組手
「はあっ!」
シオンの反撃の一手目、えぐりこむような正拳突きをキキは手刀で受け流す。
「いいね!だけどまだ力任せだ!」
「ふっ!」「甘い!」
キキはシオンの下段蹴りをすくい上げ、体軸を崩す。
「くっ……」
体勢を立て直す間もなく、追撃の中段突き。シオンはまた尻餅をつく。
「まだまだぁ!」
立ち上がったシオンの正拳突きは円を描くように動いたキキの腕に巻き込まれ、そのまま腕を引っ張られ抑え込まれた。細い腕と指からは想像もつかないほど、強い力だ。
「これが掛手受けだ。あたしが怪力だって思うだろ?違うんだなこれが!」
説明しながらのキキの裏拳をシオンはかがんで避ける。
「いいね、もっとだ!」
キキに掛けられたままの手を回転して外し、その勢いのまま裏拳。曲げた肘で弾かれるが、返す刀の逆突きを見様見真似の手刀で払う。
「やるね!ならこれは!」
肘打ちを腕で跳ね上げ、逆の足で蹴りを…平手で止められ、また肘打ちを食らいそうになる。
「守りが甘い!」
シオンは膝を曲げる──肘が風を切りながら顔の前を通り過ぎる。
「回避ばっかじゃ息切れするよ!」
そう叫ぶキキは息一つ上がっていない。このままではシオンのスタミナ負けだ。
──次で決めなきゃ負ける。
「うおお!」
突きが払いのけられる。肘に掌底、右手がびりびりと痺れた。返すキキの後ろ回し蹴りをステップでかわし、逆の拳で正拳突きを──いや。
「おおおぉお!」
回転しながらの下段受けで、キキの前蹴りを弾き飛ばす。判断が遅れていればまともに食らっていた。
「うわっ!?」
キキがはじめて体勢を崩す。
「はあっ!…はぁ……」
その勢いのままの裏拳はキキのこめかみ……その手前で止まった。
「なんだよ。思いっきり当てりゃよかったのに。」構えを解いたキキが止まった裏拳を払い除け、少し残念そうに言う。
「やっぱ思いっきり殴るのはちょっと抵抗が……」
「はあ……お前にオンナノコ扱いされんの腹立つわ。まぁよく頑張った。赤点くんって呼んでやるよ」と、キキは握手の手を差し出す。
シオンはその手を取り、握った。
「まだ赤点か……」
「そりゃあな。あ、飲み物買ってきてやるよ。」
キキは手を離すと、自販機の方に駆けていった。