吸収
「喰らうなら私を。だから……その子を離して」
「やめろ、ヴィーチェ。そんなことをする必要は……」
懇願するレドクスに、ヴィーチェはゆっくりと首を振る。
「──どのみち、私はもう長く生きられない。落下の時のダメージを取り繕ってはいるけど……なら、あの子のために使わなくては」
「そんな……嫌だ。嘘だと言ってくれ、ヴィーチェ……」
「……レドクス、貴方に会えて……よかった。キュステアのこと、頼むわね。愛してると、自分を責めないでと伝えてあげて」
ヴィーチェレドクスから目を背けるとキュステアを掲げるイドスによろめきながら近づいていく。
「さあ、その子を……」
「離すとでも思ったのか、お人好しが!」
「でしょうね。貴方のような下賤な輩ならそう言うと思っていたわ」
ヴィーチェの左腕が剣となり、キュステアを掲げていたイドスの腕を閃光のような速さで切り裂く。
「なっ……」
「レドクス!」
ヴィーチェは背後のレドクスにキュステアを放り投げ──イドスの群れの一体に丸呑みされた。
「ヴィーチェ‼」
レドクスはキュステアを抱えたまま突進し、イドスを蹴りつけ──だが、イドスは微動だにしない。
「ぐっ……これは……!」
「ハハハハ!素晴らしい!これが!王の一族のも力!」
ヴィーチェを食らったイドスの体が膨れ上がり、破裂する。その中から現れたのは、完全に人の姿を捨てた節足動物のような異形だった。無数の目が軟体動物のようにぬめついた全身に散らばり、ギョロギョロとレドクスを眺める。
「もはや貴様らに用は無い。せいぜい終わりの時を指を咥えて眺めていろ!」
波が引くように、イドスの群れはどこかへ去っていった。