たらい
「で、何なんだこいつらは……」
備は呆れ顔で言う。
バーで典歌と話した翌日。彼女から戦闘要因の訓練が終わったと聞いてバーの地下、訓練施設まで来ては見たが──
「エンジンの担い手、オクターとタライの担い手、タイラタインよ。」
備えの目の前に佇むのは、鈍い銀色に輝く二人の戦士。デザインは全くと行っていいほど同じで、隻眼の色がそれぞれ赤と青なこと以外は何の違いも見られない。
「エンジンはまあいい。タライは……そもそもなんでこんな担い手が?地球の意思も耄碌したか?」
「あら、じゃあ戦ってみる?そこそこ以上にいい勝負になると思うわ」
「まあ貴重な戦力なのは変わりないしな。稽古つけてやるよ」
備はフェイラームに変身し、剣を生成し構えた。
「行くぜ!」
フェイラームは二人の戦士に向かって突進──その頭にどこからともなく金属のたらいが落下し、金属音を響かせる。
「そんな子供だましが──」
言いかけたフェイラームの頭に、十枚ほど重なった金属のタライが落下し、鈍い音を響かせた。
「任意の場所にタライを……アホ臭いが、意外と厄介な……だがなぁ!」
フェイラームは降り注ぐタライを両断し、間髪を入れずタイラタインを蹴り飛ばす──その足を、オクターが蹴り上げ、逸らす。
「ああ、いたのかお前も!」
「ハイオクを2リットル飲んだ俺は……無敵だ!うおおおおおお!」
ドルンドルンとエンジン音を響かせ、オクターは強烈な蹴りを放つ。フェイラームは刀の柄で受け流す。
「なるほど、パワーはいい!だが力押しじゃそのうち負けるぜ!例えば今とかなぁ!」
オクターを殴りつけようとするフェイラームの背中に何かが激突し、バランスを崩させた。
「何っ!?」
カランカランと地面に転がったのは、たらいだった。
「なるほど、投擲武器か……」
どうやらタイラタインはタライをフリスビーのように投げたようだ。正確な投擲はなかなかに驚異だった。
「よし、だいたいわかった。このへんで開きにするか」
フェイラームの声と、タイラタインとオクターが頭部に強い衝撃を感じ昏倒したのはほぼ同時だった。