朝練
翌朝。キキから貰った湿布のおかげで、筋肉痛はほぼ治っていた。
朝食を済ませ、ストレッチ。そしてジョギング。
家に戻る前に階段下で蹴りの練習。まだキキのように風を切る音は出せないが、少なくとも前のへなちょこな蹴りよりはましだ。
「おー、朝から頑張ってんな兄ちゃん。」
ゴミ出しのために降りてきた鼠島がシオンに声をかける。
「ああ、うん。頑張ってる。」
「応援してるからな!じゃ!」
とゴミを出し終わった鼠島が手を振りながら階段を上がっていった。
「のんきだなー、あいつは……」
曲がりなりにも怪人とヒーローなのだから少しはギスギスするものではないのか?
そんな疑問がふと浮かんだが、なんの役にも立たない疑問だったのですぐに忘れシオンは蹴りの練習を再開した。
蹴りの練習を終わらせ、汗だくになったシオンはシャワーを浴びる。
こうシャワーばっかり浴びていては水代やガス代もバカにならない気もするが、まだ体が汚れたままでいることに対するトラウマが抜けない。
空になったボディソープのボトルが、スカッと空気を吐き出す。
「詰替え買ってこなくちゃな……」
シオンはボトルを眺めながら呟いた。
バイトを終わらせ、帰途。シオンは何気なく通り道の郵便受けの方を見た。
「あれ?あいつ……」どこかで見た背格好のフードの男が、ポストに何かを入れ去っていく。
──間違いない。こないだの取り逃したあいつだ。
足音を立てないように後をつける。
フードの男は、だんだんと人けのない路地に入っていく。
妙だ。こっちの方に住宅はなかったはず……
と、突然男は立ち止まり、振り返ることもなく言った。
「バレバレだぜ、後ろのやつ。」
「くそ、バレたか……」
「そんなお粗末な尾行じゃなぁ。何の用だ?ハンドルギアなら今日はもう品切れだぜ。明日また……」
「いや、お前に用がある。そんな危険なものバラまいてる理由、根城の場所、まとめて吐かせてやる。」
シオンは鞄からチェンジャーを取り出す。
「あー。あんたこないだのヒーローか。いいぜ、相手してやる。ちょうど爪が疼いてた頃だ」
男も上着のポケットからギアを取り出した。
「変身!」「ははは、変身か!ヒーローらしいや!」
二人は同時に変身する。シオンは緑の正義の戦士に。フードの男は冷酷な狼の怪人に。
「今度は逃がさないぞ、狼男!」「人狼って言ってくれよ、イモムシ!」
──誰がイモムシだ!
シオンは構えた。へっぽこだが、どこかか鋭さを感じさせるような構えだ。