の駆除。ただそれだけだ」
「こいつらは!人間だ!お前それ分かってんのか?」
「人の姿を捨てた時点で、ただの危険な獣だ。」
黒衣の男は怪人から金属の棒を乱暴に引き抜く。
怪人は胸から血を流し、仰向けに倒れて動かない。
「赤点!救急車呼べ!」
「スマホ持ってきてない!」
「アホなのか!?ああもう!あたしが呼ぶからお前はそいつなんとかしとけ!」
シオンは頷くと、黒衣の男と相対する。
「獣を庇うか。ならば貴様らも敵だ。」
男は金属の棒を構える。片端が鋭く尖り、もう片方は輪のように丸められた独特の形だ。
「来い!」
シオンは構えた。半身をきっちり取った、基本に忠実な構えだった。