洗濯
「クソ、今日も曇りかよ……」
シオンは悪態をついたが、分厚い雲はゴロゴロと遠雷を響かせるだけだった。
フレイムボルトとの死闘から5日。あの日からずっと晴れ間がない。
シオンは怪人以上に、積もっていく洗濯物に頭を悩ませていた。
スィニーヴォルクを取り逃したもやもやは消えていた。フレイムボルトという強い敵を倒したからだろう。我ながら単純だなとシオンはふと思った。
「仕方ないな……よし、コインランドリーでも行くか!」
シオンは洗濯物をゴミ袋に詰め込み、重い腰を上げた。
「よお兄ちゃん、なんか疲れた顔してんな!」
偶然なのかなんなのかコインランドリーにいたのは、ハゲのおっさん鼠島。相変わらずあっけらかんとしている。
「こう洗濯物が全く乾かなきゃ憂鬱にもなるって……はぁ」
ここ数日怪人は出ていないが、それすらも嵐の前の静けさのように感じて憂鬱だった。
「なんか気楽そうだよな、お前は」
「馬鹿言うなよ、借金が無くなったって毎日生きるために働かなきゃならねぇんだ」
「あれ、借金無くなったのか?」
初耳だ。そもそも気にもしてなかったが。
「なんか悪いことでもしたんじゃないだろうな?」
「してないしてない。書類に不備があったんだと」
「ふーん」
ごうんごうんと音を立てて、2つの洗濯機は回る。黙るとその音がやたらうるさく感じる。
「信用されてねえなぁ。あ、よかったらこれ一枚やるよ」
鼠島が擦り切れた半ズボンのポケットから差し出したのは、一枚の手裏剣だった。
「角とか刃とかは丸めてあるから危なくねえぞ」
見れば確かに角が丸い。これではなにかに刺さるとしても豆腐くらいか。
「一枚二百円+送料で売ってるからな!追加注文してもいいんだぜ!」
「仕事ってそれかよ!」
得体のしれない怪人の力を使って荒稼ぎ。悪いことかといえばそうも言い切れないが……
「悪用はするなよ」
「当たり前よ。この力があればそうそう食いっぱぐれることもねぇ、怪人様に感謝感謝だな」
鼠島はポケットからまた手裏剣を出す。
──いくつ持ち歩いてるんだ?
「これ手裏剣スピナーな。一個700円。カナダだったかから大口の注文が来ててな」
と、鼠島は手裏剣をくるくる回す。
シオンはこれ以上彼について考えるのをやめることにした。