人狼
「ウォォォオオオー!!!」
人狼のような怪人は遠吠えをすると、鋭い爪を見せつけるように構えた。
「はあっ!」シオンは怪人に向かって走り、勢いを乗せた正拳突きを放つ。
怪人は後ろにステップし回避した。
「面白いなぁ、お前!」
怪人は嘲笑う。
遊ばれている。技量はわずかにシオンが上回っているが、それ以上に圧倒的な身体能力の差を感じた。
怪人は狼の脚力でシオンに迫り、乱雑に蹴り飛ばす。
──早い!
技の鋭さや練度の限りなく低い獣のような攻撃。しかしそれでも、その速度に目が追いつかない。
シオンは蹴りをまともに喰らい、吹っ飛ぶ。衝突したゴミ箱が転がり、中の生ゴミが地面にまろび出る。
──くそ、スーツが汚れ…!?
立ち上がる間もなく飛び上がった怪人が上空から迫る。シオンはその飛び蹴りを転がって避けた。人狼は腐ったバナナの皮を踏みつけたが、転ぶことはなかった。
「ははは、やるじゃねえの!いたぶり甲斐がありそうだ!」
怪人は舌をべろりと出して嘲笑すると、爪を構えた。
「これはどうかな!おりゃああ!」
大振りに振り回す長い爪を、シオンは飛び退ってかわす。かわしきれずにわずかにスーツが削れ、体に2本爪痕が刻まれる。
「くっ…」「まだまだぁ!」
怪人の蹴りを手刀で払い受流そうとしたが、失敗してまた吹っ飛ばされる。
「はははははは!遅い遅い!」「はああぁ!」
シオンは踏み込む。勢いを乗せた突きは、また怪人のバックステップでかわされる。
「ワンパターンなんだよお前!」「まだだぁ!」
もう一歩踏み込む。加速する拳は、怪人の胴体を確かに捉えた。「しまっ──」
怪人は振り抜いた拳によろめき、膝をつく。
「く、くそ……こんな、こんなイモムシごときに、俺が!」
激高した怪人は、がむしゃらに腕を振り回す。連続で振るわれる爪。喰らい続ければ蓄積したダメージにより変身解除、最悪死だ。
だが、シオンは恐れなかった。
──キキの突きに比べたら。蹴りに比べたら。こんなもの!
「俺は!」左足を踏み込む。
「俺は!」後ろになった右足で、地面を蹴り、突進する。
「なっ!?」間合いの内側に入り込まれた怪人が驚愕の声をあげる。
「俺は!ヒーローだああああぁ!!」
叫びながら突進の勢いを乗せた拳を敵の鼻っ柱に叩きつける。
「ぐぅ…っ!?」
よろけるその胴に、シオンは横蹴りを渾身の力で放った。
「でええぇえやぁ!!」
虚をつかれた怪人は真後ろに吹っ飛び、地面を転がる。
『フィニッシュムーブ スタンバイ!』
チェンジャーが鳴り響いた。