教育者
「あら、また一人で飲んでる。友達いないのね、あなた」
得嗣が帰ってから数分。チリチリとなる鈴の音とともにバーに入るなり備に話しかけたのは、背の高い女だった。
「いや、さっき帰っただけで友達と来てたぜ?」
と、備はカウンターに中身の半分入ったグラスを置く。
「ふぅん、まあどっちでもいいけどね。聞いたとこだけど、なんかまずいのが増えてるって?」
「ああ、そうだな。まあなんとかなるさ、多分」
「多分!?多分じゃだめよ。確実にアイツらを倒しきらないと、いい加減死人が出てもおかしくないんだから……」
女は神経質に髪をかきあげる。柑橘のような香りが一瞬だけ空気を染め、消えた。
「それを防ぐために俺たちが過労死したら本末転倒だ。今は戦力が整うのを待たないと……そっちの首尾はどうなんだよ」
「火の担い手はもうすぐ戦力になると思うけど……ほかはまだいまいちね。」
「そうか。戦力部隊が俺含めて5人じゃだいぶ少ないからな。頼むぜ、教育の担い手。」
「その呼ばれ方、嫌いだって前も言わなかったかしら?ちゃんと名前で読んでよ。庠院でも典歌でもいいから」
「あー、はいはい。頼んだぞ典歌。そうだ、なんか飲むか?今日は奢るぜ!」
「そうね。ごちそうになるわ。マスター、この店で一番高いお酒を」
「えっ」
備がなにか言う間もなく、バーテンダーはカクテルを典歌の前のカウンターに置いた。