蹴り
「よし、と。こんなもんかな」
数分後、キキはやっとシオンの足を開放する。
「蹴ってみ、ほら」
掌を示されるが、生まれたての子鹿のように立っているのでやっとな今のシオンには足を上げる余力はなかった。
キキは呆れたように掌を下ろした。
「よく今の今まで死なずに生きてるよなお前。めっちゃ運いいんじゃね?足上げるのきついんだったら屈伸屈伸。ほらいちにーさんしー」
体育の時間でよくやってたな、と思いながらシオンは膝を曲げ伸ばしした。
「少しは楽になったっしょ。じゃ、改めて。蹴ってみ」
再び差し出されたキキの掌めがけ、シオンは蹴りを放つ。
べち、と掌と靴が衝突した。
「ほら、だいぶ上がるようになったじゃん。」
さっきまでとは打って変わって、シオンの足はキキの首のあたりまで上がり、さらにまだ余裕があった。
「荒療治のちからってすげー……」
「次は蹴りの威力のなさをなんとかしないとねー。回し蹴りだと慣れないうちは予備動作も大きくなるし軸がブレやすいから、ある程度楽な前蹴りと横蹴りでもやってこっか。まず前蹴り」
と、キキは膝だけを持ち上げるように足を上げる。
「足の先端が地面から離れた地面との角度が変わらないように上げて……そのまま蹴る。蹴る動作3に対して引く動作を7くらいに意識するといいよ」
フォン、と風を切りキキが空を蹴る。
「こんな感じ。やってみ」
シオンも見様見真似で、言われたとおりに蹴る。
「お、筋がいいじゃん。上体反らさないように気をつけて、もっかい」蹴る。
「もっかい」蹴る。「もっかい」蹴る。
「両足30回ね。」
シオンの足は既に悲鳴を上げ始めていた。
シオンも悲鳴を上げたかったが、カッコつけたかったのでこらえた。
「次は横蹴り。蹴る方の足を軸足に沿わせて、足先をふくらはぎまで上げて……まぁ無理そうなら膝まででもいいけど……蹴る。ちょっと簡単だろ?」
バッ、と風を切るキキの蹴り。
見様見真似でシオンも蹴る。
「足の側面で蹴るようにな。あともう少しヒザを支点にしてひねるように蹴って」
蹴る。「お、いいじゃん。センスあるよお前。センスだけはな。はいあと30回。終わったらもう片方も。」
シオンの足は既に限界だった。
シオン自身も限界ではあったが、なんか強くなれそうだったので我慢した。
「あぁ……はあ……はあ……」
5分後。シオンは満身創痍だった。組手より蹴りの特訓の方がダメージが大きい気さえした。
「よし、今日はこのへんで終わり。蹴りは毎日両足百回ずつな。」
「そんだけやったら……強く……」
「そんだけで強くなれたらあたしは生身でヒーローやってるよ。ま、毎日やってたら多少マシになるんじゃない? あたしは明日も早いからそろそろ帰るよ。じゃあな赤点。いい夢見ろよ」
「あ、おやすみ……」
バイクの排気だけを残して、キキは帰っていった。
「つかれた……」
シオンは帰宅すると、シャワーも浴びず畳んだ布団の上に倒れ込んだ。