稽古
「あうあうあうあうあうあ……」
「まだ駄目か。根性ねーなぁ。」
シオンのアパートの前。また腑抜けになったシオンに腰を掴まれながら、ビップはため息をついた。
「ああ……ふう……はあ……もう……大丈夫。」
シオンは腰から手を離す。
「それは何よりだ、っと。」
ビップはシオンを抱きかかえ、地面に下ろす。
少しよろけながらもシオンはなんとか地面を踏みしめた。
「大丈夫か?」と、ビップ。
「あ、うん」まだどこか上の空でシオンは答える。
「よし、じゃあ明日から頑張れる元気も出たとこで稽古つけてやるよ。」
と言いながらビップは変身を解き、貴星の姿に戻る。
「あれ?変身して戦うんじゃ……」
「バカだなお前。ヒーロー二人開けたとこで戦ってたら目立つだろ。それに生身でもやることは変わらないんだ。さ、はじめようぜ」
「いや、女の子と戦うのはちょっと……」
「まあ、お前らしいな。けど敵はお前の事情なんかおかまいなしだぜ?てぇやっ!」と、キキはシオンに殴り掛かる。
「うわっ!?」間一髪でシオンはかわす。頬を拳がかする。「危なっ!何だよ急に!」
「敵は待ってくれねえぞ!お前が一本取るまであたしはお前の敵だ!」左の回し蹴り、細く長いキキの足が鞭のようにしなった。避けきれずシオンは右手で受け止める。「くっ……!」
あの華奢な足から繰り出されたとは思えないほど重い蹴り。右腕がビリビリとしびれる。
「どうしたぁ!次行くぞ!」
回し蹴りの勢いのまま、軸足を変えた後ろ蹴り。両手を交差させて受け止める。
「ううっ……!」
衝撃を殺しきれず、シオンはよろめく。
「りゃあっ!」
諸手突きをまともに食らう。
「せいっ!」
中段突きで後ろに吹っ飛ばされ尻餅をつく。
──やらなきゃマジで殺るつもりだ!
「情けねえな!これでトドメっ!」
容赦ない踵落としを、覚悟を決めたシオンはなんとか頭の上で止め、片足を掴んだまま足払いをかける。
バランスを崩したキキは両手を地面について転倒を避け、後方転回でシオンから距離を取った。
「やるじゃん。」
キキは嬉しそうに笑う。
「今度はこっちの番だ!」
シオンはへっぽこな構えで、拳を握りしめた。