バイク
「そうだ、お前バイクとか持ってたっけ?」
階段の下にはキキのものらしき重々しいフォルムのバイク。
「いや、無い…自転車なら。変身して漕げばバイクくらいの速度は出ると思う。」
「風情がないから却下。後ろ乗ってけよ。」
と、キキがバイクにまたがる。エンジン音が響くが、見た目より音は静かだ
「変身して走るとか……」
「一ミリの風情もないな。ごちゃごちゃ言わずに乗れよ。な?」
と、キキがシートの後ろをポンポンと叩く。
「じゃあ……失礼します」
「おう。ちゃんとつかまって足踏ん張れよ」
「つかまるって、どこに?」
「腰。」
「腰?」シオンは自分の腰に手を当てる。
「バカなの?あたしの腰だよ」
「……腰?」
シオンはキキの背中を見る。
華奢な腰。いくら考えないようにしても、それはシオンに否応なしに性別を意識させた。
「あの……変身してもらうとか、だめかな」
「なんだお前急に。童貞かよ」
シオンは押し黙る。
「マジ?確かにそんな感じはしてたけどさ」
「あー、うん……」
「まあ童貞なら仕方ないな。初回特別サービスだ」
キキは苦笑いすると、ポケットから装置を取り出した。
「変っ……身っ!」
『マスクドオン!V・I・P!ビップザスター!!』
派手な変身音とともに、キキはビップに変身した。
「これでいいだろ。掴まれよ。しっかりな」
「あ、うん。ありがとう」
シオンはビップの腰を掴み、そのスーツの無機質な感触に少し安堵を覚えた。
「よっしゃ行くぞー!!」
「え?うわああああ!」
ビップが急にアクセルを踏み込み、バイクは急加速する。
「ふぉ、ひぇえええええ!」
体感したことのない速度と風圧に、シオンは悲鳴を上げた。
お構いなしにビップはギアと速度を上げていく。
──魂抜けそう。しぬ。
シオンは数週間ぶりに神に祈ったが、いつもどおり特に何も起きなかった。