話
「あ、あのね、キュステア……ちゃん?」
群体船の廊下、ニルニはキュステアを見つけ、おずおずと話しかけた。
「誰?」
キュステアは首をかしげる。
「あ、ごめんね。私、ニルニって言うの。ちょっと話したくて……」
「いいよ。話し合いでいなくて退屈してたから。」
「そ、そう。よかった。えっと……あなたのお父さんとお母さんに伝えてほしいことが……」
そう言いかけて、ニルニは気がついた。キュステアがとても悲しそうな顔をしたことに。
──私……自分勝手だ。こんなふうに、この子の気持ちも考えずに、利用しようとして……
「あ、ううん。なんでもないの。あなたが地上に行ったって噂で聞いたんだ。どんなところだった?」
取り繕うように、ニルニは話題を変えた。
「地上?楽しかったよ!例えばね……」
キュステアの顔がぱっと明るくなり、せきを切ったように話し始めた。
「今度、ニルニも連れてってあげるね!」
数十分に渡り、キュステア地上の思い出に相槌を打ち続けたニルニは、彼女と手を振って別れた。
──遠回りだけど、いいんだ。あの子が笑顔じゃなきゃ、例え滅びを免れたって……
ニルニは拳を握りしめた。遠くで落胆の溜息をついた誰かがいたが、彼女はそれに気が付かなかった。